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第三章

番外編 世界は私を中心に回っている(ビアンカ視点)

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私の人生は今まで完璧だった。欲しいものはなんでも手に入ったし、みんなが私のことを好きだった。

それも当然。だって私は女神だから。みんなに愛される資格がある。

だけど、レイラが生まれてから少しだけ私への注目度が減った。レイラは三歳くらいの頃に魔物を惹きつける体質だと判明した。それから両親は魔物対策に必死で、以前のように私を可愛がってくれなくなった。

だから奪い返した。レイラのものは全部私のものでないと気が済まない。

私はレイラと違って美貌も持っている。だから、男たちはみんな私の虜だ。
彼らは女王である私に蜜を運んでくる働き蜂なのだ。

でも、私はなんの努力もしなかったわけではない。どうすれば好かれるのか。言葉遣い、仕草、視線などを徹底的に研究した。
そこで、コンプレックスを持つ男は少し優しくするだけですぐに私の虜になることを学んだ。

レイラと私では月とスッポンほどの差がある。だからあのノアとかいう男のことは理解できなかった。まぁ、蓼食う虫も好き好きというし、そういう珍しい人種もいるんだろう。

私がみんなに好かれるのはこの美貌と、努力の結果であり、レイラが奪う権利なんてなかったのだ。

アンジェロ王子は少し頭が弱いが、権力を手に入れるには打ってつけの働き蜂だった。もちろん愛なんてない。私は今まで誰かを愛したことなんてない。それは、あの家で育ったのだから当然だろう。

すべては順調。やはり世界は私のために回っている。

そう思っていたのに……。
あの日、レイラがすべてを台無しにした。

よりにもよって私の働き蜂たちは、女王である私に針を向けてきたのだ。
私は何も悪いことなんてしていないのに。

修道院? あんなところは私には似合わない。私にはすべて最高級のものが似合うのに。

だけど、ずっとレイラに言われた言葉が引っかかっていた。

「誰かを愛せない姉様の方が私よりずっとかわいそうに見えます」

レイラの声が頭の中に響く。

私は考えのまとまらない頭で街に出ていた。もちろん、監視はされている。

そこで出会ったのだ。運命の人に。
彼は、人のものとは思えないほど美しく、妖艶であった。今まで見たどんなものよりも美しい。

私のすべてを捧げてでも彼を手に入れたい。
こんな気持ち初めてだった。 
彼は、私がレイラにされた所業を話すと静かに相槌を打ってくれる。

彼もきっと私のことが好きなはずよ。

私は今から彼に会いに行く。明日から修道院に行くけど、彼が毎日会いに来てくれると思うと何も怖くない。


彼はいつもの川辺にいた。

「やぁ」

吸い込まれるような銀の瞳に私は虜になる。

胸が高鳴っている。こんなこと今までになかったわ。

「こ、こんばんわ」

「今日はどうしたの?」

「えっと、あなたに話があって……」

「へぇ」

彼は目を細めて私を見つめた。
これは私の告白を期待してる顔だわ……!

「私……あなたのことが好きなの。だから毎日修道院にも来てほしいの」

「どうして?」

「ど、どうしてって……。だってあなたも私のことが好きなんでしょ?」

「は? そんなわけないだろ」

「……え?」

彼の目は冷え切っている。私を見下すような嘲笑うような……。

どうして? 私を好きにならない理由なんてないじゃない……。

「お前ってほんと愚かだよね。ずっとレイラの視界に入るたびに胸の辺りがザワザワしてたんだ」

レイラ? なんの話?

「最近は少しだけ人間の感情が理解できる。これってむかついてたんだろうね。そう思わない?」

彼が笑顔で近づいてくる。私は思わず後退りした。涙が出そうで喉の奥が痛い。

「嘘よね? 私は本気であなたのことを愛してるの! あなたにだったら何だってしてあげる!!」

「うるさいな。その汚い口を閉じろ。何度その口でレイラを傷つけてきた? その自覚がないのか?」

「ねぇなんでレイラなんて気にするの? あんな底辺の女」

彼は私の話を聞いていないようだった。視線を上に向け、何かを考えている。

「そうだ。前にレイラはお前の顔をズタズタにしたいって言ってたな。今やったらレイラ、喜んでくれるよね?」

彼が無邪気な笑みを浮かべて、さらに私に近づいてくる。
ふと、彼の右手をみるとそれは人間のものではなく、竜のような大きな手に変化していた。

「……え?」

恐怖で息が圧迫される。
でも、月光に照らされる彼は異常なまでに美しく、私は恍惚的な感覚に囚われ、その場から動けなくなってしまう。

そして、彼の長く鋭い爪が怪しく光った。

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