上 下
2 / 46

謁見

しおりを挟む
 戦争の後始末をしたら王都へと帰還し、三日の休暇の後に王宮に呼び出される。

 それも、国王陛下直々に。

「ふむ、なんの話だろうか?」

「決まってますよ! 受勲ですよ! それこそ伯爵とか近衛騎士とか!」

 伯爵家の出にもかかわらず、俺を慕ってくれているナイルが興奮している。
 ずっと、俺には偉くなって欲しいと願っているようだ。
    俺は男爵家の次男で継承権はないので、ほぼ平民のようなものだから。

「なるほど……まあ、なくはないか」

「きっと、そうですよ!」

 我が国には貴族階級があり、公爵、侯爵、辺境伯、伯爵、子爵、男爵、騎士爵となっている。
    そしてごく稀に、平民や貴族の継承権のない者が受勲される場合がある。
 誰からも目に見えてわかる、大きな功績を挙げることだ。
 冒険者ランクを白銀級にしたり、それこそ戦争で活躍したり。

「立派な土地を貰ったりとか! あとは、たんまりと報奨金を貰ったり! いや敵将を倒したのですから、もっとすごいかもしれません!」

「いや、そうだとしても……それは受け取るべきではないな」

 すると、ナイルがキョトンとした表情を浮かべる。

「えっ? どうしてですか?」

「男爵家次男の俺が、そんなものをもらっては……余計なことになるだけだ」

「そ、そうかもしれないけど……でも、ずっと最前線で戦ってきたのに。何より、長年我らを苦しめてきた敵将を倒した英雄なのに」

 俺は落ち込むナイルの肩に手を置く。
 こいつは高位貴族にしては珍しく、真っ直ぐな心の持ち主だ。
 きっと、正当な評価が貰えないのが嫌なのだろう。

「気にするな、ナイル。お前みたいにわかってくれる人がいれば良い。何より、これからは平和になる。せっかくの平和を、俺が乱すわけにはいかないさ」

「先輩……さすがです! それこそ、俺が尊敬する方です!」

「いやいや、大したことないさ。お前なら、きっと良い貴族になれる」

「先輩のように力なき者のために戦える人になります!」

 これで良し、ナイルは良い貴族になるだろう。
 そして、俺としては……下手に大層な勲章を授与される方が困る。
 もう歳だし、平穏な日々を過ごしたいのだ。





 その後、準備をして城に向かう。
 すると、すぐに城の中へと案内され、玉座の間に通される。

「アイク殿が到着しました!」

「うむ、進むが良い」

「それでは、どうぞ」

「はっ、失礼いたします」

 俺は緊張しながらも、赤い絨毯を進む。
 すると、ヒソヒソ声が聞こえてくる。

「……継承戦もない男爵家の者が」

「どうせ、貴族に取り立ててくださいとかいうに違いない」

「戦うしか能のない卑しい分際で……」

 ……まあ、そうなるよな。
 だが、俺からしたら戦いもせずに、こんなところにいる方がどうかしている。
 その贅沢な服装が出来るなら、その分のお金をこっちに回して欲しかった。
  俺は舌打ちを堪えて、国王陛下の前で膝をつく。

「英雄アイクよ、顔を上げるが良い」

「はっ、国王陛下」

 俺が顔を上げると、微笑んでいるアリオス国王陛下がいた。
 確か年齢は五十歳だが、まだ若々しく整った顔立ちをしている。
 サラサラの金髪に、細い手足……羨ましい。
 俺はといえば地味な黒髪だし、厳つい顔だもんなぁ。
 身長も190くらいあるし、昔から怖がられたっけ。

「うむ……此度の働き、褒めてつかわす」

「ありがとうございます」

「これにて、戦争は終結した。これからは、平和な時代が来るだろう」

 もちろん、これが建前なのはわかってる。
 まだまだ問題は山積みだろう。
 戦争で疲弊した国力を回復させたり、他国との問題も含めて。

「そう願っております」

「うむ、余もそう思う。お主が作ってくれた機会を無駄にはしない」

「そう言って頂けると嬉しく思います」

 そこで改めて、国王陛下と顔を合わせる。
 その瞬間、何やら懐かしい感覚を覚えた。
 まるで、何処かで会ったことがあるような……多分、気のせいだと思うけど。

「さて、本題に入るとしよう。お主には褒賞を与える。子爵の地位を授け、アトラス領地治めよ」

「子爵!?いや待て……」

「確か、以前は王族の方の避暑地だった……」

「おいおい、あそこはもう廃れたろ。今は代官がいるだけで、正式な領主はいないぞ」

 「なるほど、それなら良い。子爵とはいえ、名前だけだろう」

「静粛に」

 国王陛下が、静かだが威厳のある声を出す。
 すると、一気に空気が張り詰めて……皆が沈黙する。

「ここを何処だと思っている? 誰が話して良いと許可した?」

「まあまあ、国王陛下。皆さんも、戦争が終わって気が緩んでますから」

 隣にいる宰相様が声をかけると、その威圧感が静まっていく。
 流石は国王陛下だ……戦場にいた俺でも、結構な圧を感じた。
   それにしてもアトラス領か……懐かしい名前だ。
   幼き頃に、あの場所で遊んだ記憶がある。

