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セレナ様のお願い

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俺が目を覚ました頃、既に外は真っ暗だった。

ひとまず、ギンを連れてひと気のある場所へと向かう。

「ウォン?(少しはすっきりしたか?)」

「ああ、おかげさまでな。しかし、皆には色々と心配をかけてしまった」

「ウォン(人の心配はするくせに、されるのは苦手なのだな)」

「……ほっとけ」

自分自身でも矛盾しているのはわかってる。
だが、中々にどうすることもできん。 
そして、ひと気のある場所に到着すると……人々が俺に気づく。
どうやら、屋台を出して飲み食いをしているらしい。

「領主様だ!」

「ディアーロ、ありがとうございます!」

「お陰さんで、子供達も腹一杯でさぁ!」

次々と人々がお礼を言ってくる。
そんな中、見知った少年が駆けてきた。

「おじ……領主様!」

「今朝の坊主か」

「坊主じゃないよ! トールだよ!」

「そうか、いい名だな」

「うんっ! 死んだお父さんがつけてくれたんだ! えっと……あのね! 弟と妹がお腹いっぱいで動けないっていうんだ! 領主様、本当にありがとう!」

その笑顔が、じんわり心に響く。
やはり、子供の笑顔はいい……俺は元々、こういう子供の笑顔を守るために戦争に行った。
領主になったとはいえ、やることは変わらない。

「トールはお腹いっぱいになったか?」

「うんっ! 僕もお腹いっぱい!」

「なら良い。さあ、夜も遅いから家に帰るといい」

「えー!? もっとお話ししたい! 僕、領主様みたいに強くなりたい!」

「……仕方ない、家に送るまでな」

そのまま歩きながら話をし、すぐ近くにある家に送り届ける。
母親にお礼を言われて、その場から立ち去ると……ギンがしびれを切らした。
いや、よく我慢できたというところか。

「ウォン!(腹が減ったのだ!)」

「はいはい、悪かったって。というか、俺だって減ってる」

「ウォン(帰るまで我慢できん。さっきの屋台に向かうのだ)」

「はいよ」

 そして噴水広場に戻ると……セレナさんがいた。

「ア、アイク様!」

「セレナさん……悪かった。どうやら、色々と心配をかけてしまったらしい」

「い、いえ、私こそすみません! その……私が勝手に自分の理想を押し付けてしまって」

「いや、元々は俺が悪かったのだ。きちんと話をした上で、ここに来るべきだった」

それこそ、俺の勝手な思い込みだった。
彼女に会っては、迷惑がかかると思って。
自分本位な気持ちで、彼女を傷つけてしまった。

「それはもういいのです。あの、お腹空いてませんか? 私達は、先に食べてしまったので……ナイルさんが、しばらく放っておいていいと」

「そうか……ああ、俺もギンも空いている。ちょうど、ここの屋台で食事を済ませようと思っていた」

「そうなのですね……それでしたら、私がとってきます! ギン君とアイク様は、そちらのベンチに座っててください!」

「い、いや、貴女を使いっ走りにするわけには……」

「今はアイク様が上官なのですから問題ありません!」

そう言い、元気よく走り去る。
俺は呆然としつつも、仕方ないのでベンチに座った。

「ウォン(相変わらず、セレナには弱いのだ)」

「当たり前だ、相手は王女様だぞ?」

「ウォン(それだけには見えんが。主人は身分が高かろうが関係ない)」

「おいおい、俺は別に身分の高い人全般に喧嘩を売っていたわけではない。彼女は好ましい性格をしているし……確かに、強く言われると断れない感じはするが」

別に女性経験はないが、女性に弱いというわけではない。
しかし、何故かセレナ様には強く言えない自分はいる。
何が理由なのかはわからないが。
そんなことを考えていると、セレナ様が戻ってくる。

「お、お待たせしましたっ」

「いや、そんなに急がなくてもいい。とりあえず、隣に座るか?」

「はいっ、し、失礼します」

セレナ様が隣に座ったので、俺は串焼きの乗った皿を受け取ろうとする。
しかし、彼女はそれを渡さない。

「……くれるのではないのか?」

「あ、あげますけど……私、頑張って……」

「何の話……はっ?」

セレナ様が串焼きを持って、俺の口元に持ってくる。
その顔は、今にも火が出そうなくらいに赤かった。

「あ、あーん……」

「……何かの罰ゲームか?」

「ち、違いますっ! その……アイク様は甘えるのが下手みたいなので。だから、私が甘えさせてあげるのですっ」

「何かが致命的に間違っているような……そもそも、貴女にそんなことはさせられない」

「今は、貴方が私の上官なので問題ありませんっ。その、これは王女としての命令でもあります。アイク様は、私に甘えてください……!」

「……ははっ! めちゃくちゃだな!」

その理不尽な物言いに、思わず笑ってしまう。
しかし、不思議と……悪い気はしない。
何やら、懐かしさすら感じる。

「わ、笑われてしまいました……」

「いや、すまん……そうか、命令ならば仕方ないな」

「そ、そうですっ。えっと……どうぞ」

「ああ、頂くとしよう」

目の前に差し出された串焼きに齧り付く。
すると濃厚な肉汁が溢れて、口一杯に旨味が広がる。
ディアーロは栄養もあり、野性味があって食べ応えが十分だと言われている。
これが定期的に狩れるなら、食糧問題は改善できそうだ。

「ど、どうですか?」

「ああ、美味い」

「えへへ……アイク様は、もっと甘えてくださいね。その方が、私達は嬉しいですから」

「ふっ……それは命令か?」

「はい、これは命令ですよっ」

「それならば仕方ない」

すると、ギンが俺の足を踏む。

「ウォン!(我も我も!)」

「あっ、忘れてた」
 
「ギン君、ごめんなさい!」

「ウォーン(お腹空いたのだ)」

「じゃあ、ギン君も頑張ってるので私があげちゃいますね」

「ウォン!(うむっ!)」

そしてセレナ様から食べさせてもらい、ギンはご機嫌に肉を頬張る。

俺はそれを見ながら、穏やかな時間を過ごすのだった。
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