7 / 14
愛しい貴女へ
もしも貴女が男だったら
しおりを挟む
つづき。
ーーーーーーーーーー
「ふふ、杏花は愛されてるね。」
背後から声がして、振り返る。
「安珠。おはよう」
「おはよう、杏花。」
優しく笑う安珠に、さっきまでの憂鬱さが晴れていく。安珠は私に無償の愛をくれる。まるで本当の家族みたいや。ああでも、お父は愛してくれないから……言ってみれば、安珠はお父の代わりに私を愛してくれる人。大事な大事な私の味方。
ぎゅっと安珠に抱きつくと、一瞬固まって、暫くしてからふわって抱きしめ返してくる。いつもそうだから、昔嫌なのか聞いたら
「ぜ、全然嫌じゃない!むしろ嬉しいから!」
と食い気味に返してきたこともあったわ。
っと、それより気になることが。
「……愛されてるって、誰に?」
「あれ?杏花分かんなかった?美里だよ。」
安珠が当然のように言う。
「杏花と仲良くなりたいけど、素直になれない、みたいな。」
「えぇ…。ちょっと信じられんのやけど。」
思わず胡乱な目で腕の中から安珠の顔を見上げる。
安珠は女の子にしては背が高く、四尺九寸もある(因みに私は四尺一分や!)から、いつも下から顔を見ることになる。鼻筋がすっと通ってて、薄桃色の唇、切れ長の目。そのどれもが綺麗で、だけど少し長めの前髪のせいで、こちらから安珠のその目がよく見えんのは残念なんよね。睫毛も長くて綺麗やから近くで見たいのに、顔を近づけると真っ赤になって顔を背けるし。そのくせ、「杏花がかわいすぎて照れる。」とか言って私の肩口に顔を埋めてきたりするし。しかもお花みたいないい匂いがするから、こっちも何故か照れてまう。
「本当のことだよ。美里だけじゃない。村の沢山の人に、杏花は愛されてる。…もちろん、一番愛してるのは私だけど。」
「村の全員とは言わないんやね。」
「……そりゃあ、人それぞれ育ってきた環境が違うんだから、価値観も人の好みも人それぞれ。全ての人から好かれるのは難しいよ。」
そう……なんかな。
それでも、みんなに愛されたいと、お父に愛されたいと思うのは、傲慢なんかな。
無意識のうちに俯いてたらしい。杏花、と優しく呼ばれて顔を上げた。
「全ての人に好かれるのは難しいけど、それでも、心の底から杏花を愛してる人が居ることも、忘れないで。ね?」
私に言い聞かせるように、それでいてどこか懇願するようにそう言って、私と目線を合わせるように、安珠は首を軽く傾げた。
さらりと前髪が流れて、安珠の目元が明るくなる。初めて目にしたそれに、息を飲んで目を見開いた………が、どれだけ見つめても、変わらない。勝手に黒か茶だと思っていた安珠の目の色は、見た事もないくらい美しい、トンボ玉のような深緑色。そしてそれが、真っ直ぐに、私を見つめていた。
「あ……」
お父だ。いや、お父にして欲しかった目だ。愛されていることを疑いようがない程の真っ直ぐな目。
安珠は、この土地の人間ではないのかもしれない。何処か異国の人間かもしれない。もしかして、伴天連の子だったり?でも、私にとって、そんなことは大したことやない。
そっと、安珠の頬に手を添える。汗で頬がしっとりと冷えていて、気持ちがいい。
「……愛してくれて、ありがと。」
小さな声でそう言って、すり、と親指で優しく頬を撫でると、既に前髪に隠れてしまった安珠の目が、柔らかく細められたのが分かった。安珠って、撫でられるの好きなんかな?
