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冬馬君の自制心は……

冬馬君は相談を受ける

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 さて、あの日から日にちが経った。

 いよいよ、夏休みも終わりに近づいている。

 あと10日といったところだ。

 そして朝起きた俺は、ある出来事に驚くことになる。





「マジか……アルザール戦記の新刊が発売している……」

 これは、割と衝撃的な出来事だ……。

 この俺が、大ファンである小説の発売日を忘れているとは……。

 自覚はなかったが、そういうことなのだろう。

 自分が思う以上に、綾の存在が大きいということか……。

 すると綾から「今日、会えないかな?」と連絡が来た。

「これは、とりあえず電話するか」

 電話をかけると、すぐに綾の声が聞こえる。

「お、早いな?もしもし?」

「もしもしー、冬馬君、おはよー」

「おう、おはよう。で、今日なんだが……」

「あ、ごめんなさい。何か予定あったかな?相談があったんだけど……」

「いや、それ自体は大丈夫だ。ただ、好きな小説の発売日が過ぎててな。それを買いに行った後、喫茶店に行きたいんだ。だから、俺の地元でもいいか?」

「うん!大丈夫!でも、私邪魔じゃないかな……?その、気を遣わなくても良いんだよ?……いや、私馬鹿だね……これ言ってる時点で気を遣わせちゃうね……」

「ククク……」

「え!?な、なんで笑うの!?」

「いや、俺の彼女は可愛いなと思ってな」

「はぇ?な、な、なんで……?どういうことだろう……?う、嬉しいけど……」

「いやいや、気にしなくていい。とりあえず、大丈夫だ。じゃあ、迎えに行くから。用意して待っててくれ。悪いよとかいうなよ?俺がしたいからしてることだ」

「うー……!言われちゃった……でも、それもあって相談したいんだし……うん!じゃあ、待ってるね!ありがとう!」

「ああ、じゃあな」

 電話を切り、準備をする。
 ちなみに、電話は俺が切るようにしている。
 でないと、綾が一向に切らないからだ。
 俺も電話していたいが、断腸の思いで切ることにしている。





 そして、綾の家に到着する。

「冬馬君!いつもありがとう!」

「おう、それでいいんだよ。その笑顔が見れるなら安いものだ」

「え、あぅぅ……!すぐ、そういうこと言う……」

「悪い悪い。ほら、行こうか」

「うん!」





 再び、俺の地元の駅前に戻ってくる。

 そして、矢倉書店に入る。

「あららー、冬馬君。大丈夫だったの?発売日にこなかったわねー」

「いやはや、俺とした事が……彼女ができて浮かれていたようです」

「こ、こんにちは!」

「あら、今日は彼女も一緒ね。なるほど……そういうことね。はい、どうぞ」

「わざわざありがとうございます。では、こちらで」

 入り口近くの会計で、すぐに支払いを済ませる。
 予約をしてあったからな。

 混んでいたので、すぐに店を出る。

「混んでたね、一人なのかな?」

「いや、親父さんがいるな。この辺では、逆らえる者がいない凶悪な親父がな。ただ、その見た目から接客が向かなくてな。品出しとか管理とかをしているな。だから、基本的には弥生さん1人だな」

