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悪役は領主になる

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俺は歓声する者達を背にして、ユキノを引っ張っていく。

そして、ひと気のない裏路地に連れて行く。

「きゃっ、こんなところに連れてきてどうするつもりですかー? ドキドキ……」

「ドキドキじゃねぇ、一体どういうつもりだ?」

「えへへー、ごめんなさい。だって、ああした方がうまくいきますよ」

「ふむ? 何か考えがあってやったんだな?」

俺とて理由があるなら聞くくらいの度量はある。
ひとまず落ち着いて、ユキノの話をを聞くことにした。

「ええ、もちろんですよー。まずは、ご主人様はのんびり暮らしたい……これは合ってます?」

「ああ、合っている。俺はもう、殺伐した生活とはおさらばしたいんだよ。山賊退治は、そのためにやったことだ」

「ふんふん、そうですよねー。でも、このままだとのんびりできませんよ? 領地を回す人、警備をする人、食材を取りに行く人など……恩を感じている彼らがいれば、それらをやってくれるはずです」

「……ククク、そういうことか。奴らを利用して、俺はのんびり過ごすと。確かに、それはいい考えだ」

「でしょー? もっと褒めてください!」

「よしよし、良い子だ」

俺はユキノの頭を乱暴に撫でる。

「ちょっ!? もっと優しくですよー!」

「ははっ! すまんすまん! よし! そういうことなら話は早い! 奴らのところに戻るぞ!」

「はーい……もう、ご主人様ったらちょろいんだから。まあ、そこが良いところなんだけど」

「ん? 何か言ったか?」

「いえいえー、ではいきましょー」

解放した者達のところに戻ると、何やら話し合いをしているようだ。

「あっ、アルス様!」

「お戻りになられたぞ!」

「あぁー、何を話してたんだ?」

「我々が、アルス様のために何ができるかを話し合っておりました」

「なるほど……それでは、俺の願いを言おう」

「皆の者、静粛に! アレス様のお言葉があるそうだ!」

その言葉に、その場にいる全員が膝をつく。
なんか、この感じも懐かしいな。
王都には部下がいて、こんな風にされたこともあったけ。
……あいつらも、元気でやってると良いが。

「コホン……先ほど、側近であるユキノと話して決めた。俺はこの見捨てられた地を再建する! もう、そのように呼ばせたりしない!そのために諸君達の力を貸してくれ!」

「「「ウォォォォォォ!」」」

「なんでも言ってください!」

「頑張ります!」

しめしめ、これでよし。

あとは指示を出して、俺は後ろで踏ん反り返っていれば良い。

そしたら、念願のスローライフの始まりだ。



……ふふ、これでよしと。

横で宣言するご主人様を見ながら、密かにほくそ笑む。

ご主人様は、こんなところで終わる器じゃない。

ヴァンパイア族の女の使命は、強い男の子を孕むこと。

そのために私は、里を飛び出したんだから。

もちろん、それだけじゃないんだけど。



当時の私は、自分の実力を過信していた。

まだ若いとはいえ、里では大人にも勝ったことがあったから。

ただ、多勢に無勢で……人族に捕まってしまった。

そして、いよいよ身の危険が迫ったとき……あの方は颯爽と現れた。

「何をしている? この下衆共が」

「なんだ貴様——ァァァ!?」

「ヒィ!? 黒い炎!?」

「こ、こいつ、黒炎の王太子アルスダァァァァ!」

「下衆共が消え失せろ——黒炎陣」

黒い炎が男達を取り囲んで……文字通り、チリすらも残らずに消えた。
その圧倒的な魔力と、その隙のない立ち振る舞いに私の目は釘付けになる。
きっと、この人に出会うために今日まで生きてきたんだと。

「無事か? ったく、ルート通りに助けるはずが……」

「えっと……ありがとうございました! それでルートってなんですか?」

「あぁー、その辺りのことは君には説明しないとな。とりあえず、ここから離れるぞ。俺はまだ、目立つわけにはいかない」

その後、私は説明を受けた。
正直言ってよくわからないけど、ご主人様にはこの世界で決められた役割があるとか。
そのために、私の力が必要だと。
無論、私に断る理由はなかった……だって一目惚れをしてたから。
しかも後から知ったけど、本来なら助けるのは私が襲われた後だったらしい。
それでも、ご主人様は放って置けなかったと。

「ふふ、お優しい方ですから」

「ん? 何か言ったか?」

「いえいえ、出会った頃を思い出しただけです。あの時は、本当にありがとうございました」

「ああ、あの時ね……ったく、こんなことになるとは」

そう言い、照れ臭そうに頬をかきました。
最初はクールな感じで素敵と思ってだけど……照れ屋さんで素直じゃないところも、今では可愛らしいです。
多分、これが人を好きになるってことなんだと思う。

「ほんとですよー。まあ、私は楽しいですけどね」

「へいへい、そいつは良かった」

「さあ! スローライフ?目指して頑張りましょー!」

「……だな、ここから始めるとしよう」

私はもちろん、ご主人様の願いも叶えるつもりだ。

でも、やっぱり……ご主人様が犠牲になる結末は我慢できない。

だから、私なりのやり方で……ご主人様を、もう一度頂点に立たせてみせる。





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