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最終章

エピローグ その後、彼らは

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「ケイトリン! チーズの試食してくれた?」

「ええ。とてもおいしかったわ」

ケイトリンは化粧っけのない顔、そして質素な服に身を包んでいた。以前の宝石をたくさんつけていた彼女からは想像もできない姿だ。

「早くお金を貯めて少しでもビアンカを手助けをしなきゃね」

ビアンカが修道院で、働きながら罪を償っていることを聞いた時、ケイトリンは衝撃を受けた。しかし、彼女がそのように育ったのには自分の責任もあるのだと。

「うん。私に出来るのはそれくらいだもの」

ケイトリンは視線を落とし、テーブルの上の新聞を見つめる。

新聞には、女神・レイラ・フォーサイスの名前が載っている。

「レイラにももう恥ずかしくて会いには行けないけど、こうして活躍を見れるのは嬉しいわ」

彼女は穏やかな笑みで、レイラの文字を指でさすった。

そんな彼女をハリスが抱き寄せる。

「これから罪を償っていけばいいさ。人間いつでもやり直せるんだから」

「ええ、ありがとう」

ケイトリンは静かに涙を流した。


■■■


ビアンカは修道院で、禁欲的な日々を送っていた。

(この私がこんな暮らしをさせられるなんて)

彼女はレイラのあの赤い眼を思い出して身震いする。
それと同時にチェイスの美しい瞳を思い出し、胸がずきりと痛む。

魔物だとわかった今でもチェイスに対する想いは消えていなかった。だから、好きな人に欺かれることがどんなことなのか、今は身に染みてわかっていた。
ビアンカはしっかりと刻み込まれた顔の傷跡にそっと触れた。

だが、彼女が過去の行いを悔いることはない。働き蜂が女王のために働くのは生物として当然のことだから。

「ビアンカさん。面会の方が来ていますよ」

彼女たち罪人を管理している神父が声をかける。
ビアンカはため息をつく。

(また来たのね。うっとおしい)

彼女が面会室まで足を運ぶと、そこにはアンジェロがいた。そのみすぼらしい格好にビアンカは鼻で笑った。

「もう来ないでよ。王家に縁を切られた平民のあなたに用はないわ。それに私の顔の傷はずっと残るのよ」

「傷なんて関係ないよ。僕は何度だってここに来る。兄さんたちへの劣等感に苛まれていたときに君は僕を救ってくれた。僕は今でも君が好きなんだ」

「あれは全部嘘よ。間に受けないでよ」

「嘘でも、僕が救われたことは事実だよ」

アルジェロは真剣な眼差しを向けるが、ビアンカは迷惑そうな顔で爪をいじっている。

「ごめん、迷惑だよね。でも明日も来るよ、君の顔を見るために」

「……」

アンジェロが帰った後、ビアンカは自身とは柵で阻まれているアンジェロが座っていた椅子をただじっと見つめていた。


■■■

サイラスは精神病棟の職員に案内され、ベネディクトの病室まで来ていた。

部屋へ入ると、窓の外の夕日をぼうっとした様子で見つめる、ベネディクトがいた。

「ベネディクト」

サイラスが声をかけると、ベネディクトは嬉しそうに目を輝かせた。

「お父様っ!!」

その瞳は幼い頃の彼と同じものであった。
精神科の先生曰く、ベネディクトは強いストレスから精神年齢が低くなってしまったらしい。

今、彼の目の前にいるのは優秀な後継者である十七歳のベネディクトではない。

サイラスはその光景に唖然として、静かに涙を流した。

ダイガ町に、調査が入ったことで自身が魔物を解き放った当事者だということが明らかになり、彼は責任を取る形で爵位を手放すことになった。代々続いてきたローズブレイド男爵家は彼の代で終わりを迎えたのだ。

家から解き放たれた彼に残ったものは何もなかった。そこで初めて、自身が手放したものの大きさに気づいたのだ。

「ベネディクト。すまなかった」

「どうしたの? お父様」

膝をついて謝るサイラスをベネディクトは不思議そうに見つめた。

「家に帰ろう」

「うん!」

サイラスが差し出した手をベネディクトは嬉しそうに掴む。子供に手を差し伸べるのは初めてだった。

「実は父さん、今は小説を書いてるんだ。その売れ行きがまあまあ良くてな……。帰ったら美味いものでも食わしてやろう」

彼の手にはある本が握られていた。
その題名は『時間が巻き戻った私~今度こそ家族を幸せにします~』というものだった。

家族を蔑ろにしてきた男が家族に殺され、過去に逆行し、今度は家族を大切にしていくという話だ。斬新なストーリーが話題になっている……らしい。
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