「そうなんだ……うーん……」

「どうした?」

「ううん!後で良いよ!ほら、行こ!」

 自然と手を繋ぎ、喫茶店に向かう。

 店に入り、いつも通りにマスターに挨拶をし、お馴染みの席に座る。

 今日のお昼はオムライスにした。

「うん、相変わらず美味いな」

「美味しいね!このソースが凄い美味しい!」

「マスターオリジナルのデミグラスソースだからな。これが、美味いんだよなー」

 その後食事を済ませ、いよいよ本題に入る。

「で、どうしたんだ?」

「あのね……バイトをしようかなって思って……」

「なるほど……気になるわけだな?」

「うん……だって、冬馬君が一生懸命に働いて稼いだお金だもん。それを私に使うのは、良くないといいますか……」

「まあ、大した額じゃないけどな。だが、気になるならしても良いんじゃないか?」

「うん……でもね、それで相談があって……私、バイトしたことあるんだけど続かないの。正確に言うと、続けられないの」

「……まあ、なんとなくわかった。店員に告白されたり、同じ女子に嫌味言われたり、客にナンパされたりするんだな?」

「え!?凄い!なんでわかるの!?」

「そりゃ……わかるだろ。綾は、超絶的に可愛いんだから」

「超絶……なんで、冬馬君に言われるとこんなにドキドキするんだろうね?」

「……好きだからじゃないか?その、お互いにな」

「……エヘヘ、嬉しい。え、えっとね、それで何処なら平気かなって……」

 なるほど……これは、難しい問題だ。 
 綾の平穏を確保しつつ、楽しく働けて……男がいない職場。
 これは、俺の独占欲だな……ん?ああ、良いのがあるな。

「さっきの矢倉書店はどうだ?」

「そうなの!さっき、それを聞きたくて。どうなのかなって」

「確か、募集していたはずだ。しかも、女子限定で」

「え?なんで?」

「まあ、綾と似たような理由さ。邪な考えで、バイトしたがる奴が多くてな」

「あっ……あの人綺麗だもんね」

「そういうことだ。後、親父さんが溺愛しているしな。幸い、俺は親父さんに気に入られているから、帰りに聞いてみよう」

「うん!冬馬君、ありがとう!わ、私の彼氏は頼りになります……」

「お、おう。任せておけ」

 だから、頬を染めながら言うなー!!
 キスしたくなるだろうが!!



 そして、お喋りをしながら幸せな時間を過ごす。

 女の子の話はつまらないと聞いていたが、そんなことはないな。

 うーん……まあ、いいか。

 相性がいいということかもしれんな。

 そして頃合いかなと思い、店を出て矢倉書店へ向かう。







「こんにちはー、今親父さんいますか?」

「あら?冬馬君、また来たの?お父さーん!冬馬君よー!」

 すると、奥のドアから熊が現れる……いや、違う。

 現れたのは、熊みたいな人間だ。

「……冬馬か。どうした?」

「善二さん、こんにちは。お忙しい中すみません。今日は、頼みがあってまいりました。お話を聞いてもらってもよろしいでしょうか?」

「……いいだろう。お前は若い割に礼儀正しいしな」

「ありがとうございます。実は、ここいる子がですね……」

「はじめまして、矢倉さん。私の名前は、清水綾といいます。冬馬君からお話を聞き、アルバイトについてお話を聞きたいと思いやってきました」

「……こっちも近頃の子にしては、しっかりしてそうだな。冬馬、彼女か?」

「はい、そうです。俺の可愛い彼女です」

「はぅ……はい、そうですぅ……」

「なるほど……まあ、お前が選んだ相手なら問題ないか。ただ、甘やかす気はないぞ?」

「ええ、大丈夫です。こう見えて中々根性もありますし」

「え?え?えーと……」

「ふふふ……珍しい。やっぱりお気に入りの冬馬君だからかしらね?」

「おい、俺は別に……」

「何言ってるの?あの小僧は元気か?とか。発売日にこないぞ?とか気にしてたじゃない」

「うぐっ……!」

「はは……今度、また将棋でもしますか?」

「……ああ、やろう」

「ふふふ……よろしくね、綾ちゃん」

「えっと……」

「綾、とりあえず合格だってさ」

「ああ、一応きちんとした面接はするがな」

「あっ……ありがとうございます!」

「……まあ、よろしく頼む。あとは、弥生に任せる」  

「はいはい、やりますよ。じゃあ、明日は時間あるかしら?」

「は、はい!えっと……この時間なら……」

「ふんふん……じゃあ、この時間はどうかしら?」

「はい、大丈夫です」

「じゃあ、決まりね」

 どうやら、決まったようだな。





 そして夕方なので、綾を家まで送っていく。

「冬馬君!ありがとう!その、色々と……結局お世話になっちゃった」

「良いんだよ、俺だって心配だ。あそこなら安心だ……男がいないからな」

「え?そ、それって……」

「……すまんな、割と独占欲があったようでな」

「う、ううん!嬉しい……!」

「ヤバイな……キスして良いか?」

「え……?あ、えと……は、はい……」

 俺は周りを確認し、優しくキスをする……。

「あっ……ん……」

 場所が場所なので、すぐに離す。

「えっと……帰るな!」

「う、うん!ま、またね!」

 俺はバイクに跨り、走り出す。

 ……なんだ、あの漏れ出した声は……!

 意識が飛ぶかと思った……!

 俺の理性よ!!頼む!!持ってくれーー!!


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