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冬馬君は天秤が傾き……

冬馬君は清水さんの母親に会う

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 あの突撃見舞いから、日にちが経った。

 幸いなことに、俺も誠也も元気のようだ。

 学校でも、大した噂にならずに鎮火した。

 おそらく、俺と清水がいたって普通にしていたからだろう。

 俺も清水も、ベクトルが違うが対人スキルは高いしな。

 どもったり、照れたりすることもなく説明したしな。

 ただ、一番の理由は……まあ、あり得ないでしょ?ということだとは思うがな。



 そして今日、再び清水の家に行く日を迎えた。

 6月の中旬だが、幸いなことに雨も降っていない。

 俺はバイクに乗り、家を出る。

 もちろん、妹に茶菓子を渡された。

 俺は、信号待ちの間に思い出していた。

 確か……今日は母親がいるといっていたな……。

 うーん……どうすれば良いんだ?

 彼氏ではない……友達ではある……いや、そもそも誠也と遊んであげるために……。

 ……わからーん!!もういい!!男は出たとこ勝負だ!!

 俺は事故を起こすとマズイので、運転に集中する。

 そして、清水家に到着する。

 俺がインターホンを押すと、声が聞こえてくる。

「あらあらあら!!」

「ちょっと!?お母さん!?私が出るから!!」

「いいじゃない!お母さんだって挨拶したいわ!」

 ……どうしよう、少し不安になってきた。

 そして、1人の美女と清水が玄関から出てきた。

 あ、ちなみに、今日は髪型も服装も整えてある。

 さすがに、気になっている女の子の母親に会うからな……。

「あらあら!!」

「こんにちは。清水さんのお母さんでよろしいですか?初めまして、吉野冬馬と申します。今日は、よろしくお願いします」

「まあ!ご丁寧にありがとうございます。綾、良い男じゃない!」

「お母さん!叩かないでよ!ごめんね、吉野君。お母さん、ちょっとテンション上がっちゃって……」

「いや、気にしないでいい。歓迎されているということだろう?有り難いことだ」

「まあ!随分しっかりした子っぽいわね……うん!良いわね!」

「吉野君、とりあえず上がってください……本当に、ごめんなさい」

 どうやら、愉快なお母さんのようだな。
 見た目は、どう見てもお姉さんにしか見えないがな……。
 清水によく似て……違うか。
 清水はお母さんによく似たようだな。
 並んでいたら、親子には見えない。
 ただ、無理して若作りしているような感じもしないし、自然な感じだ。

「いや、良いよ。楽しそうなお母さんで。では、お邪魔します」

 そのまま家に入り、リビングに通される。

「あ!冬馬さん!こんにちは!!」

「よう、誠也。こんにちは。お互いに風邪が治って良かったな」

「はい!ねえねえ!早くやろうよ!」

「誠也、待ちなさい。先にお茶にしましょう」

「誠也、すまんな。俺も先にお母さんに話があるんだ」

「吉野君……?」

 俺とお母さんは、テーブルの席に着き向かい合う。

 まずは、俺からだな。
 
「清水さんのお母さん。まずは、謝罪を。お母さんの居ない時に、家にお邪魔して申し訳ありませんでした。そして、挨拶もせずに帰り、申し訳ありませんでした」

「吉野君!?頭下げなくても……」

 実はいるものだと思ってお邪魔したが、言い訳はしない。
 男である俺が、年頃の女の子の家に上りこんだことは事実だ。
 すると、さっきまでと打って変わり、お母さんは鋭い目つきになる。

「あら……先手をうたれたわね。うちは今、父親がいませんからね。私が両方担っているつもりです。正直なところ、良い気はしませんでした。ただ、今のお言葉でそれはなくなりました。更に、うちの娘が内緒にしてただけなので、貴方に非はありません」

「そう言って頂けると有り難いです」

 俺も自分に置き換えたら嫌だもんな。
 妹が知らぬ間に男を家にあげていたら……滅殺だ!!

「では、それは終わりにしましょう。次はこちらからです。娘から事情は聞きました。娘を暴漢から守ってくださりありがとうございます。更には、誠也までお世話になったそうで。ここにいない父親の分も込めて、感謝いたします」

「頭を上げてください。俺は、俺の信念に従い行動したまでです。ただ、感謝の気持ちは頂こうと思います」

「……本当に、しっかりした子ね。ただ、助けた時に、妙に手馴れていたみたいですね?」

「それは……まあ、はい」

「お母さん!もう良いでしょ!仕事じゃないんだから!」

 仕事……?どういう意味だ?

「まあ、待ちなさい。吉野君、私の目をじっと見つめてくれますか?」

「え?……わかりました」

 俺は、清水のお母さんをじっと見つめる。
 なんだ?この見透かされそうな感じ……。

「……綺麗な目……揺らぎのない……これは、問題ないわね」

「あのー、どういうことですか?」

「ごめんね、吉野君。お母さん弁護士やってて……」

「そうなのよ。だから、職業柄大体わかるのよ。どんな人間かはね……」

「なるほど……そういうことですか。とりあえず、合格ですかね?」

「ええ!合格です!もう!カッコいいじゃない!綾、良くやったわ!」

「はい?」

「ごめんね、吉野君。仕事モードとプライベートが違いすぎて……こっちが素なの」

「いや、わかる。俺もモード切り替えはあるからな」

「あ、それもそうだよね。そういえば、私もあるね」

「ねえねえ!お話終わった!?」

「はい、終わりましたよ。誠也、迷惑かけてはダメよ?」

「よし!じゃあ、やるとするか」

「うん!」





 その後、2時間ほどゲームをして、休憩にする。

 再び席に着き、お茶をいただく。

「あ、すみません。これ、妹からです」

「あら!妹さんまで、出来た子なのね!では、ありがとうと伝えてね」

「はい、自慢の妹です」

「……ところで、綾の彼氏で良いのかしら?」

「ッ!!ケホッ!お、お母さん!?」

「あらあら……ダメじゃない。女の子が、口からこぼしちゃ」

「お母さんのせいだよ!」

「で、どうなのかしら?」

「いえ、彼氏ではありません……今のところは」

「なるほど……慎重な姿勢なのね。まあ、すぐに付き合うような人よりは、信頼できるわ」

「もう!お母さんったら……今のところ……?」

 清水は、何やら考え込んでいる。
 すまんな……もう少しだけ待ってくれ。

「では、吉野君!」

「はい、なんでしょう?」

「今日から、いつでも我が家にくることを許可します。これからも、綾と誠也と仲良くしてくれたら嬉しいわ。もちろん、貴方の時間があるときね」

「ありがとうございます。では、ちょくちょくお邪魔させて頂きます」

「吉野君……エヘヘ、これからも来てくれるんだ……」

「やったー!!冬馬さん!ありがとう!」

「あらら、2人共喜んじゃて……お父さんには、言えないわね」

 こうして、2回目の訪問も無事に終わった。

 とりあえず俺は、お母さんに認めてもらえたようだ。


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