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最終章
47話 お父様にも同じ苦しみを
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私たちはそれからエレオス診断所を作り、人間に憑いている魔物を追い出した。その時に、ノアのお母さんを殺した魔物の手がかりを探したが、なかなか情報は集まらなかった。
本当に心臓を食べた魔物がいるのか、心臓を食べると不死身になれるという噂は本当なのか、すべて不確かなままである。
しかし、現在不死身であるという魔物は発見されていない。発見されれば、それがノアの仇なんだろうけど。
徐々に受診する人の数は増え、忙しくなってくる。
「レイラ~! 見てよ! この新聞!」
ペンギンのような走り方でアルフが部屋に入ってくる。
「どうしたの?」
私は、アルフが指差している新聞記事を見つめる。
「……フォーサイス領地の女神!?」
そこには、私のことが書かれていた。
『人々から魔物を追い払う浄化の女神、レイラ・フォーサイス』
苗字がおかしなことになってるけど、これは私のことだ。
「確かに最近人も増えて評判が上がってきたと思ってたけど、新聞にまで載っちゃうなんて! しかも女神だって!」
「……なんか女神ってのは嫌だなあ」
私はかつて女神と呼ばれていた姉様のあの笑顔を思い出して寒気がした。
「でもこれでますます人気になるよ!」
それから数日後、アルフの言葉通り診断所には多くの人が訪れるようになった。それと同時に、フォーサイスの土地も徐々に潤いを取り戻す。
みんなが私を女神だと称え、助けを求める。魔女と呼ばれて石を投げられていた時とは大違いだ。
「次の方どうぞ~」
リズが診断室の扉を開く。
「……!?」
私は入ってきた人物を見てつい後退りしてしまう。
それは、ずいぶんとやつれたお父様だった。いや、もうお父様ではないか。
いつも丁寧に撫で付けていた髪は今やぼさぼさで、頬はこけ、目の下のクマが目立つ。一言で表すと汚い。
「……レイラ」
「なにしにきたんですか? ローズブレイド男爵」
「君が町を出てから大変だったんだ。魔物はたくさんいるし、使用人は魔物に憑かれるし……」
「そうですか」
使用人のは今まで私が祓っていたからね。
「そうですかとは冷たいじゃないか。使用人からも聞いたし、この新聞も見た。君は魔女ではなく女神だったんだな。すべては誤解だった。もう一度、家に戻ってきてくれ」
はぁ……言うと思った。私が戻れば、ダイガ町も潤うし、魔物もある程度排斥されるからね。
「なぜですか? すでに縁は切れているはずですが」
「だからもう一度教会簿に入れてやると言ってるんだ! なぜ喜ばない!」
ローズブレイド男爵は近くの机をバンっと叩く。顔は真っ赤で目は血走っている。
まったくこの人は……バカなんだろうか。この状況で、私が喜ぶとでも?
もう私にとってローズブレイド家なんてどうでもいいのに。
「お帰りください」
「待て! 待て待て待て……。帰ってきてくれるのならなんでもやる。何が欲しい? ダイヤモンドか? ドレスか?」
みっともなく縋りつこうとする男爵を私は一蹴する。
「私は、お母様や姉様とは違うんですよ。そんなものいりません。お帰りください。後がつかえてますから」
「頼む! 戻ってきてくれ! 悪かった!」
男爵は土下座して私に縋りつく。つい、私は笑いが漏れてしまった。
あれだけ邪険にしてきたのに今ではこれだ。滑稽で仕方がない。どこまでも利益でしか動かない人なんだ。
この状況はすべて自分が作ったものだという自覚がない。
「謝ったってもう遅いんですよ。これからせいぜい今までの非道を悔いてください」
私は騎士団の人に無理矢理彼を追い出してもらった。最後まで何か喚いていたが、私の耳には入らなかった。
■■■
その後、私はフォーサイス公爵に呼ばれ、彼の書斎を訪ねた。
「失礼します」
「やぁ。調査の結果が出ましたよ。確かにあの魔石は多くの魔物を封印していたようですね。そして、それをローズブレイド男爵が壊した証拠もあります」
公爵は、紐で止められた封筒を私に渡した。
「ありがとうございます」
「いえ、お礼を言うのは私のほうですよ。おかげでフォーサイスの土地は活気を取り戻しつつある」
公爵は、穏やかな笑みを浮かべた。
「だけど、私には理解し難いですね。私にとって家族は何よりも大切で自分の核ですから。家族を陥れようとするあなたの気持ちはよくわかりません」
「そうですか。私もそう思えるような家庭に生まれたかったです」
私は少しだけ笑みを浮かべて、書類を受け取ると部屋を後にした。
部屋に戻るとすぐに、密告の準備に取り掛かった。
これでお父様はもう終わりだ。爵位は取り上げられて、今まで築いてきたものはすべてなくなる。でも、そばに家族がいないのは自己責任だけど。
「ふぅ……」
これで復讐は終わった。すべて奪った。私が味わった苦しみを家族に味あわせてやったのだ。
