上 下
3 / 4

最初の狩り

しおりを挟む
貼り直したギターの弦、弾いてみた。悪くない。このギターはニコルが拾ってきたものだった。
あるいはどっかでかっぱらってきたか。そんな事はどうでもいい。

弦の高さを調整し終えると、俺はギターを弾いていった。

振動するブロンズの弦、調子は悪くなさそうだ。

「なあ、パウロ、一曲弾いて見せてくれよ」

噛み煙草をクチャクチャやりながらリクエストするミッキー、それじゃあ何がいいかな。
そうだ、あれにしよう。俺のお気に入りの曲。



おー、今朝早く、お前が部屋のドアを叩いた おー、今朝早く、お前が部屋のドアを叩いた

俺は言う「よう、悪魔、出かける時間かい」

俺と悪魔は並んで通りを歩いた 俺と悪魔は並んで通りを歩いた 

あの女をしこたまぶん殴ってやるんだ、俺の気が済むまで

女はこう言うだろうさ「なんでこんな酷い仕打ちをするのっ」
(先に酷い仕打ちをしたのはお前だろ。俺は仕返しするだけだ)

女はこう言うだろうさ「なんでこんな酷い仕打ちをするのっ」
深い地中に潜っていた邪悪な魂のせいに違いないさ

俺が死んじまったらハイウェイのそばに埋めてもいいぜ
(どうせ死んじまってるから関係ねえよ)

俺が死んじまったらハイウェイのそばに埋めてもいいぜ
そうすりゃ、俺の呪われた魂がグレイハウンドバスに乗り込めるからさ



ロバート・ジョンソンの名曲『ミー・アンド・ザ・デビル・ブルース』だ。
俺と悪魔のブルース。

ロバート・ジョンソン──伝説のブルースマン、偉大なるギタリスト、そして俺の青春。
俺は時代遅れのブルース小僧だった。

周りがロックやラップ、ヒップホップを好む中で、俺だけがブルースを弾いていた。

古臭いブルース、泥臭い曲、それでも俺はこいつが好きだ。

「すげえじゃねえか、パウロ、これなら食っていけるぜ」
目を輝かせるミッキーとニコル。

「ああ、すげえよかったぜ、もう一曲弾いてくれよ」
と、酒瓶を傾けながらニコルが言う。ニコルは酒が手放せない。アル中の六歳児。

「ああ、構わないぜ。っと、そう言えばジェイクはどうしてんだ?」

「それだったらシェリルが様子を見に行ったぞ」
茶色くなった唾を壺の中に吐きながら答えるミッキー、ジェイクが心配だ。

ローリンを失ったせいで、ジェイクはおかしくなってる。
愛する相棒を失った痛手、ジェイクの精神はトコトン参っちまってる。

放っておけば自殺しかねない。

「何か手土産持ってジェイクのとこにいこうぜ」
「そいつはいい考えだ」
俺はニコルの提案に賛成した。



路地裏に降り注ぐ冷たい雨、無舗装の道端は泥水のシチュー状態だ。くそ、泥水が跳ねやがった。
ジェイクの住んでいる大樽の中に入る俺達。

ポニーテールの少女──シェリルがジェイクにスープを飲ませていた。
「調子はどうだ、ジェイク?」

俺はジェイクの目を見た。疲れ切った老人を思わせる目の色、可哀想なジェイク。悲しいよな。

「……なあ、パウロ、俺は馬鹿だ。相棒を失って、初めて俺はあいつがどれだけかけがえの無い存在だったか気づいた。
いや、気づかされた。俺はあいつに依存していたのかもしれない。いや、実際、依存してたんだろうな……」

俺は黙ってジェイクの話に耳を傾けた。

「情けない話だが、何もかもが酷く億劫でな……正直、息をするのも面倒で仕方ない……」

「そんなこと言わないで元気を出して、ジェイク……」
ジェイクを慰めるシェリル、無言のミッキーとニコル、そして俺。

ジェイクに語りかける言葉が思いつかない。

「……そういえばお前ら、ドール兄弟から話を持ちかけられたか?」

おもむろに俺達に訊ねてくるジェイク、一体何の話だ?
「ドール兄弟の話ってなんだ?」

俺は聞き返した。

「ドール兄弟が下働きを探してて、俺達みたいな親なし宿無しのガキを集めてるんだよ。
ダロルの森にあるキラー・ウィード狩りと薬草の採取をやらせるためにな」


キラー・ウィード──植物系統のクリーチャーだ。森林なんかに生息している。

トゲのついた蔦に鋭い牙を持った動き回る雑草。

クリーチャーの中では一番弱いタイプに入るが、それでも駆け出しの冒険者や旅人が、
こいつらの群れに襲われて食い殺されることもある。

なんでもそうだが、どんな相手でも侮るなだ。

一匹自体は大したことがなくても、相手が群れて襲いかかってくれば、驚異になり得る。
ただ、そんなキラー・ウィードの根っこは煎じて飲むと痛み止めになり、干して燃やすと害虫避けにもなる。

