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襲撃

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 数日後、午後になって俺が兵士達の鍛錬をしていると……。

「アイク殿! 大変でございます!」

「モルト殿? どうした?」

「たった今、報告がありました。どうやら、近くで妖魔であるゴブリンやオークを見た者がいると。幸い、今のところ犠牲者はいないようですが」

「なに!? それは大変だ。奴らは下っ端を偵察に出して、獲物を見つけたら集団で襲ってくるぞ」

 妖魔、それは人類の敵だ。
 太古より存在し、人や魔獣を好んで襲う。
 奴らのせいで、食料や戦場が台無しになることも多かった。
 故に、大昔に人類総出で多くの討伐を果たしたらしい。
 しかし、未だに生き残りは多いとか。

「え、ええ、なので困っております。ここ十年くらいは、そんなこともなかったのに」

「もしかしたら長く続いた戦争の影響か? 各地の戦力が落ちてきているので、奴らが活性化してしまったか」

「その可能性はありますな。それに、戦争が終われば傭兵や冒険者達の仕事は減ります。森に入って魔獣狩りをしたりすれば、妖魔供は食料を求めて森から出てくるでしょう」

「ふむ、刺激を与えてしまったか。いや、妖魔の考えなど人にはわからない。ともかく、俺はその場に向かおう——奴らが村人を襲う前に」

 一度味を覚えてしまえば、奴らは再び襲ってくるだろう。
 何より女性が捕まれば、苗床にされてしまう……それだけは防がなくてはいけない。

「で、ですが、まだ兵士達の編成も済んでおりませんぞ」

「大丈夫だ……奴ら如きに負ける俺ではない」

「ウォン!(我もいるぞ!)」

「ああ、頼りにしているぞ」

 すると、倒れてたロラン達が立ち上がる。
 その目には、闘志が宿っていた。

「お、俺達も行きます!」

「いや、お前達は実戦にはまだ早い」

「で、ですが! ここは俺達の住んでる場所です!」

「何より、これくらいの鍛錬で倒れているようでは足手纏いだ」

「っ……!」

 少し冷たいかもしれないが、実戦は遊びじゃ無い。
 疲れて倒れても敵は攻撃をやめてくれないし、泣き叫んでも無駄だ。
 俺には、彼らを守りきれるという保障もない。
 将来のある彼らを死なせなくは無い……矛盾は承知の上だ。

「悔しかったら、俺に一発でも当てられるようにしろ。だが、この地を守りたいという気持ちは大事だ……次がある時までに、俺を認めさせてみるが良い」

「わ、わかりました! 皆! ひとまず何があっても良いように態勢を整えるぞ!」

「「「おおっ!」」」

 ロランの言葉に、その他の若者が声をあげる。
 どうやら、すっかりリーダーのような立ち位置らしい。
 ロランを見ていると……昔のナイルを思い出すな。
 あいつも、元気でやっていると良いのだが。

「それでは、正確な場所をお伝えしましょう。私の方でも、すぐに戦える者を集めるので無茶だけはしないでください」

「ああ、俺とて着任早々死にたくはない」

「ふんっ、ワシがついてるから心配するでない。まさか、ワシにも残れとは言うまい?」

「無論だ。ガルフ、再び俺と共に戦ってくれるか?」

「当たり前じゃ!」

 その後、俺はすぐに地図で確認をし、ギンに跨って街を飛び出すのだった。



 ◇


 ……もうすぐ着くかしら?

 それにしても少し懐かしい気がする。

「やっぱり、小さな頃に来たことがあるからなのかな?」

 馬車の外から景色を眺めていると、そんなことを思う。
 五歳の頃だから、記憶はほとんどないのだけれど。
 ……その後すぐに、戦争が始まってしまったことも原因ね。
 平和な頃の記憶が薄れてしまったのでしょう。

「その時は、何をしたか覚えているのですか?」

「うーん……はっきりとは覚えていないの。綺麗な景色と、大きなお兄さんに遊んでもらった記憶くらいしか。セドルお兄様や弟のレオンも来なかったし、私とお父様だけで行ったのよね。だから遊び相手として、その方が遊んでくれたのよ」

「そうなのですね。その当時は、まだ私も仕えておりませんし。小さい頃のお嬢様は、さぞかし可愛かったでしょう」

「どうかしら? 随分とお転婆で、その人にも迷惑をかけたような気が……あっ」

 その時、何かを思い出しそうになる。
 私は、その時にお兄さんに助けられた?
 でも、なにから?……頭に靄がかかっているみたいで思い出せない。
 すると、馬車の外から大きな声がする。