「……まあ、良いだろう。さて、英雄アイクよ」

「はっ、国王陛下」

「お主には、そこの領主となってもらう……良いだろうか?」

「もちろんでございます。その地に赴き、民のために尽力いたします」

 正直言って、俺としては願ったりだ。
 これで近衛騎士とか王都で貴族とか言われたら困るところだった。
 なにせ中央貴族の腐り具合は、戦争で見に染みている。
 敵より味方の方が怖いとか意味がわからない。

「アイクよ、お主にはアトラス領そのものを与える。新たな貴族という扱いなので、今日からアイク-アトラスと名乗るが良い」

「畏まりました! 今日からアイク-アトラスとして、領地を治めてまいります!」

「うむ、良い返事だ……さて、何か望みはあるか? 出来る限り叶えようと思っている」

 その瞳は、俺を気遣ってるように見えた。
 もしかしたら、俺を追い出すような形は国王陛下の本意ではないのかもしれない。
 願い……それなら、決まっている。

「それでは……我が生家が

「お主の家はローガン男爵家だったな……わかった、我が名にかけて約束しよう」

「感謝いたします!」

「うむ……それでは、下がると良い」

「はっ、失礼いたします」

 俺はお辞儀をして、来た道を引き返していく。

 当然周りの視線は、俺を哀れんでいる。

 だが、俺の心は晴れやかだった。

   唯一の懸念は、俺が上官達に嫌われていたことだった。

  待機命令を無視して部下を救ったり、指示に従わずに命令違反をしたりしてた。

 奴らはこれ以上、俺に手柄を立てられるのを嫌がった故に。

 だがこれで俺を逆恨みしてる奴らも、家族には手出しできまい。

   
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

伯爵家の次男に転生しましたが、10歳で当主になってしまいました

竹桜
ファンタジー
 自動運転の試験車両に轢かれて、死んでしまった主人公は異世界のランガン伯爵家の次男に転生した。  転生後の生活は順調そのものだった。  だが、プライドだけ高い兄が愚かな行為をしてしまった。  その結果、主人公の両親は当主の座を追われ、主人公が10歳で当主になってしまった。  これは10歳で当主になってしまった者の物語だ。

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

貧乏男爵家の四男に転生したが、奴隷として売られてしまった

竹桜
ファンタジー
 林業に従事していた主人公は倒木に押し潰されて死んでしまった。  死んだ筈の主人公は異世界に転生したのだ。  貧乏男爵四男に。  転生したのは良いが、奴隷商に売れてしまう。  そんな主人公は何気ない斧を持ち、異世界を生き抜く。

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

ハズレ属性土魔法のせいで辺境に追放されたので、ガンガン領地開拓します!

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:ハズレ属性土魔法のギフトを貰ったことで、周囲から蔑すまれ、辺境の僻地へ追放された俺だけど、僻地の村でガンガン領地開拓! アルファポリス第13回ファンタジー大賞にて優秀賞受賞! アルファポリスにてコミカライズ連載中! 「次にくるライトノベル大賞2022」ノミネート!(2022/11現在、投票受付中。詳細は近況ボードへ) 15歳の託宣の儀でハズレ属性である土魔法のスキルをもらった俺、エクト。 父である辺境伯や兄弟達から蔑まれ、辺境の寒村、ボーダ村へ左遷されることになる。 Bランク女性冒険者パーティ『進撃の翼』の五人を護衛につけ、ボーダの村に向かった俺は、道中で商人を助け、奴隷メイドのリンネを貰うことに。 そうして到着したボーダ村は、危険な森林に隣接し、すっかり寂れていた。 ところが俺は誰も思いつかないような土魔法の使い方で、村とその周囲を開拓していく。 勿論、辺境には危険もいっぱいで、森林の魔獣討伐、ダンジョン発見、ドラゴンとの攻防と大忙し。 宮廷魔術師のオルトビーンや宰相の孫娘リリアーヌを仲間に加え、俺達は領地を発展させていく―― ※連載版は一旦完結していますが、書籍版は3巻から、オリジナルの展開が増えています。そのため、レンタルと連載版で話が繋がっていない部分があります。 ※4巻からは完全書き下ろしなので、連載版とはまた別にお楽しみください!

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

アラフォー料理人が始める異世界スローライフ

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
ある日突然、異世界転移してしまった料理人のタツマ。 わけもわからないまま、異世界で生活を送り……次第に自分のやりたいこと、したかったことを思い出す。 それは料理を通して皆を笑顔にすること、自分がしてもらったように貧しい子達にお腹いっぱいになって貰うことだった。 男は異世界にて、フェンリルや仲間たちと共に穏やかなに過ごしていく。 いずれ、最強の料理人と呼ばれるその日まで。

処理中です...