一匹辺りが一五ジャッド、食堂のランチが五ジャッド、安宿なら個室で二十ジャッド、大部屋なら十ジャッドで泊まれるのを考えると、
二匹も狩ればそれなりに暮らしては行けるな。

というよりも一匹狩れば俺達の一日分の稼ぎになる。
ちなみにこれらの情報は酒場から仕入れたもんだ。

「それで俺も狩りと採取に参加しようと思ってんだ。いくらかピンハネされるだろうけどな。
でも、そんなことは関係ないし、どうでもいいことだ」

「なあ、ジェイク、お前、死ぬつもりか?」とミッキー。
捨て鉢になっているジェイク、こいつはキラー・ウィードに自分の身体を食わせるつもりだ。

「ってよりも俺は試したいんだ。この先、ローリンなしでやっていけるのか……」

「そういう事なら俺も参加する。俺達だって先はどうなるかわからねえ。せいぜいが傭兵か盗賊になるのが関の山だろうしな。
だったら今のうちに少しでもテメエの腕を磨いておきてえ」

口の中に噛みタバコを放り込み、ミッキーが言う。だけどミッキーはダチのジェイクが心配なんだろう。
だからジェイクについてやることにした。

俺の相棒はそういう男だからな。それで俺とニコルも一緒にやることにした。

シェリルは俺達を心配していたけど、まあ、何とかなるさ、やばけりゃすぐに逃げるよと言って説得した。

それでもシェリルは浮かない顔をしていたが。




草原を抜けて俺達は森の中へと進んだ。目当ての薬草を探す。茂みや木の根元に注意を払いながら。
ばらける孤児達、顔見知りもいれば知らない奴もいた。

キラー・ウィードの姿は見えない。このまま薬草の採取だけで終われば安全なんだけどな。

俺は手製の槍を片手に薬草を摘んでいった。腰にぶら下げた革袋に薬草を放り込んでいく。

働け、働けと、俺達を急かすドール兄弟の怒鳴り声──テメエらこそ働けってんだ。
それで革袋に薬草を詰め込んでいると、隣から悲鳴が上がった。俺はすぐに振り向いた。

キラー・ウィード──数は五匹。武器を持った孤児達が身構える。

俺は手前にいたキラー・ウィードの花弁状になっている頭の部分に手製の槍をぶっ刺した。

ここがキラー・ウィードの弱点だ。俺の槍で貫かれたキラー・ウィードが動かなくなる。お陀仏したか。
そうしてる内にミッキーがお得意の投げナイフで、キラー・ウィードを仕留めていた。

相変わらず惚れ惚れする腕前だぜ。残りは三体、全員に囲んでボコボコにした。
ちなみにドール兄弟は見ているだけだった。一体こいつら何の為にいるんだ?

それから俺達はキラー・ウィードを片付けると、薬草の採取を再開した。






(注意、ロバート・ジョンソンの『ミー・アンド・ザ・デビル・ブルース』は国内での著作権が切れてます)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

裏アカ男子

やまいし
ファンタジー
ここは男女の貞操観念が逆転、そして人類すべてが美形になった世界。 転生した主人公にとってこの世界の女性は誰でも美少女、そして女性は元の世界の男性のように性欲が強いと気付く。 そこで彼は都合の良い(体の)関係を求めて裏アカを使用することにした。 ―—これはそんな彼祐樹が好き勝手に生きる物語。

さようなら竜生、こんにちは人生

永島ひろあき
ファンタジー
 最強最古の竜が、あまりにも長く生き過ぎた為に生きる事に飽き、自分を討伐しに来た勇者たちに討たれて死んだ。  竜はそのまま冥府で永劫の眠りにつくはずであったが、気づいた時、人間の赤子へと生まれ変わっていた。  竜から人間に生まれ変わり、生きる事への活力を取り戻した竜は、人間として生きてゆくことを選ぶ。  辺境の農民の子供として生を受けた竜は、魂の有する莫大な力を隠して生きてきたが、のちにラミアの少女、黒薔薇の妖精との出会いを経て魔法の力を見いだされて魔法学院へと入学する。  かつて竜であったその人間は、魔法学院で過ごす日々の中、美しく強い学友達やかつての友である大地母神や吸血鬼の女王、龍の女皇達との出会いを経て生きる事の喜びと幸福を知ってゆく。 ※お陰様をもちまして2015年3月に書籍化いたしました。書籍化該当箇所はダイジェストと差し替えております。  このダイジェスト化は書籍の出版をしてくださっているアルファポリスさんとの契約に基づくものです。ご容赦のほど、よろしくお願い申し上げます。 ※2016年9月より、ハーメルン様でも合わせて投稿させていただいております。 ※2019年10月28日、完結いたしました。ありがとうございました!