「姫様、なにかあったみたいです」

「まだ着くには早い気がするけど……」

「セレナ様! 敵襲です! 馬車を一度止めます!」

 その声に私とサーラに、すぐに反応する。

「サーラ! 私たちも行きます!」

「はいはい、わかりました。どうせ止めても無駄ですね」

「ええ、兵士達だけを戦わせるなどできないもの」

 私とサーラが馬車から飛び降りると……すでに戦闘が始まっていた。
 護衛隊長を務めるナイル殿が指揮を執って、迫り来る妖魔と戦っている。
 それはゴブリンやオークと呼ばれる下級妖魔ですが、決して油断していい相手ではありません。
 我々と違い、彼らには恐怖というものがないのだから。

「ギャキャ!」

「ブボォ!」

「妖魔!? こんな辺境の地に?」

「戦争が終わった影響でしょうか? ともかく、ナイル殿達ならば下級妖魔に負ける事はないでしょう」

「ええ、そうですね。私達は邪魔にならないように、回復と援護に務めましょう」

「わかりました。私が護衛するので、姫様は魔法に集中してください」

 話し合いを済ませたら、兵士達の後ろに回る。
 すると、ナイル殿が私達に気づく。

「セレナ様!? 出てきてはいけない!」

「いいえ、ナイル殿。私も騎士の端くれとして、一緒に戦います。邪魔だけはしないので、許してくれますか?」

「貴女様を邪魔などと言うわけがありません。では、傷ついた者達に回復をお願いいたします」

「ええ、任せてください」

 その後、敵が徐々に減っていく。
 辺境に連れて行ける兵士は少なかったけど、彼らはアイク殿の直弟子という話でした。
 特にナイル殿の槍さばきは見事で、的確に敵の喉を貫いていく。

「セァ! フゥ、なんとかなりそうです」

「ふふ、見事ですわ。流石はアイク殿が信頼している方ですの」

「へっ? せ、先輩が?」

「ええ、お話ししてる時に話題によく出ましたよ。数少ない、俺の背中を預けられる男だと」

「そんなことを……なれば、なおの事セレナ様を無事に連れて行かなくてはなりません」

 立場上、私は男の方と仲良くするのは難しかった。
 なので、こうしてナイル殿と話すのも滅多にない事。
 そう考えると、私ってアイク殿の所にわざわざ話しかけに行ってたのね。
 ……いつも迷惑じゃなかったかな? 今回も、快く迎えてくれるかな?

「ふふ、頼りにしてますわ」

「はっ、お任せを……ん? なんだ?」

「お二人共! 森の奥から何かが来ます!」

 サーラの指差す方に目を向けると、そこから大きな足音が聞こえてくる。
 そして、そこから現れたモノは……中級妖魔トロールだった。
 体長は三メートルを超え、体型はでっぷりとした脂肪で包まれている。
 手には大きな棍棒があり、その膂力による振り下ろしは……人など、簡単にぺしゃんこにしてしまう。

「ブァァァァァ!!」

「くっ!? こんな辺境にトロール!? お前達は下がるんだ!」

「わぁぁぁぁ!?」

 トロールの出現に兵士達が恐慌に陥りますが、それは無理もないこと。
 かの妖魔は人を生きながらに食べることを好み、その残虐さは凄まじい事で有名です。
 戦争中も突然現れ、我が国と敵国の兵士達を蹂躙したこともあった。

「私が前に出ます! トロールは魔法に弱いはずよ!」

「姫様! いけません! なれば、私が時間を稼ぎます!」

「いえ、ここは俺が殿を務めるのでお二人は兵士達を連れて避難を。先輩の元まで無事に送るのが俺の仕事……もう、先輩の悲しむ顔は見たくないですから」

「ですが、それは貴方も同じこと。貴方が死ねば、アイク殿は悲しむわ」

「お二人共! 話はそこまでです——来ます!」

 トロールが私達を目掛けて、物凄い勢いで走ってくる。

 私達は覚悟を決めて、それぞれ戦いの態勢に入る。

 その時、何かが私達の前に飛び出してきた。

 その大きな背中を見た時、私は遠い過去に似たようなことがあったと思い出した。


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