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最終章

43話 思い出す記憶

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リズとアルフはあれから随分と仲良くなったようで、アルフがお菓子の作り方をリズに伝授していた。

ノアはその様子を見て少しだけ嬉しそうだった。
たしかにアルフがノア以外の人間と親しくしているのを見るのは初めてだ。いつもノアのことを気にかけてばかりいたんだろう。

ノアはこれからもエレオス騎士団として悪さを働く魔物を退治し、母親を殺した魔物を見つけるつもりなのだという。

私たちは今、フォーサイスの土地に向かうための荷造りをしている。
まぁ、私は荷物なんてほぼないんだけどね。あんな父親のお金で買ったものなど持っていたくもない。

「よかったなぁ。レイラが来てくれることになって」

アルフがノアを肘でつつく。

「別に……」

「でも、ノアはレイラが大好きだもんなぁ!」

「え? そうなの?」

私がノアを見つめると、彼は顔を真っ赤にして抗議する。

「そんなわけないだろ! 余計なこと言うな!」

そんなノアの様子を見て、私とアルフは笑い合う。最近はこんなやりとりが日常茶飯事で毎日が楽しい。

家から出てきたリズが馬車に積み込む荷物を重そうにしていたのでノアはそれを手伝いに行った。

アルフは荷物を馬車に乗せているノアの様子をちらちら見ながら、私の方にやって来る。

「実はさ……」

ひそひそ声でアルフは私に話し出す。

「オレ、町でチェイスにあったことがあったんだよね。その時は気づかなかったんだけど、この間声を聞いてわかったんだ」

「そう、なんだ」

私は最後に会った時のチェイスを思い出す。彼の怪我は治っただろうか。

「それでさ、その時チェイスが名乗ったのが金平糖の妖精だったんだけど何か心当たりある?」

「金平糖の妖精?」

その言葉を聞いて私はひどく心が動く。

『金平糖の妖精さん!』

五歳の時の私の声が頭の中で響く。
頭にずきりと痛みが走る。私の中の奥底に沈むものが無理矢理引き上げられていく。

「ほんとにチェイスが金平糖の妖精だと名乗ったの!?」

アルフは私の気迫に驚きながら、頷いた。

その瞬間、今までの彼の行動や発言がすべて一致した。
全部思い出した。私の唯一の味方。
金平糖の妖精さんはチェイスだったんだ。

どうして忘れていたんだろう。当時の私には金平糖の妖精さんが全てだったのに。

本当にチェイスが金平糖の妖精さんなのだとしたら、私は彼を探さなくてはならない。彼をあのままにはしておけない。

「ねぇ、ミカエル」

私が呼ぶと、ミカエルは私の手のひらに姿を現す。

「なんでしょう」

「今は、チェイスと交信してるの? 私の映像を共有してる?」

「それが……。少し前から応答がなく、共有もできない状況なんです。チェイス様が自発的に拒まれているのか、それとも何かチェイス様の身に起こったのか……」

ミカエルはしょんぼりとした様子で、喉をひくひくと動かす。

チェイスの身に何かあったのかもしれないと聞き、私の足は勝手に走り出していた。

背後からノアが私を呼ぶ声が聞こえたが、私の足は止まらなかった。

とにかくチェイスをみつけなければ……。
考えるのはそれからだ。
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