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冬馬君は平和な日々を取り戻し……

冬馬君は青春する

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 目覚ましの音が聞こえる……。

「……朝か……うん、昨日は失敗したなぁ」

 ……やっちまったな……。

 ハァァーー……俺がちゃんとリードできなかったからだな。

 きっと、無意識のうちに先走っていたに違いない……。

 早く……その、入れたいがために……。

 自分の気持ちよさを優先しようとしたのかもな……。

 まだ、綾が準備できていないにもかかわらず……。

 これは……反省が必要だな。

 唯一の救いは、悪い意味で気まずくはならなかったことか。

 よし!次は失敗しないように、何か対策を考えておかなきゃな。

「さて……とりあえず平静を装っておかなきゃな」



 いつも通り電車に乗り、綾と顔を合わせるが……ダメだ。

「お、おはよう、綾」

 昨日の綾の裸体が頭から離れない……。
 行為こそ及ばなかったが、綾の裸を見たんだよな……。
 メチャメチャ綺麗だったよなぁ……。
 俺……よく我慢出来たな。

「お、おはょ、冬馬君」

「………」

「………」

「「あのっ」」

「ハハ……」

「えへ……」

「と、とりあえず……すまなかった」

「え?なんで?どうして謝るの?」

 電車の中なので、綾の耳にそっと囁く。

「いや……俺が上手くできなかったからさ……」

「ひゃん!?え?……ううん、そんなことないよ。わ、私こそ、土壇場で怖くなっちゃって……」

「そうか……じゃあ、とりあえずは気にしないことにしよう……お互いにな」

「う、うん……でも……」

「ん?どうした?」

「ううん!なんでもないの」

「……まあ、良いか。さて、今日はどうするんだっけ?」

「放課後の教室に残って……採寸合わせするんじゃなかった?」

「あっ、そういやそうだったな。確か部活生も今日だけは全員休みで、クラスの出し物の採寸や相談をするんだったな。てことは俺も居残りか……」

「ふふ、執事服絶対似合うもん。写真撮ろうね?」

「畏まりました、お嬢様」

「ププッ!?もう~!」

 ……フゥ、なんとか普通の空気に戻れたかな。




 そして授業を終え、放課後を迎える。

「あの~、綾さん?」

「動かないで!私がやるの!」

「はいはい……」

 衣装係が俺の採寸を測ろうとしたら、綾が自分がやると言い出したのだ。
 どうやら、女子が俺の身体に触れるのがイヤというか……。
 まあ、嫉妬をしたということらしい……可愛いから良いけどな。

「ふふ、相変わらずラブラブね」

「だね~、でも……まあ、いいか」

「どうやら、ことには及んでないけど……気まずくはならなかったようね」

「ふえっ!?ふ、2人とも!?」

「綾、手元見ないと。ブレるぞ?」

「あら?彼氏は動揺しないのね?」

「さすが~。ヨッ!レッドウルフ!」

「やめんか!ここ学校だっつーの!」

「むぅ……冬馬君が動揺しないのも複雑です……」

 ……いや、ギリギリ保ってるだけですけどね?
 俺だって、動揺してますからね?
 言われるたびに、貴方の綺麗な裸が浮かびますからね?
 ……とは言えんな。
 俺の男としての意地にかけて……!

 その後採寸を終え、暇な時間となる。
 理由は簡単である。
 女子の採寸があるので、男子は追い出されたということだ。
 ちなみに、見張りを申し出たら断られた。
 よく考えたら当たり前の話である。

