花喰いの安珠

紺Peki獅子

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愛しい貴女へ

やさしい夢から醒める時 1

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 「安珠に一番に聞いて欲しいことがあって。」

 杏花は私の腕から抜け出すと、少し眉を寄せた。あああ、かわいい。どんな表情でも全部かわいい。

 「なあに?杏花。ほら、教えて?」

 …杏花って頭撫でられるの好きだよね。嬉しそうに目を細めちゃって。

 「…宿屋街に、銀石屋があるやん?」

 「街で一番大きな宿なんだっけ?」

 この地域には川があって、山がある。川には鮎がいて、古くからの漁法「鵜飼」を観に来る客が来る。

 その為、鵜飼が見やすい川沿いに大きな宿屋街が広がっているのだ。安全のために宿屋街は塀で囲まれていて、街に入るのにもお金がかかる。

 少し北に行くと、田畑が広がっている。川の洪水に見舞われることもあるが、山から流れてくる肥沃な土のおかげで作物の育ちもいい。私たちはそんな村で育った。

 街では鵜飼による漁業と観光業、そして織物業が盛んに行われ、村では農作物が沢山摂れる。互いに物々交換で支え合って生きてきた。

 だが近年、その関係が崩れようとしている。

「ここ数年、獣が花を食べてしまうから、実がならない。被害はまだ果樹園だけやけど、田畑もやられて飢饉が起きたら、街からの補助金が貰えなくなるかも知れんの。…だから」

 杏花は着物のお端折りを指先で握って震えている。

「……っ!」

喉が引きつる、今度は悪い意味で。杏花が次に言う言葉は、なんとなく分かってしまう。

 杏花、大丈夫。私がいるから。ずっと一緒だから。ずっと、ずっと一緒にいるから。

 だから…行かないで!

「私ね、安珠。銀石屋の息子さんと婚約するんや。」

 

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