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『まて』をやめました 37
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「全く、これではまるでエドワードは呪いにかかっているみたいね。」
溜息と共に零されたレティシア様の呆れた小さく呟き。
呪い!
正しくそれだわ!
どうしてこうなったかは知らないけど、本当に呪いのようだわ。
多分、このまま問答しても認めないだろう。
なら、その呪いを解くのが手っ取り早いわよね。
「エドワード様!」
そうと決まれば、ということでいまだにこの状況が分かっていないエドワード様の前に近づく。
呼びかければ、ほんの少しだけど口角が上がる。僅かながらだけど目元も柔らかくなった気がする。
全く私のエドワード様観察眼は、健在のようだ。
これからこの呪いを解いた後のエドワード様がどうなるのか、楽しみで仕方がない。
「先ほどレティシア様がおっしゃったように、貴方はどうやら呪いにかかっています。」
「えっ?!」
私が笑いだしそうなのを堪えて、とても真剣な顔で告げる。それにエドワード様は驚いているし、レティシア様他みんなも、何が始まるのか驚いて注目されている。
う~、注目されるとちょっとやりづらいなぁ。
できたら、みんな部屋から出てほしい・・・って、無理かなぁ。
「その解呪が私にできると思うので、ジェイクたちみんな外に出てほしいんだけど?」
「姉様!それはダメだ!!!」
「お嬢様、たとえ今はまだ婚約者だとしても未婚の男女が同じ部屋で二人っきりになるのは、マナー違反です。」
反射的にジェイクの叫ぶような反対する声が聞こえ、クレアはメイドらしく正しい理由を説いて説得する。
うん、記憶が戻ってるからわかってはいるんだけどね。
何もないとしても、二人っきりで部屋に籠ったとなれば、いざ婚約解消するときの障害になるし、した後の私の醜聞になりかねないと心配しているんだろうなぁ。
分かっているけど、今からしようとすることをみんなに見られながらは恥ずかしい。
記憶がなくなってから、怖いもの知らずな感じでやって来たけどそんなに私は度胸が据わっているわけじゃない。
でも折角ならこのチャンスをものにしたいなぁ~。
10年分の『まて』のご褒美に貰ってもいいかなぁ、なんて思って・・・
これはジェイクたちに話した予定とは違う。変更している、いや、追加事項だ。ついでだしね、折角だもんね・・・
「なら、クレアだけが残って。それならいいでしょ?」
本当は恥ずかしいけど、クレアならいいかなぁと・・・。
「駄目だよ。何かあったらどうするんだよ。この男の思考が読めない中、かわいらしい姉様に、」
「俺が、何をするというんだ。」
「しないという確証はどこにもない。」
ジェイクは、私とエドワード様の間に体を入り込ませるとお互いに至近距離でにらみ合う。
あらまぁ~。
成長途中の少年らしいかわいいジェイクは長身のエドワード様よりも頭一つ低くて、お互いに顔を近づけてにらみ合う。それこそじっとりと・・・
お綺麗な顔のエドワード様とかわいらしいジェイク。
相反する印象の二人はどちらも美形なのよね。
うふふっ、あまり知識がないけどBでLな世界の萌がどうとかっていうのみたいだわ。
綺麗なものとかわいらしいものの組み合わせも素敵ね。
今までジェイクはエドワード様がいらっしゃる時には、傍に寄ってこなかったからこの構図は初めてね。
これは誰か絵師に描いてもらいたい構図だわ。
こんな絵が世に出たら大変ね。BでLな愛好家ができるわ。
どうしよう、私が会長をするべきよね。そうね、そうよね、そうしましょう!
って、違う!!!
いや、2人がこの世界に新しい扉を開く教祖になりそうなのはそうだけど、今はそうじゃない!
ふう、落ち着け私。まずはこのエドワード様の呪いを解きましょう。
私の不埒な視線に気が付いたのか、二人が揃って顔をこっちに向けている。ジェイクは何とも微妙な顔をしている。やっぱり私の考えを何となくわかっているのかな?何となくよね?そうよね?
エドワード様は黙り込んだ私に不思議そうにしている。よかった、こっちには気づかれてないみたいね。
「ジェイク、クレアが居れば大丈夫よ。予定通りにきちんとするから、ねっ。」
にっこり笑って言うと、まだ何か言いたそうだけど私の念押しが利いたのか渋々だけど頷いてくれた。
「申し訳ございませんが、レティシア様も別室でお待ちいただけないでしょうか。時間はそうかかりません。おそらくは、一瞬で済むかと・・・」
「わたくしは、いいけれど・・・。クラウディア、貴女の記憶は完全に戻っているの?」
レティシア様に頭を下げてお願いすると、心配そうな顔で訪ねられた。
ああ、そういえばさっきエドワード様には勢いで、記憶が戻った言ったな。
「はい、どうやら完全かどうかはわかりませんが戻ったようです。
だからこそ、エドワード様とはきちんと言いたいことを言って、けじめをつけたいと思います。」
はっきりとそう宣言すると嬉しそうなでも複雑そうな顔をして、ちょっといいかしら?と一言の後そっと私の両手をレティシア様の同じように両手で握られてふんわりと柔らかな光が灯った。
光がとても暖かく、肩の力がスッと抜けていく。
「記憶が戻って、不安定だった心を落ち着かせたのよ。どう?」
そう言って、私のふわふわの髪を撫でられる。
撫でられたところから、気が付かず苛立っていた心が凪いでいく。
ついでに変態思考で興奮していた心も落ち着いた。
「・・・はい、すごく落ち着いています。ありがとうございます。」
「クラウディアがどうやって、エドワードの呪いを解くのか分からないけど任せるわ。おねがいね。」
さっきのまま二人きりになっても、また妄想して脱線していたかも。
今は頭もすっきりしてクリアになって、落ち着いている。
レティシア様は私に一言いうと、ミリアム様に視線を送ってサロンを出ていく。それを、伯爵家の執事が別室に案内しますと声をかけるのが聞こえる。勿論、視線を送られたミリアム様や騎士様たちも続いて出ていく。
「姉様、仕方がないから外に出るけど僕は扉のすぐそこにいるよ。何かされたらすぐに声を出すんだよ。いいね、絶対だよ。
クレア、次期伯爵としての指示だ。エドワード、様が姉様に何かをしそうだったら実力行使で阻止していい。少々、怪我をさせるくらいならどうとでもできるから、絶対に姉様を守るように、いいね!」
心配性なジェイクは、まだ継いでもないのに伯爵家の名を使っちゃったよ。いいのかな。それにクレアは、恭しく胸に手を当てて答えるし。
あれ?私は、なにと戦うのかしら?
「エドワード、様。今は婚約者とはいえ、不埒なことはされないように、お願いします。」
そして、ジェイクは最後にエドワード様へ、お願いといいながら睨みを利かせて出ていった。
出たけど扉は少し開けているし、扉の影にジェイクが張り付いているのがしっかり見える。
まあ、声は聞こえるだろうけど覗き見るようではないからいいか・・・
「クレア、貴女は少し離れていてね。」
同室の許可はしたけどあまりにも近くにいられるのは困る。
私がしようとすることを止められたくないし。
「エドワード様、貴方のそのがんじがらめになっている呪いの糸を私が今から解きますね。」
そして、エドワード様へ向き合った私。
正面から見据えたエドワード様は、私の呪いという言葉に視線をさまよわせて落ち着きが見られないけどそのうつくしさは健在。
さあ、10年分の我慢のご褒美をいただきましょう。
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