花喰いの安珠

紺Peki獅子

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愛しい貴女へ

貴女の幸せを願う 1

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ーーーーーーーーーー

 杏花の言葉が、頭から離れない。



ーー安珠が男の人やったら、私……

杏花は私に対して、少なからず好意を持ってくれているらしいけれど。

「やっぱり、女同士このままじゃ駄目、かな……」

「?安珠、なんて?」

杏花には聞こえないように口の中で呟く。

 男だったら。つまり、女相手では恋愛そういうことは考えていない、ということ。
 私は、杏花が男だったら、なんて考えたことは無い。女が好きなんじゃなくて、杏花自身が好きだから。杏花を愛してるし、愛されたい。
 だけど。

「……なんでもないよ」

私を愛して、と杏花に強制したい訳じゃない。だから、側に居られればいい。杏花の幸せを、一番近くで支えたい。
 ……そう思わなければ、心が砕けてしまいそうだ。



「ほら杏花、紅を引いてあげる。おいで?」

「うん……。」

私が無理やり微笑んだのを感じたのか、杏花は少し表情を曇らせたが、ぴょんと私に近づいて、口をすぼませる。無意識なんだろうけど、目までぎゅっと瞑っちゃって。
 柔らかい唇に、薬指で紅を載せていく。私が指を離すと、

「…ありがと。」

そう言ってふわりと笑った杏花は、まるで桃色の椿。

 ああ、かわいいなぁ。
 やっぱり私、杏花が好きだ。心の底から愛してる。
 貴女の幸せは、私の幸せ。愛されたいという欲よりも、もっとずっと大きなもの。


 心から、貴女の幸せを願ってる。





。。。




「ねぇ、本当に大丈夫?」

「あんまり、全然大丈夫やない……ああ……もしも茄子やったらどうしよう……」

茄子って何。いや分かるけど。

 ブルブルと震える杏花の背中をさすりながら、宿屋街の門をくぐる。前にも後にも大きな荷車。その上には大量の夏野菜。
 今日は街に作物を納めるついでに、杏花と銀石屋の息子の顔合わせをする日だ。

 街に入るには、お金がかかる。街の中に住んでいる人には通行手形が与えられ、払う通行料は通常の半分でいい。が、それは街の外の人にはーーもっと言えば街に嫁いできた女の血縁者にさえ、適用されない。馬鹿高い通行料を払わなければ、娘が嫁ぎ先で元気にしているか、見に行くことも出来ないのである。例外として、品物を納める時は免除されるらしいが、どうせ通行料を理由に納品しなくなるのを防ぐためだと考えられる。

 つまり、街の中だけが潤うように作られているのだ。そんな所に杏花を嫁がせたくないし、嫁いでしまったら、一生、会うことは出来ないかもしれない。

 これから飢饉になりそうな村に、無駄金を払う余裕は無い。だから、納品のついでに婚約者との顔合わせをするのである。

「安珠ぅ……怖い……相手銀石屋の息子さんがいやーな人やったらどうしよう。嫁と姑って仲悪いとかも言うやんねぇ……」

杏花はもう泣きそうだ。私も泣きたい。
 だから私は

「……少しでも杏花が嫌だと思ったら、」

杏花の震える手を力強く包み込んで、耳元で囁いた。






「一緒に逃げよう。」
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