上 下
129 / 185
冬馬君は遅れたものを取り戻す

文化祭二日目~その1~

しおりを挟む
   一夜明け、文化祭2日目となる。

 俺たちは、いつものように電車で待ち合わせをしていた。

「そういえばね……視線を感じた気がする……」

「ん? 何がだ?」

「いや、文化祭祭の時に……全身を見られているような感じ……最初はお客さんなのかなって思ってたんだけど……家に帰ってからよーく考えてみると……」

「気のせいじゃないと思ったってことか……」

「うん……ただ、嫌な感じがしなかった気がするの……うーん……観察されてるような?」

 観察か……メモといい、ストーカーではないのか?

「そうか、実はな……」

 言うつもりはなかったが、本人が気にしているようなので伝えることにした。
 どっちしろ不安であることに変わりはないが、俺がしっかりしていれば良いことだ。

「メモを取っていた? うーん……」

「まあ、今は気にしなくて良い。何があろうと——俺が側にいる」

「冬馬君……うんっ! ありがとう! せっかくのデートだもんねっ!」

「そういうことだ」

 気持ちを切り替えて、文化祭2日目の開催だ。


 学校に到着した俺達は荷物を置き、そのままデートとなる。

「何から見ようかな!?」

「何がしたいんだ?」

「憧れてたのは、食べ物をあーんとか……景品があるような出し物とか?」

「まだ食うには早いから、景品系を攻めるとするか」

「うんっ!」

 腕に柔らかなものが押し当てられる……!

「お、おい?」

「えへへ~」

 まあ、綾が喜ぶならいいか。


 まずは……知らない射的からのようだ。

「よーし! 私からやるねっ!」

「まあ、待て……これでよしと。それを見ていいのは——俺だけだ」

 綾が鉄砲を打つ際に、スカートから脚線美が覗かれてしまうからな。
 なので、俺が真後ろに立つ。

「あ、ありがとぅ……」

「いや、気にするな。俺の独占欲だし」

「はぅ……」

「ほら、やってみ」

「う、うん、狙いは貯金箱! ……えいっ!」

「……おい?」

 明後日の方向に飛んでいったぞ?

「あれ? おかしい……もう一回……えいっ!」

 カスリもしない。

「可愛いか!」

「えぇ!?」

「ほら、貸してみ」

「うぅー……」

「自分でやりたいのか?」

「う、うん……」

「仕方ない……ほれ、よく見ろ」

 背中から抱きしめるように、一緒に銃を持つ。

「ひゃん!?」

「なんだ? 変な声出して」

「だ、だ、だって……」

 いや、わかってるけどね?
 アレが当たっているのは……せっかく、人が意識しないようにしてるっていうのに。

「ほら、集中しろ」

「は、はぃ……」

「行くぞ……そこだ!」

「えいっ!」

 俺が狙いをつけて綾が撃った弾は——貯金箱に命中する。

「やったぁ!」

「おめでとうございます! はい、どうぞ」

「ありがとうございます! えへへー、楽しい」

「良かったな。しかし、なんで貯金箱なんだ?」

「えっと……これ、大きいでしょ?」

 郵便ポストの形をした貯金箱は、確かにそこそこの大きさがある。
    十万円貯金箱って書いてあるくらいだし。

「ああ、500円玉貯金とかもできそうだな」

「そうなのですっ!」

「ん?」

「あのね……これに、二人で貯金しない?」

「それは良いが、何に使うんだ?」

「何に使うかはわからないけど、いつか一杯になったらこれを使って二人で何かしたいなぁって………」

「これ、結構時間かかるぞ?」

「ダメかな……?」

「いや、ダメなことなどない。それに……嬉しいしな」

「え?」

「この先も一緒ってことだろ?」

「う、うん……そういう意味もあります……」

「じゃあ、いつか貯まったら……旅行でもいくか」

「うわぁ……!  いいねっ! 楽しみ!」


 その後はお化け屋敷、展示物、占いなどをしていく。
 そして、小腹がすいてきたので、屋台で買ったものをベンチで食べる。

「んっ~! おいひい!」

「なんだろな? 祭りとか、こういう時に食う焼きそばとかって美味いよな」

「不思議だよねー。使ってるのはいつも通りなんだけど」

「お化け屋敷はしょぼかったな」

「私達は、前に遊園地の行ってるしね」

「確かに……また、行こうな」

「うんっ! 占いは良かったなぁ~」

「いや、アレは……」

「うん?」

「いや、何でもないです」

 占う人を睨みつけていたからなぁ……。
 あれじゃ、相性が悪いとか言えないだろうに。

 そして、たこ焼きを食べていると……。

「あっ——忘れてた! あ~ん……」

「あーん……もぐもぐ……うん、さっきより美味い」

「えへへー、わ、私も……あーん……」

「あーん……」

「……もいひい!」

「おい、食べてからにしなさい」

「……美味しい!」

「ああ、そうだな。好きな人とすると、何でも楽しいし美味しいな」

「も、もぅ……ずるいです……いつも、不意にそういうこと言うんだもん」

「軽々しく言うものでもないしな。あっ——もちろん、言われるのは好きだぞ?」

「……す、好きです……改まって言うのは照れますね……」

 その時、ピンポンパンポンという音が鳴る。
 つまり、校内放送だな。

『ご来客の皆様にお知らせします。本日三時より、ミスターコンテストを開催いたします。興味のある方は、是非ご参加ください』

「近づいてきたな……ん? まずい!」

「え? ……一時になっちゃう!」

 俺たちは、急いで教室へ向かうのだった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

どうしてもモテない俺に天使が降りてきた件について

塀流 通留
青春
ラブコメな青春に憧れる高校生――茂手太陽(もて たいよう)。 好きな女の子と過ごす楽しい青春を送るため、彼はひたすら努力を繰り返したのだが――モテなかった。 それはもうモテなかった。 何をどうやってもモテなかった。 呪われてるんじゃないかというくらいモテなかった。 そんな青春負け組説濃厚な彼の元に、ボクッ娘美少女天使が現れて―― モテない高校生とボクッ娘天使が送る青春ラブコメ……に見せかけた何か!? 最後の最後のどんでん返しであなたは知るだろう。 これはラブコメじゃない!――と <追記> 本作品は私がデビュー前に書いた新人賞投稿策を改訂したものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

不撓導舟の独善

縞田
青春
志操学園高等学校――生徒会。その生徒会は様々な役割を担っている。学校行事の運営、部活の手伝い、生徒の悩み相談まで、多岐にわたる。 現生徒会長の不撓導舟はあることに悩まされていた。 その悩みとは、生徒会役員が一向に増えないこと。 放課後の生徒会室で、頼まれた仕事をしている不撓のもとに、一人の女子生徒が現れる。 学校からの頼み事、生徒たちの悩み相談を解決していくラブコメです。 『なろう』にも掲載。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...