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一話
しおりを挟むー「はぁ…はぁっ………はぁ…!!」
真っ暗で不気味なほど静かな森の中、俺は走っている。
奴らに見つからないよう、追いつかれないよう、ただただ足を動かす。
途中木の根につまづきながら、体力が大幅に落ちていることを実感した。
走る
走る
限界を感じもう走ることができないと、今来た道を振り返る
もう何処からきたのかわからないほど遠くいる。
安心したのか急にどっと疲れが押し寄せてきた。
(ー…っここまでくれば大丈夫)
少しだけ安心して、近くに隠れられそうな場所を探す。暗い視界の中、月明かりを頼りに小さな洞窟を見つけた。
本当はもっと遠くに逃げたほうがいいが、もう今の自分にそんな体力はない。
(体力が少し回復するまでは、ここで身を隠そう…)
長い間体を動かせなかったからか、これだけの運動で息が上がり足元がふらつく
おぼつかない足取りで洞窟に向かっていると、月明かりで周りがどんどん明るくなってきた
(もう少しで休める…)
ふらつく体に鞭を打ち、ゆっくり洞窟に向かう
あと少し
あと少し頑張れば、
ふと後ろに気配を感じ、体が固まる。
下を向くと、足元には3つの影。
信じたくない。ぎこちない動きで振り向く
そのうちの片方が美しい澄んだ声で話しかけてきた
長い黒髪に真っ赤な目、微笑を浮かべ此方を見つめている
「こんばんは。何処へ行くのですか?」
目が合うとより一層と笑みを深めじっと見つめてくる。
その目に写るは、「狂気」
(っ…!?
もう追いつかれた…!)
ドクドクと心臓の鼓動が煩い。
自分を安心させるように胸の周りの服を掴む
(もし、もし捕まったら、……)
どんどん顔が青ざめ無意識のうちに体が震え出す。
言うことを聞かない体を抑え、逃げようとする。
だが、何か周りの空気が重くなり心臓をぎゅっと掴まれた感じがした。
逃げようとしても足は言うことを聞かず、その場に崩れ落ちてしまった。
呼吸ができない。
「うぁっ…?」
霞む視界、何が起こったかわからず混乱しているともう1人の男が近づいてきた。
「かわいーね。はるちゃん」
またもやじっと見つめられると男は舌なめずりをして、愉快そうに顔を覗き込みぐっと顎を引かれる。
そして視線をずらし自分の後ろの闇の中を見つめると、舌打ちをし、離れていった。
後ろにまた気配が二つ
誰がかはわかっていた。
まさかこんなにも早くバレるなんて……
じりじりと後ずさるが、ここから逃げられる気がしない。
(もう逃げ場はない…)
「…ねぇ、今なら怒らないであげる。はるちゃん、戻ってきてくれるよね?」
間の伸びた声が優しく問いかけてくる。ゆるりと弧をかいたその目は、まるで捕食者のようだ。
「そうですねぇ。私も今回は許してあげましょう。ただし…1分以内に私たちのところに戻ってくるなら…」
その隣にいる男が微笑を浮かべ、じっと此方を見つめてくる。
冷静そうに見える男の額にははっきりと青筋が浮かんでいる。
ザッっと後ろから自分の存在を目立たせるように足音を立てる音が聞こえた
「………二度目はない」
低く、こんなにも短い分なのに、彼からとてつもない怒りを感じ、震え上がる。
「せんせ…ね、はやく、帰ってきて…おねがい。貴方がいないと、おれ、生きていけない…
ひとりはやだっ………はやく…早くかえろっ……!?」
後ろからしゃくり上げながら悲痛な声色で懇願する声が聞こえるが、もう怖くて動けない。
捕まえようと思えば捕まえられるのに、彼らは揃って俺の意志でこさせようとしているみたいだ
どうしよう、戻るか?あいつらも赦してくれるって…今帰ったら赦してくれるって
…いや、惑わされるな。またあの日々を過ごすのか?
もう懲り懲りだ
必死に自分を奮い立たせる。自然と下がった視線の先には見慣れたものが。
(この足枷のせいで魔法も使えない…)
ちらっと両足に繋がっている鎖の切れた足枷を見る
どうすればいい、どうすれば。と額に冷や汗をかきながら必死で考える。
その間にも少しずつ近づいてくる影
「せんせ…」
「ハル」
せめてもの抵抗で必死に睨んでいると、自らの意思で帰ってくる気がないのが伝わったのか先ほどより空気が重くなった。
ー
「だれ?」
横からこの場にふさわしくない幼い声が聞こえる
この森に他の魔族がいるはずが無い。
ましてやあいつらも気配に気づかなかったなんて…
ゆっくりと横を向くと、その声の主はー
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