上 下
38 / 185
冬馬君の自制心は……

冬馬君は今更気付く

しおりを挟む
 さて、いよいよ夏休みも、あと1週間くらいだ。

 今年は、特別な夏休みになったな……。

 まさか、俺に彼女ができて、その彼女に夢中になってしまうとは……。

 去年までの俺では、考えられないことだな。

 そして、今日は綾のバイトデビューを果たしたようだ。

 無事に面接を受け、きちんと受かったようで一安心である。

 あそこなら、安心して任せられる。




 ……だったのだが、気になるものは気になる。

 すぐにでも見に行きたかったが、矢倉親子に止められた。

 せめて、少しは待てと。

 綾が仕事に集中出来ないからと。

 そして、三度目の出勤日の今日、ようやく許可がおりた。

 俺は矢倉書店に向かい、入店する。

「いらっしゃいませ……冬馬君!あれ!?まだ、終わるまで時間あるよ?」

「おう、綾。頑張ってるみたいだな。いや、気になってしまってな」

「そうなんだ……うん!おかげさまで、働きやすいよ!多少のアレはあるけど……」

「アレ?なんかあったのか?」

「あらあらー、冬馬君。やっぱり早く来たのねー。そのまま、裏に行っていいわよー。お父さん、待ってるから。綾ちゃんの仕事終わるまで、よかったら相手してあげて」

「わかりました、邪魔はしたくありませんから。じゃあ、綾。また後でな」

「うん!あと少し頑張るね!」

 矢倉書店は8時には閉まるから、稼ぎは低いかもしれないが働きやすくはあるだろうな。

 平日に定休日も2日あるし、一回で働くのは三時間くらいでいいらしいし。

 今日は3時から6時で、今は5時半くらいだ。

 俺はノックをし、裏口に入る。

「失礼します」

「ふっ、心配で来たのか?」

「まあ、そんなところですね」

「あの子のおかげで売り上げが伸びて、こっちはなかなか大変だ」

「え?そうなんですか?」

「ああ、可愛い子がいるってな。もちろん、タチの悪いのは俺が排除した」

「ありがとうございます。俺も安心できます」

「ただな……」

「ん?そういえば、綾が何か言いかけてましたね……何か問題が?」

「……あそこに監視カメラがあるから、少し見てろ」

「はぁ……わかりました」

 大人しく椅子に座り、監視カメラを眺める。

 すると、とある男性が綾に近づく。
 何やら花束を持っている。
 そして、なにかを申し込んでいる。
 ただ、すぐに消沈して去っていく。

「えっと……どういうことですか?」

「……俺も驚いている。まさか、3日目でこうなるとは。どうやら、真剣交際の申し込みをしているようなのだ。同じ男として、さすがにそれを咎めることはできん」

「……なるほど、そういうことですか」

 どうしよう……物凄くモヤモヤするぞ?

「……嫉妬か?独占欲か?自信がないのか?」

「違い……いや、そうかもしれませんね。俺は男を磨かなくてはなりませんね」

「そうだな。彼女はお前のために色々努力をしているようだぞ?俺にまで、冬馬君はどういう服が好きとかわかりますか?とか聞いてきたぞ」

「それは……すみません」

 その後談笑をし、6時になる。

「冬馬君!お待たせ!店長!お疲れ様でした!」

「ああ、お疲れ……丁寧な対応で良いと思う」

「あっ、ありがとうございます!」

「じゃあ、親父さん。失礼します」

「……また、こい」






 その後綾を連れて、喫茶店アイル入店する。

 マスターに挨拶をし、いつもの席に座る。

 そして、飲み物がきて先程の話になる。

「で、アレか……」

「うん……そうなの。彼氏いるって言ったんだけど……冬馬君、怒ってる……?ごめんなさい」

「なに……?怒っていないが……何故だ?」

「え?だって……眉間にシワが……」

「え?……マジか……」

 怒ってはいないはず……綾は悪くない。
 ただ、俺の器が小さいだけだな……。

「うん……いやかな?やっぱり……」

「待て待て。綾が謝ることなど何もない。ただ、アレだ」

「アレ?」

「あー、なんだ……ただの醜い嫉妬心というやつだ。俺の器が小さかったということだ。むしろ、謝るべきなのは俺の方だ。すまん」

 きちんと手をふとももに置き、頭を下げる。

「えぇ!?し、嫉妬……その、嬉しいです……」

「そうなのか?器小さくてダサくないか?」

「そんなことないよ。好きな男の子に嫉妬されるなら嬉しいもん。だ、だって……私のこと、好きだってことでしょ……?」

「そりゃもちろん。好きに決まっている」

「決まっているんだ……ふふ、やったね」

「あー……そっか。これから、それを見ることになるのか……」

 その笑顔を見ながら、とても今更なことに気づく。

「え?どういうことかな?」

「いや……学校始まったら、また告白されるだろう?」

「う、うん……私も、そのことで相談がありまして……冬馬君が、私の彼氏って言っていいのかな?」

「それは、アレだな?俺を気遣ってのことだな?」

「うん……冬馬君に迷惑かけちゃうから……でも、私……」

「それ以上はいい。綾のためなら、俺の平穏な日々など捨ててやる」

「え……?いいの?だって……自分で言うのもなんだけど、私の彼氏ってわかったら大変だよ?」

「ああ、いい。俺だって綾と弁当食べたり、登下校時に一緒にいたいしな」

「ホント!?そうなの!私もそれがしたいの!」

「それなら良かった……何よりアレだ……」

「ん?」

「少しは、告白が減るんじゃないかと……俺は、どうやら独占欲もあるくせに、嫉妬心まであるようだからな……俺が嫌なんだよ……」

 綾は一瞬ポカンとした後、意味を理解したのか、みるみる頬が赤くなっていく。

「………はぅ……ど、どうしよう……ドキドキが止まらないよぉ……!」

 ……俺のセリフだーー!!

 ……さて、これにて平穏な日々が終わるかもしれん。

 だが、不思議と悪い気はしない……。

 綾の存在が、俺の中で大きくなっているということなのだろう。

 正直言って、どうなるか想像がつかない……。

 後は、出たとこ勝負だな……。

 綾の照れ顔を見ながら、俺はそんなことを考えていた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしてもモテない俺に天使が降りてきた件について

塀流 通留
青春
ラブコメな青春に憧れる高校生――茂手太陽(もて たいよう)。 好きな女の子と過ごす楽しい青春を送るため、彼はひたすら努力を繰り返したのだが――モテなかった。 それはもうモテなかった。 何をどうやってもモテなかった。 呪われてるんじゃないかというくらいモテなかった。 そんな青春負け組説濃厚な彼の元に、ボクッ娘美少女天使が現れて―― モテない高校生とボクッ娘天使が送る青春ラブコメ……に見せかけた何か!? 最後の最後のどんでん返しであなたは知るだろう。 これはラブコメじゃない!――と <追記> 本作品は私がデビュー前に書いた新人賞投稿策を改訂したものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

処理中です...