これからは、自分のために生きよう。そして、私はこれから幸せになるんだ。
※次回で最終回になります。お付き合いありがとうございました。
本当に心臓を食べた魔物がいるのか、心臓を食べると不死身になれるという噂は本当なのか、すべて不確かなままである。
しかし、現在不死身であるという魔物は発見されていない。発見されれば、それがノアの仇なんだろうけど。
徐々に受診する人の数は増え、忙しくなってくる。
「レイラ~! 見てよ! この新聞!」
ペンギンのような走り方でアルフが部屋に入ってくる。
「どうしたの?」
私は、アルフが指差している新聞記事を見つめる。
「……フォーサイス領地の女神!?」
そこには、私のことが書かれていた。
『人々から魔物を追い払う浄化の女神、レイラ・フォーサイス』
苗字がおかしなことになってるけど、これは私のことだ。
「確かに最近人も増えて評判が上がってきたと思ってたけど、新聞にまで載っちゃうなんて! しかも女神だって!」
「……なんか女神ってのは嫌だなあ」
私はかつて女神と呼ばれていた姉様のあの笑顔を思い出して寒気がした。
「でもこれでますます人気になるよ!」
それから数日後、アルフの言葉通り診断所には多くの人が訪れるようになった。それと同時に、フォーサイスの土地も徐々に潤いを取り戻す。
みんなが私を女神だと称え、助けを求める。魔女と呼ばれて石を投げられていた時とは大違いだ。
「次の方どうぞ~」
リズが診断室の扉を開く。
「……!?」
私は入ってきた人物を見てつい後退りしてしまう。
それは、ずいぶんとやつれたお父様だった。いや、もうお父様ではないか。
いつも丁寧に撫で付けていた髪は今やぼさぼさで、頬はこけ、目の下のクマが目立つ。一言で表すと汚い。
「……レイラ」
「なにしにきたんですか? ローズブレイド男爵」
「君が町を出てから大変だったんだ。魔物はたくさんいるし、使用人は魔物に憑かれるし……」
「そうですか」
使用人のは今まで私が祓っていたからね。
「そうですかとは冷たいじゃないか。使用人からも聞いたし、この新聞も見た。君は魔女ではなく女神だったんだな。すべては誤解だった。もう一度、家に戻ってきてくれ」
はぁ……言うと思った。私が戻れば、ダイガ町も潤うし、魔物もある程度排斥されるからね。
「なぜですか? すでに縁は切れているはずですが」
「だからもう一度教会簿に入れてやると言ってるんだ! なぜ喜ばない!」
ローズブレイド男爵は近くの机をバンっと叩く。顔は真っ赤で目は血走っている。
まったくこの人は……バカなんだろうか。この状況で、私が喜ぶとでも?
もう私にとってローズブレイド家なんてどうでもいいのに。
「お帰りください」
「待て! 待て待て待て……。帰ってきてくれるのならなんでもやる。何が欲しい? ダイヤモンドか? ドレスか?」
みっともなく縋りつこうとする男爵を私は一蹴する。
「私は、お母様や姉様とは違うんですよ。そんなものいりません。お帰りください。後がつかえてますから」
「頼む! 戻ってきてくれ! 悪かった!」
男爵は土下座して私に縋りつく。つい、私は笑いが漏れてしまった。
あれだけ邪険にしてきたのに今ではこれだ。滑稽で仕方がない。どこまでも利益でしか動かない人なんだ。
この状況はすべて自分が作ったものだという自覚がない。
「謝ったってもう遅いんですよ。これからせいぜい今までの非道を悔いてください」
私は騎士団の人に無理矢理彼を追い出してもらった。最後まで何か喚いていたが、私の耳には入らなかった。
■■■
その後、私はフォーサイス公爵に呼ばれ、彼の書斎を訪ねた。
「失礼します」
「やぁ。調査の結果が出ましたよ。確かにあの魔石は多くの魔物を封印していたようですね。そして、それをローズブレイド男爵が壊した証拠もあります」
公爵は、紐で止められた封筒を私に渡した。
「ありがとうございます」
「いえ、お礼を言うのは私のほうですよ。おかげでフォーサイスの土地は活気を取り戻しつつある」
公爵は、穏やかな笑みを浮かべた。
「だけど、私には理解し難いですね。私にとって家族は何よりも大切で自分の核ですから。家族を陥れようとするあなたの気持ちはよくわかりません」
「そうですか。私もそう思えるような家庭に生まれたかったです」
私は少しだけ笑みを浮かべて、書類を受け取ると部屋を後にした。
部屋に戻るとすぐに、密告の準備に取り掛かった。
これでお父様はもう終わりだ。爵位は取り上げられて、今まで築いてきたものはすべてなくなる。でも、そばに家族がいないのは自己責任だけど。
「ふぅ……」
これで復讐は終わった。すべて奪った。私が味わった苦しみを家族に味あわせてやったのだ。
これからは、自分のために生きよう。そして、私はこれから幸せになるんだ。
※次回で最終回になります。お付き合いありがとうございました。
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