上 下
37 / 61
第三章

31話 復讐のクローバー

しおりを挟む
姉様とアンジェロ王子の結婚準備は着々と進んでいるようだった。
もちろん、私の準備もしっかり進めている。

あれからチェイスは度々私の前に現れるようになった。相変わらずノアのことは聞けずにいたが、私にはどうしても悪い魔物には思えなかった。

意外とチェイスは聞き分けがいい。私がダメだと言ったことはしないし、復讐の準備も手伝ってくれる。
ただ、手伝った後は私に「喜んでる?」といちいち確認してくるのが謎だ。
なんか私懐かれてるのかな……。



今日の目的はただひとつ!
ビアンカ姉様を煽りまくること!

どんなことでもいいから彼女には失言してもらわないと。

私は姉様の部屋の扉をノックする。

「どうぞ~」

明るく呑気な声が中から聞こえる。
部屋へ入ると、姉様がテーブルの上にたくさんのカードを並べていた。結婚式の招待状だ。

「ちょうどいいところに来てくれたわね。レイラはどのデザインがいいと思う?」

招待状を一通り眺めた後、私は四葉のクローバーとシロツメグサのイラストが描かれたカードを指差す。

「これがいいと思います。クローバーの花には『幸運』という意味があります。姉様には幸せになってほしいですから」

「そう? じゃあこれにしようかしら」

一見、仲の良い姉妹の会話だが私たちの視線はお互いに探り合っている。

クローバーは『幸運』という意味の他に『復讐』という意味を持つ。
これは幸運の結婚式への招待状ではない。私の復讐のショーへの招待状なのだ。

「でもよく結婚を認めてもらいましたね」

「そうでしょう? アンジェロ様ったら私以外の女性とは生涯結婚しないと宣言したの。まぁ、女癖の悪い噂が広がるよりは、私と結婚させる方がいいと思ったんじゃない? それにほら、私は傾国の美人だし?」

姉様が自慢げに笑う。今日は機嫌が良さそうだ。
まっ、これから私が悪くさせるんだけど!

「そういえば姉様、この紙なんだと思いますか?」

私はフィリップ様からもらった紙を姉様の前に置く。もちろんノアの名前は消してある。

「さぁ? 誰なの、この人たち」

「しらばっくれないでくださいよ~。姉様がハニートラップにかけて、今まで貢がせてきた男たちじゃないですか」

「なんのこと? ねぇ、レイラ。この前のこと忘れたの? また同じ目に遭いたい?」

姉様は招待状を見つめたまま、声色だけを変化させた。
今度は怯まない。

「これって詐欺なんじゃないですか? それなのに自分だけ幸せになろうだなんて、虫が良すぎます。その男性たちがかわいそうですよ」

「その人たちは好きで貢いでくれたのよ。私の意図じゃないわ」

姉様が少し苛つき始める。

「いえいえ、計算の内に入っていたでしょう。姉様はやはりお母様の血が流れてますね」

「それどういう意味?」

「男に媚びを売ることしかできない能無しという意味です」

「あなたね……っ!」

誰からも貶されたことがほとんどない姉様は、少しの油を注ぐだけで激しく燃え上がる。

「姉様にとって男性は自分が幸せになるための道具でしかないんでしょ?」

「だったら何!? 誰からも愛されないあんたなんかに言われたくないわ! 男は黙って私に従えばいいのよ! 奴隷のようにね!」

「じゃあ姉様は彼らのことを愛してはいないんですね」

私は令息たちの名前が書かれた紙を見せびらかす。
すると姉様は嘲笑的な笑みを私に向けた。

「愛なんてあるわけないでしょ! そんな奴らお金がなければ用無しよ。私に釣り合わないもの。私がかまってあげてるんだからお金を払うのは当然のことよ? あんたはせいぜいあの没落貴族で我慢してればいいわ!」

没落貴族とはノアのことだろう。フォーサイス公爵家の領地では魔物と人間のハーフを保護している。そのため、あまり人間が寄りつかず、土地としては繁栄しているとは言えない。

でも、ノアに媚を売っていたくせによく言うわね。

「誰かを愛せない姉様の方が私よりずっとかわいそうに見えます」

「……」

姉様は虚をつかれたように、何も答えなかった。
いつもほしいものを与えられてきた姉様。でも、彼女は誰かに与える喜びを知らないのだ。姉様が与えるのは、結局自分のためだ。

