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第三章
31話 復讐のクローバー
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姉様とアンジェロ王子の結婚準備は着々と進んでいるようだった。
もちろん、私の準備もしっかり進めている。
あれからチェイスは度々私の前に現れるようになった。相変わらずノアのことは聞けずにいたが、私にはどうしても悪い魔物には思えなかった。
意外とチェイスは聞き分けがいい。私がダメだと言ったことはしないし、復讐の準備も手伝ってくれる。
ただ、手伝った後は私に「喜んでる?」といちいち確認してくるのが謎だ。
なんか私懐かれてるのかな……。
今日の目的はただひとつ!
ビアンカ姉様を煽りまくること!
どんなことでもいいから彼女には失言してもらわないと。
私は姉様の部屋の扉をノックする。
「どうぞ~」
明るく呑気な声が中から聞こえる。
部屋へ入ると、姉様がテーブルの上にたくさんのカードを並べていた。結婚式の招待状だ。
「ちょうどいいところに来てくれたわね。レイラはどのデザインがいいと思う?」
招待状を一通り眺めた後、私は四葉のクローバーとシロツメグサのイラストが描かれたカードを指差す。
「これがいいと思います。クローバーの花には『幸運』という意味があります。姉様には幸せになってほしいですから」
「そう? じゃあこれにしようかしら」
一見、仲の良い姉妹の会話だが私たちの視線はお互いに探り合っている。
クローバーは『幸運』という意味の他に『復讐』という意味を持つ。
これは幸運の結婚式への招待状ではない。私の復讐のショーへの招待状なのだ。
「でもよく結婚を認めてもらいましたね」
「そうでしょう? アンジェロ様ったら私以外の女性とは生涯結婚しないと宣言したの。まぁ、女癖の悪い噂が広がるよりは、私と結婚させる方がいいと思ったんじゃない? それにほら、私は傾国の美人だし?」
姉様が自慢げに笑う。今日は機嫌が良さそうだ。
まっ、これから私が悪くさせるんだけど!
「そういえば姉様、この紙なんだと思いますか?」
私はフィリップ様からもらった紙を姉様の前に置く。もちろんノアの名前は消してある。
「さぁ? 誰なの、この人たち」
「しらばっくれないでくださいよ~。姉様がハニートラップにかけて、今まで貢がせてきた男たちじゃないですか」
「なんのこと? ねぇ、レイラ。この前のこと忘れたの? また同じ目に遭いたい?」
姉様は招待状を見つめたまま、声色だけを変化させた。
今度は怯まない。
「これって詐欺なんじゃないですか? それなのに自分だけ幸せになろうだなんて、虫が良すぎます。その男性たちがかわいそうですよ」
「その人たちは好きで貢いでくれたのよ。私の意図じゃないわ」
姉様が少し苛つき始める。
「いえいえ、計算の内に入っていたでしょう。姉様はやはりお母様の血が流れてますね」
「それどういう意味?」
「男に媚びを売ることしかできない能無しという意味です」
「あなたね……っ!」
誰からも貶されたことがほとんどない姉様は、少しの油を注ぐだけで激しく燃え上がる。
「姉様にとって男性は自分が幸せになるための道具でしかないんでしょ?」
「だったら何!? 誰からも愛されないあんたなんかに言われたくないわ! 男は黙って私に従えばいいのよ! 奴隷のようにね!」
「じゃあ姉様は彼らのことを愛してはいないんですね」
私は令息たちの名前が書かれた紙を見せびらかす。
すると姉様は嘲笑的な笑みを私に向けた。
「愛なんてあるわけないでしょ! そんな奴らお金がなければ用無しよ。私に釣り合わないもの。私がかまってあげてるんだからお金を払うのは当然のことよ? あんたはせいぜいあの没落貴族で我慢してればいいわ!」
没落貴族とはノアのことだろう。フォーサイス公爵家の領地では魔物と人間のハーフを保護している。そのため、あまり人間が寄りつかず、土地としては繁栄しているとは言えない。
でも、ノアに媚を売っていたくせによく言うわね。
「誰かを愛せない姉様の方が私よりずっとかわいそうに見えます」
「……」
姉様は虚をつかれたように、何も答えなかった。
いつもほしいものを与えられてきた姉様。でも、彼女は誰かに与える喜びを知らないのだ。姉様が与えるのは、結局自分のためだ。
「……姉様の結婚式、楽しみにしていますよ。きっと姉様の晴れ舞台になるでしょうから」
そう吐き捨てて私は部屋を出た。
姉様は何か考え込んだように、結婚式の招待状を眺めていた。
もちろん、私の準備もしっかり進めている。
あれからチェイスは度々私の前に現れるようになった。相変わらずノアのことは聞けずにいたが、私にはどうしても悪い魔物には思えなかった。
意外とチェイスは聞き分けがいい。私がダメだと言ったことはしないし、復讐の準備も手伝ってくれる。
ただ、手伝った後は私に「喜んでる?」といちいち確認してくるのが謎だ。
なんか私懐かれてるのかな……。
今日の目的はただひとつ!
ビアンカ姉様を煽りまくること!
どんなことでもいいから彼女には失言してもらわないと。
私は姉様の部屋の扉をノックする。
「どうぞ~」
明るく呑気な声が中から聞こえる。
部屋へ入ると、姉様がテーブルの上にたくさんのカードを並べていた。結婚式の招待状だ。
「ちょうどいいところに来てくれたわね。レイラはどのデザインがいいと思う?」
招待状を一通り眺めた後、私は四葉のクローバーとシロツメグサのイラストが描かれたカードを指差す。
「これがいいと思います。クローバーの花には『幸運』という意味があります。姉様には幸せになってほしいですから」
「そう? じゃあこれにしようかしら」
一見、仲の良い姉妹の会話だが私たちの視線はお互いに探り合っている。
クローバーは『幸運』という意味の他に『復讐』という意味を持つ。
これは幸運の結婚式への招待状ではない。私の復讐のショーへの招待状なのだ。
「でもよく結婚を認めてもらいましたね」
「そうでしょう? アンジェロ様ったら私以外の女性とは生涯結婚しないと宣言したの。まぁ、女癖の悪い噂が広がるよりは、私と結婚させる方がいいと思ったんじゃない? それにほら、私は傾国の美人だし?」
姉様が自慢げに笑う。今日は機嫌が良さそうだ。
まっ、これから私が悪くさせるんだけど!
「そういえば姉様、この紙なんだと思いますか?」
私はフィリップ様からもらった紙を姉様の前に置く。もちろんノアの名前は消してある。
「さぁ? 誰なの、この人たち」
「しらばっくれないでくださいよ~。姉様がハニートラップにかけて、今まで貢がせてきた男たちじゃないですか」
「なんのこと? ねぇ、レイラ。この前のこと忘れたの? また同じ目に遭いたい?」
姉様は招待状を見つめたまま、声色だけを変化させた。
今度は怯まない。
「これって詐欺なんじゃないですか? それなのに自分だけ幸せになろうだなんて、虫が良すぎます。その男性たちがかわいそうですよ」
「その人たちは好きで貢いでくれたのよ。私の意図じゃないわ」
姉様が少し苛つき始める。
「いえいえ、計算の内に入っていたでしょう。姉様はやはりお母様の血が流れてますね」
「それどういう意味?」
「男に媚びを売ることしかできない能無しという意味です」
「あなたね……っ!」
誰からも貶されたことがほとんどない姉様は、少しの油を注ぐだけで激しく燃え上がる。
「姉様にとって男性は自分が幸せになるための道具でしかないんでしょ?」
「だったら何!? 誰からも愛されないあんたなんかに言われたくないわ! 男は黙って私に従えばいいのよ! 奴隷のようにね!」
「じゃあ姉様は彼らのことを愛してはいないんですね」
私は令息たちの名前が書かれた紙を見せびらかす。
すると姉様は嘲笑的な笑みを私に向けた。
「愛なんてあるわけないでしょ! そんな奴らお金がなければ用無しよ。私に釣り合わないもの。私がかまってあげてるんだからお金を払うのは当然のことよ? あんたはせいぜいあの没落貴族で我慢してればいいわ!」
没落貴族とはノアのことだろう。フォーサイス公爵家の領地では魔物と人間のハーフを保護している。そのため、あまり人間が寄りつかず、土地としては繁栄しているとは言えない。
でも、ノアに媚を売っていたくせによく言うわね。
「誰かを愛せない姉様の方が私よりずっとかわいそうに見えます」
「……」
姉様は虚をつかれたように、何も答えなかった。
いつもほしいものを与えられてきた姉様。でも、彼女は誰かに与える喜びを知らないのだ。姉様が与えるのは、結局自分のためだ。
「……姉様の結婚式、楽しみにしていますよ。きっと姉様の晴れ舞台になるでしょうから」
そう吐き捨てて私は部屋を出た。
姉様は何か考え込んだように、結婚式の招待状を眺めていた。
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