上 下
38 / 69
料理人は異世界で生きていく

ハク視点

しおりを挟む
 この子達は、僕とおんなじだ。

 だれかに捨てられて、お腹が空いて死にそうになってる。

 弱くて、誰かの手がなければ死んでしまう存在。

 それは、生まれ変わる前の僕の姿だった。

 会ったばかりだけど、他人事とは思えなくて放って置けないや。

「あ、あの人、本当に来るかな?」

「ワフッ!(来るよっ!)」

 僕はエルルを励ますように身を寄せる。
 僕も当時は不安だった。
 拾ってくれたこの人は、帰ってくるのとかと。
 また捨てられるんじゃないかって。
 でも、お父さんは帰ってきてくれた。

「ほんと? ……ワンちゃんが言うなら信じようかなぁ」

「ワフッ!(ハクっていうよ!)」

「うん! ハクちゃんだねっ!」

 すると、小屋にカイル君が戻ってくる。

「妹を見てくれてありがと……とりあえず、他の孤児にも伝えてきた」

「みんななんだって?」

「そんなの信じられない、裏切られるだけだって……」

「ガウッ!(そんなことないよっ! お父さんは約束守るもん!)」

 僕を拾った時だって、最後まで一生懸命にお世話してくれた。
 自分が稼いだお金で、病院に連れて行ったり。
 結局死んでしまったけど、最後にお父さんの腕の中で……だから、僕は幸せだった。

「わ、わかってるよ! でも、わかんないじゃん……お前だって、置いていかれたかもしれないし」

「そ、そうなの?」

「ワフッ!(そんなことない! あとできちんと来るから!)」

「そ、そっか……うん、約束したもんな」

「が、頑張って待つね……」

 僕の役目は、お父さんが来るまでこの子達を守ること。
 まだまだ弱くて頼りにされなかったけど、今回は初めて任せてくれた。
 それが、ものすごく嬉しかった……まだ、何も返せてないから。

「ん? 誰か来たみたい」

「あっ、もうきたのかな!」

「ワフッ!(まずは僕が!)

「待て! すぐに出るんじゃない!」

 僕たちの制止も聞かず、エルルが扉を開けて飛び出す!

「きゃっ!?」

「あぁ? ヒック……なんだぁ?」

 エルルが体当たりしてしまったのは、パパじゃなかった。
 淀んだ目をした男の人だ。
 確か、ローレンスとか言ってた気がする。
 なんだか表情が違うし、変な匂いがしていた。

「ご、ごめんなさい!」

「よく見れば貴様は獣人……獣人ごときが俺様に何しやがる!」

「いやぁぁぁ!?」

「や、やめろっ!」

 男がエルルの髪を引っ張る!
 それを見て、カイルが男の足にしがみつく!

「うるせぇ!! 都市のゴミどもが!」

「うわぁぁ!?」

 カイル君が吹き飛ばされ、地面を転がる。
 ……ぼ、僕は何をぼんやりと見ているんだろう。
 助けなきゃ……僕が任されたんだから。

「……アオーン!(震えてる場合じゃない!)」

「っ!? う、うるせえな」

 その隙にエルルがカイルの元に駆け寄る。
 僕は勇気を出して、男の前に立つ。

「ガウッ!(僕が相手になる!)」

「貴様は……あの男の従魔か……あの男のせいで、俺の計画は台無しだ……ひひひ……ちょうどいい、獣人で憂さ晴らしをしようと思っていたが貴様にしよう……ファイアーボール!」

 そう言い、男が手をかざすと……火の玉が飛んでくる!

「グルァ!(えいっ!)」

「ほほう? 氷の玉で相殺したか……いいぞ、少しは楽しませてくれ」

 すると、次々と火の玉が飛んでくる。
 その数は多くて、僕では捌き切れない。
 このままだとまずい……。

「ガウッ!(二人とも逃げて! こいつの狙いは僕になった!)」

「で、でも!」

「ハクちゃんが!」

「ガウッ!(良いから! 僕はもう……あの頃の僕じゃない!)」

 二人が頷き、その場から走り去る。

 これで良いんだ。

 僕は二人をパパに頼まれた。

 僕は……何も返せてないパパの役に立ちたいんだ!




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

ゆったりおじさんの魔導具作り~召喚に巻き込んどいて王国を救え? 勇者に言えよ!~

ぬこまる
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれ異世界の食堂と道具屋で働くおじさん・ヤマザキは、武装したお姫様ハニィとともに、腐敗する王国の統治をすることとなる。 ゆったり魔導具作り! 悪者をざまぁ!! 可愛い女の子たちとのラブコメ♡ でおくる痛快感動ファンタジー爆誕!! ※表紙・挿絵の画像はAI生成ツールを使用して作成したものです。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。

長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍2巻発売中ですのでよろしくお願いします。  女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。  お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。  のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。   ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。  拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。  中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。 旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

転生したらチートすぎて逆に怖い

至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん 愛されることを望んでいた… 神様のミスで刺されて転生! 運命の番と出会って…? 貰った能力は努力次第でスーパーチート! 番と幸せになるために無双します! 溺愛する家族もだいすき! 恋愛です! 無事1章完結しました!

異世界生活物語

花屋の息子
ファンタジー
 目が覚めると、そこはとんでもなく時代遅れな異世界だった。転生のお約束である魔力修行どころか何も出来ない赤ちゃん時代には、流石に凹んだりもしたが俺はめげない。なんて言っても、魔法と言う素敵なファンタジーの産物がある世界なのだから・・・知っている魔法に比べると低出力なきもするが。 そんな魔法だけでどうにかなるのか???  地球での生活をしていたはずの俺は異世界転生を果たしていた。転生したオジ兄ちゃんの異世界における心機一転頑張ります的ストーリー

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

処理中です...