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冬馬君は遅れたものを取り戻す

ダブルデート~前編~

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 翌日の朝、駅にて待ち合わせをする。

 俺は少し早めにきて、博と作戦を練る。

「さて、どうする? どこまでいく?」

「うーん、問題はそこだよね。清水さんは知らないんだよね?」

「ああ、綾は隠し事はできないタイプだ。ましてや、相手は黒野だしな」

「清水さんが下手に誘導したらバレるね」

「だから、そこは臨機応変に俺が対応する」

「ありがとう、助かるよ。それで……とりあえず、意識してもらえると良いかも」

「なるほど、ただの友達と思われてるっぽいもんな?」

「そうなんだよ。まあ、悪いのは自分なんだけどね。そういう風に振舞ってたのは俺自身だし」

「俺はどうしたらいい?」

「……自然体でいいかもしれない。今日はとりあえず楽しむ方針で。もしチャンスがあれば合図を送るよ。そうだな……ウインクしてみるとか?」

「わかった。そうだな、まずは楽しまないことには始まらないか」

 すると、タイミング良く綾達がやってくる。

「あれ? 時間間違えたかな?」

「二人ともジュース持ってるわね」

「いや、女子を待たせるわけにはいかないと思ってね」

「そうそう、早めに来といたんだ」

 何とか誤魔化して、電車に乗り込む。



 所沢駅から遊園地前でおり、そっからは歩きで行く。

 四人で並んで歩くと迷惑なので、二人ずつ歩く。

 今は、前に黒野と博がいる。

「中野、悪いわね。付き合ってもらっちゃって」

「いや、そんなことないよ。俺が来たくて来ただけだから」

「相変わらず優しい男ね。昔から人に気を使ってばかりいたものね」

「そういうわけでもないんだけどね。そういう性分なんだと思う」

「でも、良いと思うわ。今回の文化祭実行委員も、貴方と一緒で良かったわよ。男子ったら、どいつもこいつも言うこと聞きゃしない」

「あ、ありがとう。俺も黒野と一緒で良かったよ。やっぱり落ち着いてるし、気配りが出来て良いと思った」

「なんだか、褒め合うと気持ち悪いわね……」

「そ、そうだね」

 ふむ……悪くはないと思うが。

「ねえねえ、やっぱりあの二人ってお似合いだよね?」

 綾が小声で言ってくる。

「ん? ああ、そうかもな」

「加奈も彼氏欲しいみたいなこと言ってたから、どうなんだろう?」

「へぇ……そうなのか」

「わ、私達見てたら欲しくなったって……ラブラブで」

「まあ、間違いないな。俺は綾にベタ惚れだからな」

「は、はぃ……私もです」

「何をコソコソしてるのかしら?」

「いやー、良いよね。二人は見てても嫌味がないし」

「ああ、それはわかるわ。普通カップルがイチャイチャしてたら腹が立つんだけど……」

「自然体だからだろうね」

「まあ、まだ付き合って半年も経ってないんだけどな」

 そんな会話をしていると、入り口に到着する。

 券を見せて、中に入る。

「うわぁ……! 全然違うねっ!」

「ああ、新しくなってるな」

「何年振りかしら? 確かに全く違うわね」

「ジェットコースターがなくなったんだよね? 何から行こうか?」

「綾と黒野が決めて良いぞ」

「えっ? 良いの? ……えっと」

「私はこれね」

「じゃあ、私はこれかな?」

 ベンチに座って、パンフレットを眺めている。

「では、基本的に放っておくんで良いんだな?」

「うん、それで。何かあればフォローしてくれると助かるかな」

「おっけー、わかった」

「決まったよっ!」

「まずは空中ブランコがいいわね」

「おっ、アレはまだあるのか」

「すごい気持ちいいやつだよね」

「レッツゴー!」

 綾がテンション上がってて可愛い……。 
  いやいや、今日の俺の仕事は博のフォロー……だけど少しくらいは良いよな?
 綾も普通に楽しんでるし、俺も自然体の方が良いって言われてたし。



「「キャァ——!!」」

「「ヒャッホー!!」」

 地上十メートルを超える高さで、ブランコがそこそこの速さで回る!
 風が体全体に当たり、爽快感が半端ない。

「あぁー! 気持ち良かったねっ!」

「ああ、爽快感があったな。まだ冬本番じゃなくて良かったかもな」

「そ、そうね」

「ガラにもなくキャァーとか言ってたね?」

「う、うるさいわよっ!」

「加奈ってねーそういう可愛いところあるんだよ?」

「ちょっと!?」

「「へぇー……」」

「二人してニヤニヤしないでちょうだい!」

 ……なんか、普通に楽しいな。
 今回はあくまでも博のための企画だけど……。
 本当のタブルデートってやつも良いかもな。
 別にイチャイチャしなくても、綾が楽しそうなら俺も楽しいし。

「次は何にするんだ?」

「この3Dのやつ!」

「ゴジラが襲ってくるらしいわよ?」

「なに? それは楽しみだな」

「俺達世代でも、あれは知ってるしね。父親が好きだったし」

「うちも親父が全巻持ってて、俺はよく見せられたよ」

「えっ!? 私だよっ!」

「まじか……やっぱり、まだまだ知らないことは多いんだな」

「みんな良いわね」

「「「あっ——」」」

 三人の声が重なる。
 しまった……父親の話はダブーだったか。

「ちょっと? 変な空気にしないでよ。そうよね、ここにいる人は知っているのよね。もう吹っ切れてるから大丈夫よ」

「そうか……気を使う方が失礼だな」

「そうだね……」

「わかったよ」

「ふふ、ありがとね。あっ、中野にはお礼を言わないといけないわね」

「えっ?」

「私に父親がいないってわかった時、部活内で庇ってくれたでしょう? 好き勝手言うなって……」

「し、知ってたのかい?」

「後から聞いたのよ。だからタイミングがなかったんだけど……ありがとうございました」

「あ、ああ……」

「何惚けた顔をしているのよ、せっかくのイケメンが台無しよ?」

「う、うるさいな!」

「ところで……ついでに言うと、私に兄がいたのは知ってるわよね?」

「うん?  ……ああ、聞いたことはあるね」

「あれ……名倉先生だから」

「……へっ?」

「だから……名倉先生が、私の兄なのよ」

 ……そうか、知らなかったっけ。

 俺は今更ながら、そんなことを思う。

 そして同時に、黒野は博を信頼しているということがわかった。
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