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内緒の話

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 それから数日後、諸々の用事を済ませた俺は、顔見せも兼ねて領地を回ることになった。

 領主としての仕事はモルト殿に、街の修理に関してはガルフに、狩りや鍛錬についてはナイル達がやってくれるそうだ。

 なので、俺も安心して出かけられる……はずだったのだが。

「……考え直さないか?」

「いいえ、私もついていきますっ」

「うむ……」

「これは元々王家の者が主催で行われていた行事ですよ? だから、私にもお手伝いさせてくださいっ!」

 街の入り口では、両手の拳を握って迫ってくるセレナ様がいる。
 自分は頼りにされなかったことが、お気に召さなかったようだ。
 なので、何かお手伝いをしたいと申し出てきたというわけだ。
 一応、許可は出したのだが……やっぱり、まずい気がする。

「しかし、危険なことも……」

「先輩の側にいて危険なことなんかないです。むしろ、一番安全な場所かと」

「ウォン!(我もいるのだ!)」

「そもそも、お主は自分の容姿を自覚せい。いきなり、魔獣フェンリルに乗った厳つい男が来てみろ……襲撃かと勘違いされるわい」

 ガルフの言葉に、皆が視線をそらす。
 一瞬だけ『酷くないか?』と思ったが、自分自身でも納得してしまった。
 セレナ様は万人に好かれる方だし、確かにいた方が円滑に進む気がする。

「じゃ、邪魔だけはしませんから!」

「……しかし、流石に男と二人旅というのは問題がある気がする」

「平気ですよ、私もついてまいります」

「サーラさん……だが、ギンに三人はきつくないか?」

「ウォン!(成長してるから平気なのだ!)」

 確かにギンは、この一、二ヶ月で少し大きくなった。
 沢山食べて沢山遊んで、沢山寝ているのが良いのかもしれない。
 ……ただし、段々と子供っぽくなってきた気がする。
 もしかしたら戦場にいた頃は、無理をさせてしまっていたのかもしれないな。
 ギンもある意味で、平和な子供時代ではなかっただろうから。

「アイクよ、諦めるんじゃな。お主の負けだ」

「はぁ……わかった。セレナさん、よろしく頼む。貴女がいてくれた方が、確実に円滑にいくだろう」

「あ、ありがとうございます!  私、頑張りますね!」

 すると、モルト殿が手を叩く。

「どうやら、話はまとまったようですな。それでは、お三方が行っている間は我々にお任せください」

「すまないが、そうさせてもらおう」

「ええ、お任せください」

「ウォン!(三人共、我に乗るのだ!)」

 そして俺、セレナ様、サーラさんの順でギンに乗り込む。

 そして、皆に見送られ……街の外へと出ていくのだった。


 ◇

 ……やれやれ、やっと行ったわい。

 相変わらず、手のかかる友だ。

 アイクを見送ったワシは、ナイルと予定通りの場所に向かう。

 そこには動ける若者や、手伝いたいという有志の民が集まっていた。

 これからすることはアイクには内緒なので、今回のことは渡りに船じゃった。

「さて、お主ら……準備はいいな?」

「いつでもいいですぜ!」

「俺達も頑張ります!」

「女衆も、領主様のためにお手伝いします!」

「ワシが指示を出すので、無理せずに作業に入る! これより——アイクの家を建てるぞ!」

「「「オォォォ!!!」」」

 これは、ワシ自らが提案したことだ。
 彼奴は真面目な人間なので、領主の館に住んでたら仕事をしてしまう。
 それでは気が休まないし、彼奴にも帰る家が必要だと判断した。

「それでは、彼奴がいない間に一気に進めるぞ! 目標は、豊穣祭までじゃ!」

「よーし! やったるか!」

「ギン君と領主様のおかげで、子供達は元気になってきたしな!」

「ほんとギン君は子供達と遊んでくれるし、領主様は我々のために働いてくれるし」

 そして、気合を入れた人々が建築に向けて動き出す。
 ワシ自身も作業をしつつ、監修として指示を出していく。
 すると、ナイルがワシに話しかけてくる。

「先輩は喜んでくれますかね?」

「さあ、どうじゃろうか? 彼奴のことだから、申し訳ないとか思いそうだが」

「はは……確かにそうですね」

「だから、完成させてこちらから押し付けてやるわい。彼奴も我々に黙って出て行ったので文句は言わせん」

「先輩にそこまで言えるのは、ガルフ殿くらいですよ……俺が先輩にあった頃は、既に戦場から離れていたんですよね?」

「ああ、そうじゃ。ワシは怪我を負い、戦線離脱をせざるを得なかった。だから、武具を作ることで彼奴を助けようと決めた。それが、ワシらを絶望から救ってくれた彼奴に出来る……恩返しだと思ったのだ」

 故郷である帝国から逃げ出してきた我々を、彼奴は命がけで救ってくれた。
 口下手なくせに上官に掛け合ったり、我々を自分の部隊に入れたりと世話を焼いた。
 おかげで我が同胞達は救われ、奴隷のような生活から解放された。
 何より、人族にも良い奴がいるのだと知れた。

「そうだったんですね。先輩は、そうやって色々な人を助けてきたんですよね」

「なのに、本人は人に助けられるのに慣れておらん。ひとまず、それはセレナ様に任せるとしよう」

「先輩、セレナ様には弱いですからね。さてさて、どうなりますやら」

「それはわからん、相手にも立場があることじゃ。ワシらに出来ることは……彼奴が何かを欲した時に、全力で力を貸すことくらいだ」

「……ですね。その時は、俺もお供いたします」

「うむ、共にあの馬鹿の尻を叩くとしよう」

 彼奴が求めておらんし、ワシも言葉にするのは苦手な性分だ。

 だが、ワシが彼奴への感謝を忘れることはない。

 何より、生涯の友である彼奴のためにワシに出来ることをしよう。

 ……あの不器用な友のために。



~あとがき~

皆さま、本作を読んでくださり誠にありがとうございます!

ただ今アルファポリス様の公式漫画にて「前世では家族に恵まれなかった俺、今世では優しい家族に囲まれる」という作品の三話目が更新されております。

よろしければこの機会に読んで頂けたら幸いです。
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