「……姉様の結婚式、楽しみにしていますよ。きっと姉様の晴れ舞台になるでしょうから」

そう吐き捨てて私は部屋を出た。
姉様は何か考え込んだように、結婚式の招待状を眺めていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に召喚されたけど、従姉妹に嵌められて即森に捨てられました。

バナナマヨネーズ
恋愛
香澄静弥は、幼馴染で従姉妹の千歌子に嵌められて、異世界召喚されてすぐに魔の森に捨てられてしまった。しかし、静弥は森に捨てられたことを逆に人生をやり直すチャンスだと考え直した。誰も自分を知らない場所で気ままに生きると決めた静弥は、異世界召喚の際に与えられた力をフル活用して異世界生活を楽しみだした。そんなある日のことだ、魔の森に来訪者がやってきた。それから、静弥の異世界ライフはちょっとだけ騒がしくて、楽しいものへと変わっていくのだった。 全123話 ※小説家になろう様にも掲載しています。

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

【完結】バッドエンドの落ちこぼれ令嬢、巻き戻りの人生は好きにさせて貰います!

白雨 音
恋愛
伯爵令嬢エレノアは、容姿端麗で優秀な兄姉とは違い、容姿は平凡、 ピアノや刺繍も苦手で、得意な事といえば庭仕事だけ。 家族や周囲からは「出来損ない」と言われてきた。 十九歳を迎えたエレノアは、侯爵家の跡取り子息ネイサンと婚約した。 次期侯爵夫人という事で、厳しい教育を受ける事になったが、 両親の為、ネイサンの為にと、エレノアは自分を殺し耐えてきた。 だが、結婚式の日、ネイサンの浮気を目撃してしまう。 愚行を侯爵に知られたくないネイサンにより、エレノアは階段から突き落とされた___ 『死んだ』と思ったエレノアだったが、目を覚ますと、十九歳の誕生日に戻っていた。 与えられたチャンス、次こそは自分らしく生きる!と誓うエレノアに、曾祖母の遺言が届く。 遺言に従い、オースグリーン館を相続したエレノアを、隣人は神・精霊と思っているらしく…?? 異世界恋愛☆ ※元さやではありません。《完結しました》

【完結】愛とは呼ばせない

野村にれ
恋愛
リール王太子殿下とサリー・ペルガメント侯爵令嬢は六歳の時からの婚約者である。 二人はお互いを励まし、未来に向かっていた。 しかし、王太子殿下は最近ある子爵令嬢に御執心で、サリーを蔑ろにしていた。 サリーは幾度となく、王太子殿下に問うも、答えは得られなかった。 二人は身分差はあるものの、子爵令嬢は男装をしても似合いそうな顔立ちで、長身で美しく、 まるで対の様だと言われるようになっていた。二人を見つめるファンもいるほどである。 サリーは婚約解消なのだろうと受け止め、承知するつもりであった。 しかし、そうはならなかった。

利用されるだけの人生に、さよならを。

ふまさ
恋愛
 公爵令嬢のアラーナは、婚約者である第一王子のエイベルと、実妹のアヴリルの不貞行為を目撃してしまう。けれど二人は悪びれるどころか、平然としている。どころか二人の仲は、アラーナの両親も承知していた。  アラーナの努力は、全てアヴリルのためだった。それを理解してしまったアラーナは、糸が切れたように、頑張れなくなってしまう。でも、頑張れないアラーナに、居場所はない。  アラーナは自害を決意し、実行する。だが、それを知った家族の反応は、残酷なものだった。  ──しかし。  運命の歯車は確実に、ゆっくりと、狂っていく。

妹に裏切られた聖女は娼館で競りにかけられてハーレムに迎えられる~あれ? ハーレムの主人って妹が執心してた相手じゃね?~

サイコちゃん
恋愛
妹に裏切られたアナベルは聖女として娼館で競りにかけられていた。聖女に恨みがある男達は殺気立った様子で競り続ける。そんな中、謎の美青年が驚くべき値段でアナベルを身請けした。彼はアナベルをハーレムへ迎えると言い、船に乗せて隣国へと運んだ。そこで出会ったのは妹が執心してた隣国の王子――彼がこのハーレムの主人だったのだ。外交と称して、隣国の王子を落とそうとやってきた妹は彼の寵姫となった姉を見て、気も狂わんばかりに怒り散らす……それを見詰める王子の目に軽蔑の色が浮かんでいることに気付かぬまま――

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

処理中です...