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第三章
26話 姉様の新たな婚約者
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それからノアとはしばらく市場を回ってから別れた。
明日には、町を出るそうでひとまず今日会うのが最後だ。
少し寂しいが、また会えるのが楽しみだし、私にはあのブローディアの髪飾りがあるからいつでもノアたちのことを思い出すことができる。
それから数日後。
お昼頃になって来客があったようだが、私は知らされていなかったので部屋にいた。
しかし、しばらくすると使用人に「お客様が帰られるようなので玄関までお越しください」と言われ、私は玄関まで降りて行った。
「あら、レイラ!」
「こんにちは! 僕の妹よ!」
「……!?」
聞きなれない声がしたので、姉様の背後を見ると、そこには第三王子のアンジェロ様が立っていた。
「ア、アンジェロ王子。ご尊顔を拝しまして恐悦至極に存じます」
慌てて私は頭を下げた。
なんで王子が? 妹って何?
「そういう堅苦しいのはよい。頭をお上げ」
少し高めの鼻にかかった声だ。
「では、失礼ですが、なぜこのような下級貴族の家にいらっしゃるのでしょうか」
「それはね、レイラ」
ビアンカ姉様の狂気的な笑みを見て、少し息が詰まる。ノアが吐き気をもよおしたのも案外理解できる。
「まだ正式には決まっていないが、僕はビアンカ嬢に婚約を申し込むつもりなんだ」
アンジェロ王子は満面の笑みだ。
いや、頭がついていかないだけど。
「王子は、ビアンカ姉様の出自をご存知なのですか?」
「あぁ。王都でもちらほらと噂が出回っている。だが、それがなんだ!? 僕はね、出会ってしまったのだよ、運っ命の人にっ!」
アンジェロ王子は恍惚的な表情で天を仰いだ。
そういえば、アンジェロ王子は遊び人として有名だったことを思い出した。女性にだらしないことで、最近、婚約破棄になっていた。
「うふふ、嫌ですわ~。王子ったらね、関係を持っている全ての女性とは縁を切ってくださったのよ。私も婚約破棄の傷はあるけど、そんなふうに情熱的に申し込まれれば、応えないわけにはいかないわ」
いや、婚約破棄の傷を持つ女性の顔をしていないのよ。しかも、成立したの数日前ですけど!
というか、先日姉様が王都に行っていたのは、彼に会うためだったのか。
「そうだ見たまえ! 僕の頬の傷を! 女性関係を切ったことで何人もの女性に叩かれたのだ! これぞ愛の証だ!」
たしかにアンジェロ王子の頬には張り手された跡が何重にも重なっていた。
私は、いちゃつきはじめる二人をただ眺めることしかできなかった。それはもう諦観の域に達していただろう。
「今日のところはこれで失礼するよっ! じゃあね! マイ、ハニー!」
王子は姉様に投げキッスして、出て行く。
彼を初めて見たのは、兄様に紅茶をぶっかけているところだったから、彼があんなにウキウキ愉快な人だとは思わなかった。
まぁ、要するにすごく馬鹿そうだ。
アンジェロ王子が出て行くと、予想通り姉様は勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
「アンジェロ王子とはいつお知り合いに?」
「まぁ、王都のパーティーで何度か顔を合わせたことはあったんだけど、急接近したのは、兄様の件でお父様と一緒に謝りに行った時!」
うわぁ、あの時一緒に行ってたのか。さすがビアンカ姉様。
「その時以降、会うたびに密かに想いを告げられてたの。でも、私にはフィリップ様がいたでしょ? でも私も政略結婚だったし、内心アンジェロ様に想いが揺らいでたの」
「で、婚約破棄になった途端アンジェロ王子に求婚されたと」
「ええ。でもさすがに早すぎるから国王たちにはもう少ししてから言うつもりよ」
なるほど。この話があったから、お父様は姉様を追い出さなかったのか。
教会簿上での自分の娘が、王族の公爵夫人となるとさぞ鼻が高いでしょう。王族になれば、爵位も上がるだろうし。
昨日の女神発言にも納得がいく。
「まぁ、でも国王が許すとは思えませんがね」
「そうかしらね。アンジェロ様って女癖が悪すぎて、結婚は無理かもしれないって言われてたでしょ。私はそれを改心させたのよ? むしろ感謝されたいわ」
「はぁ、そうですか。まぁ、私も姉様には幸せになってもらいたいので応援していますよ」
「ほんと? ありがとう!!」
だって、姉様が持っているものは大きければ大きいほどいい。
それだけ奪った時の喪失感も大きくなるからね。
明日には、町を出るそうでひとまず今日会うのが最後だ。
少し寂しいが、また会えるのが楽しみだし、私にはあのブローディアの髪飾りがあるからいつでもノアたちのことを思い出すことができる。
それから数日後。
お昼頃になって来客があったようだが、私は知らされていなかったので部屋にいた。
しかし、しばらくすると使用人に「お客様が帰られるようなので玄関までお越しください」と言われ、私は玄関まで降りて行った。
「あら、レイラ!」
「こんにちは! 僕の妹よ!」
「……!?」
聞きなれない声がしたので、姉様の背後を見ると、そこには第三王子のアンジェロ様が立っていた。
「ア、アンジェロ王子。ご尊顔を拝しまして恐悦至極に存じます」
慌てて私は頭を下げた。
なんで王子が? 妹って何?
