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それぞれの未来へ

進路について

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 その日の夜、ソファーでテレビを見ている親父に話を切り出す。

「なあ、親父」

「ん? どうした?」

「ちょっと、良いかな?」

「……ああ。じゃあ、テーブルに座るか」

 俺の顔からなにかを察したのか、親父が神妙な表情を浮かべた。
 そして、そのまま二人で向かい合ってテーブルに着く。

「わたし、自分の部屋行ってるねー!」

 空気を読んで、麻里奈がリビングから出ていった。

「………」

「………」

 向かい合ったまま、沈黙が続く。
 どうも、父親と真面目な話をするのは気恥ずかしい感じになってしまう。

「結婚でもするのか?」

「しねえよ! 俺、まだ十七歳だっつーの!」

「おっ、そうだったな。で、どうした?」

 まあ、さっきのは親父なりの気遣いなんだろうな……。

「いや……俺、将来教師になりたいと思って」

「……そうか。もう、そんな歳頃か」

「まあ、年が明ければすぐに三年生になるし」

「そうだな。確かに、俺の時もあっという間に過ぎた記憶がある。ということは、私大の教育学部か?」

「多分、そういうことになるかと思う。とりあえず教員免許の取得をするのではなく、なりたい職業として教師になりたいと思っています」

 最近では、なんちゃって教師も増えたが……。
 俺は、きちんとした教師になりたいと思っている。
 生徒と真剣に向き合い、ぶつかり合うような古臭い教師に。

「そうか……おそらく、辛い目にあうぞ? 俺は、真っ直ぐに育ってくれたお前を誇りに思う。多少の遠回りはしたが……それでも、安心して頼れる男になった」

「親父……」

 そんなこと、初めて言われた。
 そっか……嬉しいものなんだな、父親に認められるって。

「だが、今は時代が変わってきた。真っ直ぐで真面目な人が損する時代に……悲しいことにな。小狡がしく、要領の良い人間だけが得をする。それに考えることを放棄した若者、口ばかり達者になり行動をしない者達。大人でも、学校に教育を任せる無責任な親。自分の行動や発言に責任を持たない者もいる」

「ああ、わかってる。そして人は流されやすい」

 俺は母親が亡くなった時に、それを嫌という程味わってきた。

「ああ、そうだ。それと、モンスターペアレントなんて言葉が流行ったが……今では言われない——なんでだと思う?」

「……俺が小さい頃にあったな。いなくなった……いや、逆なのか?」

「そういうことだ。モンスターペアレントというのが珍しかったから、色々なところで扱われるようになった。でも、今では珍しくもなんともない。スーパーやファミレスで、スマホをいじって子供を放置する親。子供が悪さをしても叱らない親。何か問題が起きれば、学校や人のせいにする親。その所為か、教師になりたい人はどんどん減っているらしい」

「うん、ニュースとかでも見たことある」

「それでも、なりたいのか? はっきり言って、給料も安いし激務だぞ? そして、それに対して感謝されることも少ない」

 これは、親父が教師という職業を馬鹿にしているわけではない。
 親として、俺のことを想ってくれているのだろう。

「ああ、なりたいと思ってる。こんな失敗ばかりの俺でも……違うか、そんな俺だからこそ。いつか生徒に、あんな先生もいたよなって言ってもらえるような人になりたいと思う」

 バカやって、本音でぶつかって………そんな、時代にそぐわない男に。
 そう——俺の憧れである真兄のような。

「そうか……良い目になったな。その名倉先生か……良い先生だったな。さっきは偉そうなことを言ったが、親である俺の代わりにお前を更生してくれた」

「えっ?」

 あれ? 三者面談とはしてないよな?

「実は、文化祭の時に挨拶をさせてもらった。麻里奈から、ある程度のことは聞いていたからな。若いが、中々しっかりした方だったぞ」

「そっか……うん、カッコいい人なんだ。何より、そう見せないところが」

「まあ、父親としては複雑だが……良い出会いをしたな。わかった、お金のことは心配するな。お前が行きたい大学を受験するといい」

「親父……ありがとうございます!」

 俺はバイトをして、初めて思い知った。
 程度はまるで違うが、お金を稼ぐことの大変さを。
 そして、最近になって思った。
 大学に行きたくても行けない人もいること。
 親父が働いてくれているから、俺たちは何不自由なく暮らせていることを。

「冬馬、頭を上げろ。親が子供のしたいことを応援するのは当たり前のことだ。ましてや、それが目標があって行くと言うんだ……こんな嬉しいことはない」

「へっ、親父みたいなこと言って」

「ばかやろー、正真正銘お前の親父だっての」

「あと……今度、綾のお父さんに会うことになった」

「なに……? やっぱり、結婚か?」

「いやだから……いや、強ち間違いでもないか。俺は、そのつもりで挨拶に行くつもりだ」

「そうか……まあ、俺としてはなんとも言えん。お前という息子なら、どこに出しても恥ずかしくはないが……娘を持つ親としてはな」

「やっぱり、そうなるよな。とりあえず、殴られる覚悟はしてる」

「なら、俺から言うことは一つだな。お前らしく、真っ直ぐぶつかってこい」

 それからは、しばらく雑談になった。

 学校のこと、母さんのこと、途中から麻里奈も参加して……。

 親父は男手一つで、俺たちをここまで育ててくれた。

 照れ臭くて言えないけど……親父のことも、尊敬する大人だと思ってるから。
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