異世界転生はもう飽きた。100回転生した結果、レベル10兆になった俺が神を殺す話

もち
ファンタジー
 なんと、なんと、世にも珍しい事に、トラックにはねられて死んでしまった男子高校生『閃(セン)』。気付いたら、びっくり仰天、驚くべき事に、異世界なるものへと転生していて、 だから、冒険者になって、ゴブリンを倒して、オーガを倒して、ドラゴンを倒して、なんやかんやでレベル300くらいの時、寿命を迎えて死んだ。  で、目を覚ましたら、記憶と能力を継いだまま、魔物に転生していた。サクっと魔王になって世界を統治して、なんやかんやしていたら、レベル700くらいの時、寿命を迎えて死んだ。  で、目を覚ましたら……というのを100回くりかえした主人公の話。 「もういい! 異世界転生、もう飽きた! 何なんだよ、この、死んでも死んでも転生し続ける、精神的にも肉体的にもハンパなくキツい拷問! えっぐい地獄なんですけど!」  これは、なんやかんやでレベル(存在値)が十兆を超えて、神よりも遥かに強くなった摩訶不思議アドベンチャーな主人公が、 「もういい! もう終わりたい! 終わってくれ! 俺、すでにカンストしてんだよ! 俺、本気出したら、最強神より強いんだぞ! これ以上、やる事ねぇんだよ! もう、マジで、飽きてんの! だから、終わってくれ!」  などと喚きながら、その百回目に転生した、  『それまでの99回とは、ちょいと様子が違う異世界』で、  『神様として、日本人を召喚してチートを与えて』みたり、  『さらに輪をかけて強くなって』しまったり――などと、色々、楽しそうな事をはじめる物語です。  『世界が進化(アップデート)しました』 「え? できる事が増えるの? まさかの上限解放? ちょっと、それなら話が違うんですけど」  ――みたいな事もあるお話です。 しょうせつかになろうで、毎日2話のペースで投稿をしています。 2019年1月時点で、120日以上、毎日2話投稿していますw 投稿ペースだけなら、自信があります! ちなみに、全1000話以上をめざしています!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

幼女からスタートした侯爵令嬢は騎士団参謀に溺愛される~神獣は私を選んだようです~

桜もふ
恋愛
家族を事故で亡くしたルルナ・エメルロ侯爵令嬢は男爵家である叔父家族に引き取られたが、何をするにも平手打ちやムチ打ち、物を投げつけられる暴力・暴言の【虐待】だ。衣服も与えて貰えず、食事は食べ残しの少ないスープと一欠片のパンだけだった。私の味方はお兄様の従魔であった女神様の眷属の【マロン】だけだが、そのマロンは私の従魔に。 そして5歳になり、スキル鑑定でゴミ以下のスキルだと判断された私は王宮の広間で大勢の貴族連中に笑われ罵倒の嵐の中、男爵家の叔父夫婦に【侯爵家】を乗っ取られ私は、縁切りされ平民へと堕とされた。 頭空っぽアホ第2王子には婚約破棄された挙句に、国王に【無一文】で国外追放を命じられ、放り出された後、頭を打った衝撃で前世(地球)の記憶が蘇り【賢者】【草集め】【特殊想像生成】のスキルを使い国境を目指すが、ある日たどり着いた街で、優しい人達に出会い。ギルマスの養女になり、私が3人組に誘拐された時に神獣のスオウに再開することに! そして、今日も周りのみんなから溺愛されながら、日銭を稼ぐ為に頑張ります! エメルロ一族には重大な秘密があり……。 そして、隣国の騎士団参謀(元ローバル国の第1王子)との甘々な恋愛は至福のひとときなのです。ギルマス(パパ)に邪魔されながら楽しい日々を過ごします。

異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!

アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。 ->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました! ーーーー ヤンキーが勇者として召喚された。 社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。 巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。 そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。 ほのぼのライフを目指してます。 設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。 6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

処理中です...