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幼い頃、ブリジットにとって自由奔放なカールは家という檻の中で一緒に寄り添ってくれる仲間でもあり、手を引いて檻から出してくれるヒーローでもあった。
幼い頃は特に行動を制限されていたこともあって、二人にとって町へ出かけることは憧れだった。
一度、二人はお目付役の目を盗んで町に繰り出したことがあった。町を見るのは初めてで、ブリジットは少し不安もあった。しかし、カールがしっかりと手を握っていてくれたので安心することができたのだ。
二人は町の市場まで来ていた。
ブリジットは、アクセサリーショップの前で足を止めた。偽物のルビーがついた指輪をじーっとみつめている。
「ほしいのか?」
「ううん!」
慌てて指輪から目を逸らすブリジットだが、またすぐに指輪に視線が行ってしまう。そんなブリジットを見てカールは笑いをもらす。
「ははっ、ブリジットはわかりやすいなぁ。おばちゃん! これちょうだい!」
「はいはい。それは二百クランだね」
「あ」
カールはポケットを探りながら、お金を持ってくるのを忘れたことに気づいた。
「ごめん。お金忘れちゃった」
「いいよ。私も持ってないし」
そう言ってブリジットは微笑む。カールが指輪を買おうとしてくれた事実が嬉しくて仕方がなかった。
そんな二人の様子を見た店のおばさんはあることを提案した。
「今日一日うちの手伝いをしてくれたら、この指輪はあげるよ」
「ほんとですか!? もちろん手伝います!」
「え!? いいよ、そこまでしなくても」
「いや、俺が君にプレゼントしたいんだよ。今日の日の記念に」
「うん……ありがとう」
ブリジットは顔を真っ赤にしてカールから目を逸らした。カールはそんな彼女の様子には気づいていないようだった。
そして一日働いてカールからプレゼントされたその指輪は他のどんな宝石よりも輝いて見えた。その後、町に行ったことがバレてお目付役に怒られたのもいい思い出だった。
ブリジットは今、その市場まで来ていた。今では以前のような賑やかさは消え失せている。
あのアクセサリーショップも見つけることができなかった。
ブリジットは地面にしゃがみ込んだ。
(まるであの時の記憶も消えてなくなったみたい……)
ブリジットは自嘲的な笑みを浮かべた。カールが指輪のことを忘れているだなんて思ってもいなかった。
あの指輪を持って行って昔話に花を咲かせることができれば、またあの頃のように話すことができるのではないか。そんな淡い期待はカールの一言で粉々に砕かれてしまった。
(昔のカールを追うのはもうやめたほうがいいのかしら……。だけど今さらこの気持ちを消すことなんてできない……)
ずっと堪えていた涙がついに溢れ出し、地面の土の色を濃くする。
するとぼやけた視界に、黒い小さなモヤのようなものが足元に映り込んだ。
目を擦ってよく見ると、それは成猫にしては少し小ぶりな黒猫だった。ブルーの美しい瞳だ。心配そうにブリジットを見つめながら、足元に擦り付いてくる。
「慰めてくれるのるの?」
ブリジットはふっと笑みをこぼした。黒猫はそれに応えるように「なー」と甘えた声を出した。
黒猫をそっと抱き上げて膝に乗せる。暖かくて柔らかい。彼女はそっと猫を抱きしめる。
すると猫は、ギョッとしたように目を見開いて逃げて行ってしまった。
ブリジットは、その後ろ姿を悲しそうに見つめた。
「また会えるかしら……」
黒猫のおかげで少し気分が晴れたブリジットは、毅然とした様子で立ち上がり、歩き始めた。
幼い頃は特に行動を制限されていたこともあって、二人にとって町へ出かけることは憧れだった。
一度、二人はお目付役の目を盗んで町に繰り出したことがあった。町を見るのは初めてで、ブリジットは少し不安もあった。しかし、カールがしっかりと手を握っていてくれたので安心することができたのだ。
二人は町の市場まで来ていた。
ブリジットは、アクセサリーショップの前で足を止めた。偽物のルビーがついた指輪をじーっとみつめている。
「ほしいのか?」
「ううん!」
慌てて指輪から目を逸らすブリジットだが、またすぐに指輪に視線が行ってしまう。そんなブリジットを見てカールは笑いをもらす。
「ははっ、ブリジットはわかりやすいなぁ。おばちゃん! これちょうだい!」
「はいはい。それは二百クランだね」
「あ」
カールはポケットを探りながら、お金を持ってくるのを忘れたことに気づいた。
「ごめん。お金忘れちゃった」
「いいよ。私も持ってないし」
そう言ってブリジットは微笑む。カールが指輪を買おうとしてくれた事実が嬉しくて仕方がなかった。
そんな二人の様子を見た店のおばさんはあることを提案した。
「今日一日うちの手伝いをしてくれたら、この指輪はあげるよ」
「ほんとですか!? もちろん手伝います!」
「え!? いいよ、そこまでしなくても」
「いや、俺が君にプレゼントしたいんだよ。今日の日の記念に」
「うん……ありがとう」
ブリジットは顔を真っ赤にしてカールから目を逸らした。カールはそんな彼女の様子には気づいていないようだった。
そして一日働いてカールからプレゼントされたその指輪は他のどんな宝石よりも輝いて見えた。その後、町に行ったことがバレてお目付役に怒られたのもいい思い出だった。
ブリジットは今、その市場まで来ていた。今では以前のような賑やかさは消え失せている。
あのアクセサリーショップも見つけることができなかった。
ブリジットは地面にしゃがみ込んだ。
(まるであの時の記憶も消えてなくなったみたい……)
ブリジットは自嘲的な笑みを浮かべた。カールが指輪のことを忘れているだなんて思ってもいなかった。
あの指輪を持って行って昔話に花を咲かせることができれば、またあの頃のように話すことができるのではないか。そんな淡い期待はカールの一言で粉々に砕かれてしまった。
(昔のカールを追うのはもうやめたほうがいいのかしら……。だけど今さらこの気持ちを消すことなんてできない……)
ずっと堪えていた涙がついに溢れ出し、地面の土の色を濃くする。
するとぼやけた視界に、黒い小さなモヤのようなものが足元に映り込んだ。
目を擦ってよく見ると、それは成猫にしては少し小ぶりな黒猫だった。ブルーの美しい瞳だ。心配そうにブリジットを見つめながら、足元に擦り付いてくる。
「慰めてくれるのるの?」
ブリジットはふっと笑みをこぼした。黒猫はそれに応えるように「なー」と甘えた声を出した。
黒猫をそっと抱き上げて膝に乗せる。暖かくて柔らかい。彼女はそっと猫を抱きしめる。
すると猫は、ギョッとしたように目を見開いて逃げて行ってしまった。
ブリジットは、その後ろ姿を悲しそうに見つめた。
「また会えるかしら……」
黒猫のおかげで少し気分が晴れたブリジットは、毅然とした様子で立ち上がり、歩き始めた。
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