「あれ?吉野君、もしかして暇かな?」

「おっ、中野君。まあ、有り体に言えばそうだな」

「もし良かったら、バスケしない?今日は部活もないし、体育館空いてるから」

「ん?良いけど、勝手に使っていいのか?」

 俺も昨日のことがあり、身体を動かしたかったところだ。

「それは大丈夫。元々、自主練したかったから許可は取っておいたから」

「おっ、なら問題ないな。いいぜ、行こうか」

 2人で体育館へ向けて歩き出す。

「よし、決まりだね。ようやく遊べるね」

「あぁ……そういや、そんなこと言ってたな」

「吉野君は清水さんとばっかりいるからね」

「……すまない。そうだよな……自重する」

「いや、いいんじゃないかな。皆、触発されて恋人作ろうと思ってるみたいだし」

「え?そうなのか?」

「あれ?気づいてない?何人かカップルできたんだけど。やっぱり、清水さんにしか興味ないみたいだね」

「それは否定できないな。綾は可愛いからな」

「おおっ!照れもせずにどストレート……うん、見習いたいくらいだね」

「うん?中野君はモテそうたけど、彼女いないのか?」

「うん、いないね。確かに、告白とかはされることもあるけど。好きな子以外とは付き合う気ないしね」

 ……へぇ、自分が言うのもなんだが今時珍しいな。

「気に入った!」

「うん?あ、ありがとう?」

「ところで、申し訳ないのだが……名前なんて言うんだ?」

「えっ?ああ、確かに知らないか。博って言うよ」

「博か……今日からそう呼んでいいか?」

「うん、もちろん……ええと」

「もちろん、俺のことも冬馬でいい」

「オッケー。じゃあ、冬馬。これからよろしくね」

「おう、博」

 ……今更、新しい友達が出来るとは思って無かったな。
 これも綾のおかげだな。

 その後バスケットコートにて、1on1をひたすら繰り返す。

「にゃろう!!」

「うわっ!?ウソ!?ボール取られた!?」

「舐めんなよ!!」

 シュートを決める。

「まいったな……楽しいな。よし!もう一回!」

「こいや!」



 そして、2人して床に寝そべる……。

「ゼェ、ゼェ……さすがに敵わんか」

「ハァ、ハァ……何言ってんの?帰宅部なのに、俺について来れるとか……勿体ないね。でも、良いかな。こうやって遊べてるし」

「まあ、これでも毎日走ってるからな。ん?なんだ?」

「おーい!ずるいぞ!!」

 あれは陸上部の加藤に、サッカー部の佐々木や奥村まで……。
 他にもクラスの男子が何人かいる。
 あれ?田中君まで……。

「俺らもいれろや!」

「そうだ!そうだ!」

「いいけど……お前らは俺のこと嫌いじゃないのか?」

「はぁ!?嫌いだよ!だが、それとこれとは話は別だ!」

「羨ましいけどな!」

 ……そっか。
 こいつらも、根っからの悪い奴らじゃないってことか。

「そうか……田中君はどうして?」

「う、うん……僕も変わろうかなって。どうせ、違うタイプだって思って諦めてたけど。吉……冬馬君みたいな人もいるってわかったから」

「田中……あれ?」

「ハハ……だよね。啓介って言うんだ」

「そうか、啓介か。よろしくな」

「うん!まあ、足手まといだけどね……」

「遊びだから気にすんな。なっ?博」

「そうそう、皆で楽しくやろう」

「ほら!早くやろうぜ!」
 
「わかったよ……えーと」

「加藤真斗だよ!冬馬!」

「おっ、そうか。マサかな。よろしくな」

 その後は、皆で楽しくバスケに興じる。

 いつのまにか時間もたち、クラスの女子達が観客として見ていた。

「冬馬君~!!頑張って~!!」

「と、言うわけだ。博……抜かせてもらうぜ?」

「いやいや、こっちこそ好きな子の前ではカッコつけたいし」

「はい?」

「隙あり!」

「はっ!そんなもんはねぇ!」

 博の手を半歩下がり躱す。
 そして姿勢を後ろに傾けながら、ジャンプシュートをする。

「なっーー!!フェイドアウェイ!?」

 俺の放ったシュートは、綺麗な放物線を描いてリングに入る。
 スパッ!と気持ちの良い音が体育館に鳴り響く。

「よし!決まった!」

「冬馬君~!ナイスシュート!かっこよかったよー!」

 ……まさか、クラスの連中とこんな風に過ごせるなんてな。

 綾、ありがとう。
 お前と出逢えて良かった。
 きっと、綾と会わなければ……。
 俺はこんなに良い奴もいることに気付かずに、学校生活を送っていただろう。
 綾も大事だが、これからはこういう付き合いも大事にしていこう。
 俺は、そんなことを思うのだった……。






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