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フーコ

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 銀狐にも餌をあげ、スープを食べ終えたら、いよいよ出発である。

 そして、どうやら……完全に懐いてしまったらしい。

「ついてくる気か?」

「コンッ!」

「そうみたいですねー。ご主人様、どうします?」

「うーん、このまま放っておくのもアレか……」

「この険しい土地ですからねー。まあ、生き残れる確率は低いかなと」

 ユキノの言うことが確かなら、この魔獣は人に害を加えない。
 賢いし、今だっておすわりをして俺の言葉を待っている。
 それに貴重な魔獣だし、言い方はあれだけど役に立つかも。

「わかった、許可する。ただし、俺の言うことを聞くこと……いいか?」

「コーン!」

「よし、成立だな。そうなると、名前をつける必要があるか」

「どうやら、この子はメスみたいですよ?」

 ユキノが銀狐を抱っこすると、大人しくされるがままになる。
 足がプラーンとして、正直言って可愛い。
 ふむ……スローライフにもふもふは付き物だしいいかもしれない。

「そうなると、かっこいいより可愛い系か……銀狐、ギンコ、風を操る……安直だけどフーコにするか」

「コンッ!」

「ふふ、気に入ったみたいですよ?」

「決まりだな。フーコ、これからよろしく」

「コーン!」

 新たな仲間を手に入れた俺達は、再び荒野を進んでいくのだった。

 ◇

 その道中に村を発見したが、やはり貧しい暮らしをしているみたいだ。
 どうやら、領主は役割を果たしてないらしい。
 噂通り、無法地帯と化しているのか。

「さて、どうするか……」

「あっ、誰か来ましたよー?」

 村に入った俺たちを、遠巻きに見ていた一人の男性が恐る恐る近づいてくる。

「あ、あの、うちには何も差出せるものが……」

「そんなものはいらん。それより、これを食うが良い」

「それは……もしかしてファンブルの肉!? ど、どうして?」

「いいから貰うのか貰わないのかはっきりしてくれ。言っておくが、礼などはいらない。もちろん、女なんか差し出したら許さん」

「あ、ありがとうございます! 皆の者! この方が食材をくださると!」

 そういうと、住民達の間で歓声が上がる。
 そして、次々と感謝の言葉を告げられた。
 すると、次第に身体が痒くなってきて……耐えられなくなる。

「フハハッ! 遠慮なく食べるがいい!」

「へっ? あ、あの……」

「あぁー、気にしないでいいですかねー。この人、ちょっと感謝され慣れていないんです」

「は、はぁ……? と、とにかくありがとうございます! みんなに配ってきます!」

 数名の男達がきて、お礼をしつつファンブルを持っていく。
 そして、俺はというと……羞恥心で震えていた。

「ご主人様ー? その癖は直らないんです?」

「ぐぬぬ……ほっとけ」

 俺は記憶を取り戻す前から傲慢な態度だったし、記憶を取り戻してからは悪役に徹した。
 その時に、わざと厨二病的な振る舞いをしていたのだが……これが癖になってしまった。
 あと、元々褒められると素直になれないタチだったのもある。

「まあ、私は人間味があって好きですけどねー。それより、全部あげてよかったんです?」

「俺たちだけじゃ食べきれないしな。それに、泊まらせて貰う予定だ」

「コンッ」

 幸いにして、快く部屋を貸してもらった。
 その日は宴になり話を聞くと、様々なことがわかってきた。
 そして、夜が明けて……都市ナイゼルに向けて進み出す。

「皆かなり、やせ細っていましたねー。それに領主の件もそうですが。山賊や盗賊の類もいるみたいです」

「そういや、道中にもいたなぁ。ユキノが、サクッとやってしまったが」

「えへへ、当たり前じゃないですかー。あの人たち、私のことをめちゃくちゃにしようとしましたし……フフフ」

「こわっ!?」

「ひどい! ご主人様を守ったのにー!」

「まあ、そこは感謝してるよ」

 いや、しかしユキノを連れてきて良かった。
 俺がそいつらに負けるとは思わないが、今の俺は前の俺とは体の勝手が違う。
 魔力も下がってるし、闇魔法は使えないし、不死身でもない。
 そこを測りきれずに油断して死んでしまった可能性はある。

「というか、この感じだと領主も怪しいですねー。全然、統治できてないし」

「まあ、元々流刑地でもあるからなぁ……はぁ、俺のスローライフは遠そうだ」

「というより、無理ですよねー。自然もなければ食料も少ないし、水も枯れてますし。私達なら飢えることはないと思いますけど」

「ぐぬぬ、考えが甘かったか……とりあえず、予定通りにナイゼルに行ってから考えるか」

「問題の先送りってやつですね?」

「それをいうなし」

 そんな会話をしていると、フーコが唸り声を上げる。
 すると、すぐに向こうから魔物がやってきた。

「おっ、反応がユキノより早かったな。フーコ、えらいぞ」

「コンッ!」

「流石に負けますって。えっと、あれはゴブリンですねー……どうします?」

「そろそろ、俺も身体を動かすか。いい加減、この身体にも慣れないと」

 腰にある刀に手を添え、居合の構えをとる。
 元日本人で剣道をやっていた俺からすると慣れた姿勢だ。
 悪役であるこいつが刀使いっていうのはラッキーだった。

「グキャー!」

「ケケー!」

 相手が近づいてくるのを待ち……間合いに入った瞬間に身体は動いていた。

「シッ!」

「グカ……」

「カカ……」

 俺の放った居合は、二体のゴブリンを真っ二つにしていた。
 そして、霧になって消えていく。
 相変わらず、この辺りは不思議だ。

「ふぅ、どうやら腕は鈍ってないようだ。これなら、問題あるまい」

「えへへ、残念ですー」

「おい? 本当に残念そうなのだが?」

「だって、そしたら私が守ってあげられるじゃないですかー。そして私に依存させて……ふへへ」

「ふへへじゃねえ! 怖いからやめろって! というか腕を組むなっ!」

「コンッ!」

「お前までじゃれてくるな! 危ないから!」

 腕にユキノがしがみつき、足元にフーコがじゃれつく。

 ……まあ、こういうのも悪くはないか。








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