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それぞれの未来へ

友達っていいもんだ

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 翌日のお昼頃、俺は待ち合わせの場所付近に到着する。

 駐輪場に自転車を置き、所沢の駅前に向かっていくと……。

 すでに、三人が揃っていた。

「おっ、きたね」

「おう!」

「冬馬君、こんにちは」

「悪い、俺が最後か?」

「いや、みんな今来たところだよ」

 代表して、博が答える。

「そっか、なら良い。で、どこで食べる?」

「冬馬のバイト先は?」

「それそれ! 今、その話をしてたんだよ!」

「ん?」

「あ、あの、僕のお姉ちゃんが、冬馬君と一緒に働いてるって言って……」

「ああ、そういうことか」

「ご、ごめん」

「何を謝ることがある? 別に良いさ。バイト先を教えるくらい」

「へへ」

「なんか、感慨深いものがあるね」

「冬馬君……」

「やめろやめろ、その暖かい視線は」

 全く、照れ臭くて仕方ないぜ……。




 というわけで、少し時間を潰してから……。

 タイミングを見計らって、三人を連れてバイト先に来た。

 客が少なくなった店内にて、若い女性がパタパタと近づいてくる。

「いらっしゃいませー! ……啓介!?」

「お、お姉ちゃん! 声大きいよ!」

「いや啓介、お前もな? こんにちは、恵美さん」

「こんにちは、冬馬君。えっと……」

「初めまして、啓介のお姉さん。中野博といいます、啓介とは同じクラスで友達ですね」

「綺麗なお姉さんっすね! 俺は加藤真斗っていいます! 啓介のダチっす!」

「えぇ!? こんなリア充で陽キャな男の子が? 私は啓介の姉で恵美っていいます ……冬馬君、家族を代表してありがとうございます」

「ちょっ!? 頭をあげてください! 俺は何もしてませんから!」

「そうっすよ! 俺たちは自分の意思で啓介とダチになったんすよ!」

「きっかけは確かに冬馬だったけど、今では冬馬抜きでも話したりするしね」

「でも、冬馬君のおかげなんだ。冬馬君が、リア充も非リア充も関係ないって教えてくれたんだ。わざわざ、そうやって壁を作るからややこしいことになるんだって」

「ふふ、一丁前な男の子になって。でも、冬馬君のいう通りかもね。私も、この歳になってきて少しずつわかってきたけど……本当に高校生なのかしら? 転生とかしてない? タイムリープとか?」

「お、お姉ちゃん!」

 ……なるほど、そりゃそうか。
 啓介のお姉さんってことは、そういうことも知ってるか。




 その後奥の四人席に案内されて、注文を済ませると……。

「啓介! お姉さん彼氏いるのか?」

「えっ? い、いや、今までいたことないけど……」

「へぇ? 可愛いのにね」

「まあ、博のいう通りだな」

「お姉ちゃんは大学デビューってやつで……真斗君は、うちのお姉ちゃんみたいのがタイプなの?」

「おう! お姉さん系が好きだな。付き合うなら歳上がいい」

「マサはそうだったよね。俺は気にしないけど、落ち着いた子がいいかな。啓介は?」

「ぼ、僕? ……そ、その、気の強い人が良いかなぁ。引っ張ってくれるような……男らしくないのはわかってるんだけど」

 なんというか……普通の高校生みたいな会話してるな。
 いや、俺は転生もしてないしタイムリープもしてないが……。
 こういった雰囲気になるのは、中学生以来かもしれない。
 中学のメンツは知り尽くしているから、今更こういう会話にはならないし。


「いやいや、そこは気にしなくて良いんじゃないか? 男らしいとか女らしいとか、それこそ人それぞれだ。引っ張りたい女性だっているだろうし」

 うちの店長の奥さんなんか、まさにそんな感じだ。

「そうそう、冬馬の言う通りだよ。人の好みなんてそれぞれ違って当たり前だよ」

「そうだぜ!  人は人! 自分は自分だぜ!」

「そっかぁ……だから、本物のリア充って人たちは眩しく見えるんだね。あっ、別に卑屈になってるわけでもなくて……自分という確固たる信念?みたいなものを持ってるから、僕のオタク話も聞いてくれるし、無駄にマウントを取ってこないんだ……僕を虐めてきた奴らみたいに」

 俺は啓介の背中をポンと叩いてやる。

「そういうことだ。奴らみたいのは、自分に自信がないから他者を攻撃する。そして、自分より下を作ることで安心しているだけだ。実際、あれ以降は手を出してこないだろう?」

「う、うん。でも、それは冬馬君のおかげじゃ?」

「それは違う。確かに奴らは俺にビビったかもしれない。だが、本当の理由はお前が強くなったからだ。視線を合わせるようになったし、姿勢なんかも良くなった。あいつらは、もうお前を下には見れないから手を出せない。所詮、その程度の奴らだ」

「そうそう、そんな奴らは忘れるに限る。少なくとも俺は、啓介と話してて面白いと思うし、嫌な気分になったことはないよ」

「えっ?」

「オタク話だっけ? 確かに知らないこと多いけど、それが逆に面白いっていうか……バカにしてるわけじゃなくて、なるほどそういう世界もあるのかって感じで。実際に貸してくれたライトノベルのいくつかは面白かったしね」

「そうだぜ! 熱いバトルとかも面白かったしな! 漫画と違って、想像力を膨らむというか……そういうところが新鮮だったぜ」

「二人とも……ありがとう」

「まあ、そういうことだ。リア充とか非リア充とか、陰キャとか陽キャで分けるからおかしくなるんだよ。別にライトノベルを読んでいるからって、非リア充というわけでもないし。ただ、知らないからそういうことを言う人もいるけどな」

「冬馬君……そうだよね。ぼ、僕が別に彼女とか作っても良いんだよね?」

「おっ、もちろんだ。というか、さっきの話に戻るが……どうして、俺には誰も聞いてこない? その、女性の好みとか」

「「「えっ? その質問いる?」」」

 三人の声が重なる。

「あん?」

「いやいや、冬馬は清水さんって言うに決まってるし」

「そうだぜ、冬馬。そんなつまらんことは聞かねえよ」

「冬馬君、流石の僕もそれくらいはわかるよ?」

「いや、まあ、確かに……綾だと言うに決まっているが」

「「「ご馳走さまです」」」

「あっ——めっちゃ疎外感」

「というか! お前だけ彼女いてずるいし!」

「そうだよねー」

「ほんとだよ」

「いや、博は最近黒野といい感じだろ?」

「えっ!? い、いや、まあ」

「それそれ! 突っ込んで良いか迷ってたんだよ」

「いや、でも、啓介だって……なんか、文化祭の時に年下の女の子といたって聞いたけど?」

「えっ? いや、それは……」

「な、なにぃ……? そ、そんな、俺だけが仲間はずれなのか……」

「「「どんまい」」」

「ち、チクショー! こうなったらやけ食いしてやる!」

「失恋した女子か、お前は」

「やれやれ」

「はは……なんか楽しいね」

 啓介の言う通りだな……。

 うん……なんか、こういうのも悪くない。

 大したことない日常かもしれないが……。

 いつか思い出した時に、心が温まる気がする。
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