「そういう堅苦しいのはよい。頭をお上げ」
少し高めの鼻にかかった声だ。
「では、失礼ですが、なぜこのような下級貴族の家にいらっしゃるのでしょうか」
「それはね、レイラ」
ビアンカ姉様の狂気的な笑みを見て、少し息が詰まる。ノアが吐き気をもよおしたのも案外理解できる。
「まだ正式には決まっていないが、僕はビアンカ嬢に婚約を申し込むつもりなんだ」
アンジェロ王子は満面の笑みだ。
いや、頭がついていかないだけど。
「王子は、ビアンカ姉様の出自をご存知なのですか?」
「あぁ。王都でもちらほらと噂が出回っている。だが、それがなんだ!? 僕はね、出会ってしまったのだよ、運っ命の人にっ!」
アンジェロ王子は恍惚的な表情で天を仰いだ。
そういえば、アンジェロ王子は遊び人として有名だったことを思い出した。女性にだらしないことで、最近、婚約破棄になっていた。
「うふふ、嫌ですわ~。王子ったらね、関係を持っている全ての女性とは縁を切ってくださったのよ。私も婚約破棄の傷はあるけど、そんなふうに情熱的に申し込まれれば、応えないわけにはいかないわ」
いや、婚約破棄の傷を持つ女性の顔をしていないのよ。しかも、成立したの数日前ですけど!
というか、先日姉様が王都に行っていたのは、彼に会うためだったのか。
「そうだ見たまえ! 僕の頬の傷を! 女性関係を切ったことで何人もの女性に叩かれたのだ! これぞ愛の証だ!」
たしかにアンジェロ王子の頬には張り手された跡が何重にも重なっていた。
私は、いちゃつきはじめる二人をただ眺めることしかできなかった。それはもう諦観の域に達していただろう。
「今日のところはこれで失礼するよっ! じゃあね! マイ、ハニー!」
王子は姉様に投げキッスして、出て行く。
彼を初めて見たのは、兄様に紅茶をぶっかけているところだったから、彼があんなにウキウキ愉快な人だとは思わなかった。
まぁ、要するにすごく馬鹿そうだ。
アンジェロ王子が出て行くと、予想通り姉様は勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
「アンジェロ王子とはいつお知り合いに?」
「まぁ、王都のパーティーで何度か顔を合わせたことはあったんだけど、急接近したのは、兄様の件でお父様と一緒に謝りに行った時!」
うわぁ、あの時一緒に行ってたのか。さすがビアンカ姉様。
「その時以降、会うたびに密かに想いを告げられてたの。でも、私にはフィリップ様がいたでしょ? でも私も政略結婚だったし、内心アンジェロ様に想いが揺らいでたの」
「で、婚約破棄になった途端アンジェロ王子に求婚されたと」
「ええ。でもさすがに早すぎるから国王たちにはもう少ししてから言うつもりよ」
なるほど。この話があったから、お父様は姉様を追い出さなかったのか。
教会簿上での自分の娘が、王族の公爵夫人となるとさぞ鼻が高いでしょう。王族になれば、爵位も上がるだろうし。
昨日の女神発言にも納得がいく。
「まぁ、でも国王が許すとは思えませんがね」
「そうかしらね。アンジェロ様って女癖が悪すぎて、結婚は無理かもしれないって言われてたでしょ。私はそれを改心させたのよ? むしろ感謝されたいわ」
「はぁ、そうですか。まぁ、私も姉様には幸せになってもらいたいので応援していますよ」
「ほんと? ありがとう!!」
だって、姉様が持っているものは大きければ大きいほどいい。
それだけ奪った時の喪失感も大きくなるからね。
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