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しおりを挟む私はロケットの姿絵を見て、思わず呟く。
「そういえば、スフィア令嬢がロケットの偽造をするなら中身まで変える必要があるじゃないの?何故中身が入れ替わっていなかったのか不思議なんだけど。」
私の呟きを聞いたリュカは、話さない約束について破ったことは触れずに、
「お嬢様の言うように、ロケットをスフィア令嬢開けられなかった理由の方が問題なのです。皆さん、こちらのロケットには保護魔法がかけられていました。何故保護魔法をかけられていたのか分かりますか?」
野次馬達に問うと、皆口々に言い出した。
「身の安全を守る加護がかけられてあるのでは?」
「魔除けの効果とか?」
リュカの演説のような口調に、周囲は惹きつけられた。
「そうです。このロケットには加護と魔除け2つが掛けられています。それには、害なすものに対してなど対象があります。罪もない普通の人間なら開けられるはずです。落とし物を拾った時に中身を確認するようにです。でも、スフィア令嬢にはそれができなかった。その理由は皆さんご想像できますか?」
リュカがそのように言った時、盗んだからなのではと思ったのだが、どうやら野次馬達の様子は違っていた。
「魔除けは、悪意があるものとその悪意自体に対抗するために使われることが多いです。」
白い祭服を着用している神父見習いの少年が恐る恐るつぶやいた。見るからに敬虔深そうだ。
「それって盗んだってことでしょう?悪意そのものという訳はないんじゃない?考え過ぎでじゃないの?」
神父見習いの少年の隣にいた令嬢が答える。
「さっきから、スフィア令嬢を見てるんだけど、周りに黒いモヤしか見えなくて…。」
少年が少しおどおどしながら、スフィア令嬢の顔を見る。
私もそれに釣られて彼女を改めて見ると、彼女自身は少女の形をしているのたが黒の靄が全体を覆い被さり、亡霊のように見えてしまった。恐ろしくて息を呑む。
さっきまで全く見えなかったのに。
リュカが私の前に移動して、胸元から聖水と教会の十字を取り出す。
スフィア令嬢に向かって聖水を撒いて、十字架を向けて、祝詞を唱える。
「…彼のものの本来の姿を見せよ。」
すると、彼女の頭に羊のようなアモン角が現れた。
悪魔…だけど人型だけど…名前は何だっけ?
「お嬢様、彼女の正体はサキュバスですよ。人の心を操り精気を貰う低級悪魔。人間とのハーフです。実体を持たない者も多いですが、彼女は混血だから人の姿は保っていられるみたいですが。」
「リュカ。私の婚約者はこの悪魔に心を拐かされたって言うの?」
「そうです。本来サキュバスは精気を貰うだけの弱い悪魔なんですが、欲を出して婚約者を奪ったりはしません。人の心を操ったり、誰か傷付けたりするなんて以ての外です。彼女はこの世の誓約を忘れてしまったんでしょうかね?」
この世の誓約って何?何でリュカは、そう言うことを知ってるの?
「嘘だ!!!」
私の元婚約者は、本当の姿をしたスフィアを見て、混乱して叫んでどこかに行ってしまった。
それと同じタイミングで野次馬達は、彼と同じように恐れて逃げて家に帰ってしまう者や、興味本位で最後まで見届けようとする者などさまざまだ。
さっきから黙ったままのスフィアは、急にほくそ笑んだ。
「リュカ。あなたは大切にしているお嬢様に隠している秘密があるでしょう。」
「それとこれとは今は関係ない。お前は誓約を破った。魔界の法は知らないが、金輪際人間界には侵入しないことをここに誓うか?誓えないならば、ここであなたを浄化します。」
「いやよ」
スフィアの拒絶の発言を聞いたリュカは、聖書を読み上げ始める。リュカと一緒に、神父見習いの少年もすかさず同じ箇所を唱え始めた。聞いていると歌のような感じもして不思議な感覚がする。
すると、スフィアは暴れ出して、周囲のものを破壊し始めた。
彼女はセシルの後を追おうと画策するが、リュカがいつの間にか張った結界で動けない。
抵抗諦めたスフィアは、一人話出した。
「私ね。セシルがどうしても欲しかったからそこにいるスカーレットを何度も事故死に見せかけて倒そうとしたのだけど、あなたがかけた保護魔法が強力過ぎて危害すら加えられなかったわ。普通の神父よりも全然強い。あなたも私と一緒で、実はこの世の者ではないのじゃないの?」
リュカがこの世の者ではないってどういうこと?
スフィアのただの憶測じゃないよね?
「だとしたらどうするんですか?でもあなたがやったことはそれ以上に罪が重い。神の予言を捻じ曲げてこの国をめちゃくちゃにした言い訳はどうやって説明できるのですか?」
「私はただ恋をしたかっただけなの。」
悲しそうに言うスフィアだったが
「恋とか愛とか私もよく分かっていませんでしたが、お嬢様をあのセシルと婚約破棄まで追いやってくれたことだけは、感謝しても良いです。」
でも、お嬢様が苦しむ姿は見てられなかった。リュカがそう呟いた後、少年が唱え終わっていた。
「苦しまずに逝かしてあげますよ…アーメン」
祈祷の締めの言葉を発音すると同時に、スフィアの体が四方八方に砕け散った。人間なら血が出て大惨事になるところなのだか、そこには彼女が着ていた衣服が綺麗な状態で遺されているだけだった。
自分を苦しめていた相手の末路としては残酷なのかもしれない。いい気味だなんて思わない。例え悪魔だといえ感情があるんだから、殺生するのはやり過ぎはしないだろうかと思った。
事態が収束し、安心してしまったからか気が抜けて、私の腰が抜けてしまったようだ。
立とうとしても力が入らないので、呆然としていると、
「お嬢様…いえスカーレット。あなたに今から話したいことがあります。」
リュカが、私と目の高さが合うように屈んだ。
すごく真剣な顔つきだったのですごく驚いたのだが、有無も言わさず、あっという間に抱き抱えられしまった。
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※祭服:神官が祭司の際に着る服
※アモン角:羊のように渦の巻いた角のこと
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