真っ直ぐに自分の愛を伝えるのは難しい。言葉に出来ないような、ぐるぐるふわふわそわそわしたものを、精一杯の語彙力で形作る。
「もし、もしも安珠が男の人やったら、私……」
今度は安珠が目を見開く番だった。抱きつく時みたいに固まってーーー
そして、へにゃりと笑った。
嬉しそうに蕩けた笑顔は、何処となく泣きそうに見えた。
ーーーーーーーーーー
「ふふ、杏花は愛されてるね。」
背後から声がして、振り返る。
「安珠。おはよう」
「おはよう、杏花。」
優しく笑う安珠に、さっきまでの憂鬱さが晴れていく。安珠は私に無償の愛をくれる。まるで本当の家族みたいや。ああでも、お父は愛してくれないから……言ってみれば、安珠はお父の代わりに私を愛してくれる人。大事な大事な私の味方。
ぎゅっと安珠に抱きつくと、一瞬固まって、暫くしてからふわって抱きしめ返してくる。いつもそうだから、昔嫌なのか聞いたら
「ぜ、全然嫌じゃない!むしろ嬉しいから!」
と食い気味に返してきたこともあったわ。
っと、それより気になることが。
「……愛されてるって、誰に?」
「あれ?杏花分かんなかった?美里だよ。」
安珠が当然のように言う。
「杏花と仲良くなりたいけど、素直になれない、みたいな。」
「えぇ…。ちょっと信じられんのやけど。」
思わず胡乱な目で腕の中から安珠の顔を見上げる。
安珠は女の子にしては背が高く、四尺九寸もある(因みに私は四尺一分や!)から、いつも下から顔を見ることになる。鼻筋がすっと通ってて、薄桃色の唇、切れ長の目。そのどれもが綺麗で、だけど少し長めの前髪のせいで、こちらから安珠のその目がよく見えんのは残念なんよね。睫毛も長くて綺麗やから近くで見たいのに、顔を近づけると真っ赤になって顔を背けるし。そのくせ、「杏花がかわいすぎて照れる。」とか言って私の肩口に顔を埋めてきたりするし。しかもお花みたいないい匂いがするから、こっちも何故か照れてまう。
「本当のことだよ。美里だけじゃない。村の沢山の人に、杏花は愛されてる。…もちろん、一番愛してるのは私だけど。」
「村の全員とは言わないんやね。」
「……そりゃあ、人それぞれ育ってきた環境が違うんだから、価値観も人の好みも人それぞれ。全ての人から好かれるのは難しいよ。」
そう……なんかな。
それでも、みんなに愛されたいと、お父に愛されたいと思うのは、傲慢なんかな。
無意識のうちに俯いてたらしい。杏花、と優しく呼ばれて顔を上げた。
「全ての人に好かれるのは難しいけど、それでも、心の底から杏花を愛してる人が居ることも、忘れないで。ね?」
私に言い聞かせるように、それでいてどこか懇願するようにそう言って、私と目線を合わせるように、安珠は首を軽く傾げた。
さらりと前髪が流れて、安珠の目元が明るくなる。初めて目にしたそれに、息を飲んで目を見開いた………が、どれだけ見つめても、変わらない。勝手に黒か茶だと思っていた安珠の目の色は、見た事もないくらい美しい、トンボ玉のような深緑色。そしてそれが、真っ直ぐに、私を見つめていた。
「あ……」
お父だ。いや、お父にして欲しかった目だ。愛されていることを疑いようがない程の真っ直ぐな目。
安珠は、この土地の人間ではないのかもしれない。何処か異国の人間かもしれない。もしかして、伴天連の子だったり?でも、私にとって、そんなことは大したことやない。
そっと、安珠の頬に手を添える。汗で頬がしっとりと冷えていて、気持ちがいい。
「……愛してくれて、ありがと。」
小さな声でそう言って、すり、と親指で優しく頬を撫でると、既に前髪に隠れてしまった安珠の目が、柔らかく細められたのが分かった。安珠って、撫でられるの好きなんかな?
真っ直ぐに自分の愛を伝えるのは難しい。言葉に出来ないような、ぐるぐるふわふわそわそわしたものを、精一杯の語彙力で形作る。
「もし、もしも安珠が男の人やったら、私……」
今度は安珠が目を見開く番だった。抱きつく時みたいに固まってーーー
そして、へにゃりと笑った。
嬉しそうに蕩けた笑顔は、何処となく泣きそうに見えた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】【R18百合】女子寮ルームメイトに夜な夜なおっぱいを吸われています。
千鶴田ルト
恋愛
本編完結済み。細々と特別編を書いていくかもしれません。
風月学園女子寮。
私――舞鶴ミサが夜中に目を覚ますと、ルームメイトの藤咲ひなたが私の胸を…!
R-18ですが、いわゆる本番行為はなく、ひたすらおっぱいばかり攻めるガールズラブ小説です。
おすすめする人
・百合/GL/ガールズラブが好きな人
・ひたすらおっぱいを攻める描写が好きな人
・起きないように寝込みを襲うドキドキが好きな人
※タイトル画像はAI生成ですが、キャラクターデザインのイメージは合っています。
※私の小説に関しては誤字等あったら指摘してもらえると嬉しいです。(他の方の場合はわからないですが)
悪魔との100日ー淫獄の果てにー
blueblack
恋愛
―人体実験をしている製薬会社― とある会社を調べていた朝宮蛍は、証拠を掴もうと研究施設に侵入を試み、捕まり、悪魔と呼ばれる女性からのレズ拷問を受ける。 身も凍るような性調教に耐え続ける蛍を待ち受けるのは、どんな運命か。
ねえ、私の本性を暴いてよ♡ オナニークラブで働く女子大生
花野りら
恋愛
オナニークラブとは、個室で男性客のオナニーを見てあげたり手コキする風俗店のひとつ。
女子大生がエッチなアルバイトをしているという背徳感!
イケナイことをしている羞恥プレイからの過激なセックスシーンは必読♡
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる