上 下
3 / 36

幼馴染のエミリア

しおりを挟む
 その後、荷物をまとめ終わる頃……ドタドタと足音が聞こえてくる。

 そして、扉がものすごい勢いで開かれる!

「アルス!」

「げげっ!? エミリア!?」

 そこには、公爵令嬢のエミリア-ミストルがいた。
 父親は国王相談役を務めているほど、由緒正しきお嬢様だ。
 普段は淑女の鏡のような女の子だが、今は綺麗な金髪を振り乱している。
 と言っても、俺の前ではこっちが普通か……いつもライバル視されてたし。
    彼女は水魔法の使い手で、闇の炎を駆使する俺と互角に渡り合える主人公側の魔法使いだった……それと同時に俺の幼馴染ポジションであり、更には主人公側の最難関攻略対象でもある。

「げげとはなんですの!?」

「い、いやぁー君は今日も可愛いうぃねー」

「そんな棒読みでは誤魔化されませんわ」

 そう言い、何時ものように俺を睨みつけてくる。
 気の強い目が特徴の整った容姿、均整のとれた体型。
 赤のドレスを見にまとった姿は、美少女のエミリアによく似合っている。
 ……可愛いっていうのは本音なんだけどな。

「はは……」

「笑ってごまかされるとでも思ってますの!?」

「あばばばば! わ、わかった! わかったから肩を揺らすな!」

 身長差がそんなにないから、目の前でおっぱいがぶるんぶるんしてるんだよ!
 俺が戦いのたびに、そこに視線を向けないようにどれだけ頑張ったか!
 コホン……ひとまず、それは置いておこう。

「だよなぁ。んで、どうした?」

「どうしたって……追放されるって聞きましたわ」

「ああ、そうだな。そりゃ、あれだけのことをしたなら当然だろ。むしろ、温情があるくらいだし」

「もう! だから、あれほど言いましたのに! どうしてここまで状況を悪化させなくてはいけなかったのです?」

「すまんすまん……だが、仕方がないだろう? 俺は邪神に身体を犯されていた……まあ、言い訳にはならない」

「それは、そうですけど……私はそれでも……」

「エミリアには、苦労をかけたな」

 この子には二つのルートがある。
 俺の味方になり、闇落ちするルート。
 主人公側につき、幼馴染を正すために戦うルートが。
 俺は彼女を巻き込みたくなく、今回は無理矢理にあちらのルートに追いやった。
 こちらについだ場合、彼女は自分の家族と決別して戦う運命にあったから。
 
「な、急に何を……」

「いや、本音さ。本当なら、君を巻き込みたくはなかった。それに、君が俺を止めてくれようとしたことはわかっていた……それを受け入れなかったのは俺のエゴだ」

「アルス……だって、貴方は私の幼馴染にしてライバルですもの。私だけ、蚊帳の外は嫌ですわ」

「そういや、ライバルでもあったわな。すまん、あの時の約束は果たせなさそうだ。すぐにでも、ここを出ないといけない」

 戦いが終わったあと、エミリアに約束された。
 邪神の力がない状態の俺と、真剣勝負をしてくれと。
 しかし、事故処理がありそれどころではなかった。

「ちょ、ちょっと待ってますの! 私が話をつけてきますわ!」

「お、おい!? ……相変わらず、人の話を聞かない奴だ」

 制止も聞かず、慌てて部屋から去っていった。
 思い立ったら、すぐに行動してしまうからなぁ……そして強引でもある。

「ふふ、本当ですね。というか、私には挨拶もなしですしー」

「多分、目に入ってなかったかもな。基本的に、一つのことに集中するタイプだし。さて……今のうちに出て行くとするか」

「……待たなくて良いんですか?」

「ああ、これで良い。せっかく、平和になったのに無駄な争いをすることもない。何より、変な誤解を招くこともある。エミリアも、どうしてそんなに戦いたいんだかわからん」

「いや、アレはそういう感じではないかと思いますが……まあ、良いですかねー」

「ん? どういうことだ?」

「いえいえ、何でもないですよー。ご主人様は、相変わらずだなと思っただけです」

 そう言い、なにやら呆れた表情を向けられる……解せぬのだが?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

思わず呆れる婚約破棄

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある国のとある夜会、その場にて、その国の王子が婚約破棄を言い渡した。 だがしかし、その内容がずさんというか、あまりにもひどいというか……呆れるしかない。 余りにもひどい内容に、思わず誰もが呆れてしまうのであった。 ……ネタバレのような気がする。しかし、良い紹介分が思いつかなかった。 よくあるざまぁ系婚約破棄物ですが、第3者視点よりお送りいたします。

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。

下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。 豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。 小説家になろう様でも投稿しています。

その国が滅びたのは

志位斗 茂家波
ファンタジー
3年前、ある事件が起こるその時まで、その国は栄えていた。 だがしかし、その事件以降あっという間に落ちぶれたが、一体どういうことなのだろうか? それは、考え無しの婚約破棄によるものであったそうだ。 息抜き用婚約破棄物。全6話+オマケの予定。 作者の「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹が登場。というか、これをそっちの乗せたほうが良いんじゃないかと思い中。 誤字脱字があるかもしれません。ないように頑張ってますが、御指摘や改良点があれば受け付けます。

傍観している方が面白いのになぁ。

志位斗 茂家波
ファンタジー
「エデワール・ミッシャ令嬢!貴方にはさまざな罪があり、この場での婚約破棄と国外追放を言い渡す!」 とある夜会の中で引き起こされた婚約破棄。 その彼らの様子はまるで…… 「茶番というか、喜劇ですね兄さま」 「うん、周囲が皆呆れたような目で見ているからな」  思わず漏らしたその感想は、周囲も一致しているようであった。 これは、そんな馬鹿馬鹿しい婚約破棄現場での、傍観者的な立場で見ていた者たちの語りである。 「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹でもあります。

先にわかっているからこそ、用意だけならできたとある婚約破棄騒動

志位斗 茂家波
ファンタジー
調査して準備ができれば、怖くはない。 むしろ、当事者なのに第3者視点でいることができるほどの余裕が持てるのである。 よくある婚約破棄とは言え、のんびり対応できるのだ!! ‥‥‥たまに書きたくなる婚約破棄騒動。 ゲスト、テンプレ入り混じりつつ、お楽しみください。

嘘つきと呼ばれた精霊使いの私

ゆるぽ
ファンタジー
私の村には精霊の愛し子がいた、私にも精霊使いとしての才能があったのに誰も信じてくれなかった。愛し子についている精霊王さえも。真実を述べたのに信じてもらえず嘘つきと呼ばれた少女が幸せになるまでの物語。

兄がやらかしてくれました 何をやってくれてんの!?

志位斗 茂家波
ファンタジー
モッチ王国の第2王子であった僕は、将来の国王は兄になると思って、王弟となるための勉学に励んでいた。 そんなある日、兄の卒業式があり、祝うために家族の枠で出席したのだが‥‥‥婚約破棄? え、なにをやってんの兄よ!? …‥‥月に1度ぐらいでやりたくなる婚約破棄物。 今回は悪役令嬢でも、ヒロインでもない視点です。 ※ご指摘により、少々追加ですが、名前の呼び方などの決まりはゆるめです。そのあたりは稚拙な部分もあるので、どうかご理解いただけるようにお願いしマス。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

処理中です...