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冬馬君は遅れたものを取り戻す

文化祭1日目~最終~

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 休憩をした俺達は、再び教室に戻る。

 後ろのドアから入り、従業員スペースにいくと……。

「あっ、おかえり」

「こんにちはー」

「おう、啓介に恵美さん」

「むぅ……」

「おい? 何をむすっとしている?」

「下の名前で呼んでる……」

 おい、可愛いのだが?

「いや、しかしな……バイトで決まったからな……」

「冬馬君、今はバイト中ですか?」

 膨れている……なんだこの可愛い子は。

「ふふ……田中でいいわよ。貴方が噂の彼女さんね……うわぁ~滅多にお目にかかれないレベルの美少女……なるほど、吉野君が夢中になるわけだ。こんなに愛されちゃってるし」

「む、夢中……愛される……」

 今度はモジモジし出した——このまま、どこかひと気のないところに行きたい。

「では、田中さんで。しかし、仲がいいですね? 弟だけに会いに文化祭に来るなんて」

「いや~本当はお母さんも来る予定だったんだけど……啓介が友達いっぱいできたからってお母さんがはしゃいじゃって……」

「僕がお願いだから来ないでって……全員にプレゼントを用意しようとしてたし……」

「ハハ……それは流石に嫌だな」

「わ、私も……」

「というわけで、私だけが視察というか……本当に上手くやってるのかなーと思って見にきたわけですよ」

「啓介は平気ですよ。さっきも俺の妹を守ってくれましたしね」

「聞いたわ……もう、びっくりよ。あの啓介が……私の後ろに引っ付いて泣き虫だったあの子が」

「お姉ちゃん!?」

「でも、貴方みたいになりたいって……家族揃って泣いちゃったわよ。これからも弟と仲良くしてくれたら嬉しいです」

「クク……啓介は俺のダチですよ。言われなくても仲良くしますよ」

「冬馬君……」

「よかったわ、これで両親にも報告ができるわ。じゃあ、そろそろ帰るわね」

「啓介、送っていけ。また何かあれば大変だ」

「うん、そうするよ」

「じゃあ、またバイトでねー」

「ええ、また」

 二人が出て行った後、俺達は表に出て働く。

 綾をナンパする奴を撃退したり。
 俺に女の子が群がって、綾が膨れたり。
 智が飛鳥を連れてきて謝らせたり。
 剛真が森川に会いきたり。

 そんな中、珍しい組み合わせが来た。

「おっ、どうした?」

「お疲れ様、冬馬」

「よう、似合ってんぜ」

 アキと小百合という珍しいコンビがやってきた。
 この二人は仲が良いが、同族嫌悪というか……。
 二人きりっていうのは、昔からあんまり見ないな。
  
「なんだなんだ? 二人して」

「ミスターコンテストのお知らせに来たわ。後、綾ちゃんを愛でに来たわ」

「俺もだ」

「アキ——死にたいか?」

「じ、冗談だよ……こぇぇ」

「ふふ……私は女子だから綾ちゃんを愛でられるわ! アキ——ざまぁ!」

「ク、クソォ……この腐った女め……」

「おい、ほどほどにしろよ? ったく、女子同士でも男子同士でもいけるとか……」

「あら? 二人共、褒めてくれるの? ありがとう」

「「褒めてないから」」

「かぶったわ! これは良い題材に……」

「「するなっ!!」」

「あっ、あのっ!」

「あら、綾ちゃん。相変わらず可愛いわね」

「あ、ありがとうございます……じゃなくて! まずは座ってください! みんなが見てますから!」

 いつの間にか視線が集まっていた。
 まあ、この二人は割と有名人だしな。

「あら、ごめんなさい。そうね、アキのせいで怒られたわ」

「俺が悪いの?」

「ああ、全くだ。アキのせいで怒られたぜ」

「あれ?俺のせい?」

「「まあ、怒った顔も可愛いからいいけど」」

「あぅぅ……」


 こうして……あっという間に時間は過ぎ、1日目が終了した。

「ふぅ……疲れたな」

「お疲れ様」

「綾こそな」

「じゃあ、着替えないとだね」

 男子は部屋の外で着替えるで、教室を出る。

「冬馬、少しいいかな?」

「博、わかっている。例の件だな?」

「すまないね、催促して……」

「いや、構わない。黒野の事情はある程度解決した。おそらく、もう誘っても平気だろう」

「やっぱり……家族の件かい?」

「知ってたのか?」

「詳しくは知らない。ただ、どうしても噂にはなるからさ。片親とかそういうのは」

「そうか……文化祭が終わって、来週あたりに予定を入れるとしよう」

「本当かい?助かるよ。ありがとう、冬馬」

「いや、こっちこそ悪かった。実は言うと、少し忘れていた」

 綾のストーカーの件もあるし……。

「何かあったのかい?」

「いや……綾が、最近見られている気がするって言うからさ」

「それは心配だね……ん?いや……」

「どうした?」

「気のせいかもしれないけど……清水さんを見ていた人がいたかも」

「なに? ……詳しく教えてくれ」

「確証はないけど……清水さんを見て、何かメモをしている人がいたんだよ。すぐにどっかに行っちゃったけどね」

「なるほど……貴重な意見だな。博、サンキュー」

「いや、こっちこそごめん。もっと確認しておけばよかったよ」

「いや、この人混みじゃ仕方ないさ」

 でもそうか……この人混みの中に紛れ込むのは容易いだろう。
 明日も、これまで以上に注意しておこう。
 せっかくの楽しい文化祭が、嫌な思い出にならないように……。


 着替えた後は、みんなで片付けをする。

「さて……明日の予定は」

「私と冬馬君は午前中休みで、文化祭を見て回るでしょ?」

「ああ、さっきも言ってたしな。俺はミスターコンテストにも出なきゃだな」

「時間はいつなの?」

「さっき、小百合とアキが来た時に伝えられたよ。三時から開催するって」

「じゃあ、デートの邪魔はされないねっ!」

 綾は、心底嬉しそうな顔を見せる。

「お、おう……」

「な、なんで照れるの!? あ、相変わらず、冬馬君のデレポイントは謎です……」

「自覚がないとは——恐ろしい子や」

「どゆこと?」

「いや、いいんだ。ああ、明日は遊ぶとしよう」

 綾が何も気にしなくていいように、俺がアンテナを張っていればいいし。

「うんっ!」

 この笑顔を守れるなら安いものだ。
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