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『まて』をさせられました 31

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◆エドワード視点◆


そうして準備された風呂に身綺麗にするだけで素早く出て、衣服を整え髪を綺麗に撫でつけるとクラウディアの好きなダークブルーの髪に光の環ができる。
最初に会った時から「天上人のような美しい輝き」と言ってうっとり眺めていた。
クラウディアは顔も髪形も姿もすべてが美しく好きだと言う。

身支度が整ったら、即座に屋敷を出た。

先ぶれに行った老執事はまだ帰ってこないが、途中で会うだろう。
馬車ではまどろっこしい。
騎馬で急いだ。



「エドワード様!」

そうしてついたザリエル家では、先ぶれに出したはずの老執事と同時到着となった。
これでは先ぶれとは言わないな。

おもわず苦笑いが出たが、周辺には口の端が少し上がっただけと見えるだろう。
それよりもこれはどうしたことか・・・

ザリエル伯爵家周辺が厳重警備されている。

入口付近に見えるのは城の騎士たちだろう。
それらと老執事がもめていて入れず、到着が同時となったらしい。

「失礼、私はエドワード・ヴィンセントだ。
婚約者のクラウディアへ会いに来た。
ここを通してもらおう。」

城の騎士が何故、ザリエル伯爵家を警備しているのか?
その真相は知らないが、おそらくクラウディアはいるはずだ。
ザリエル伯爵は通常ならば、城で仕事中である。
ならば、この厳重警備で考えられるのはクラウディアへの警護。
どういった理由かは会えばわかるだろう。

そう言って騎乗のまま門を潜ろうとすれば、騎士たちがその身を持ってゆく手をふさいでくる。

「現在ここには、貴人の客人がおり。何人も入れるわけにはいきません。」

そう堅くるしい声で拒否をしてくる。
その姿は城やレティの住まう離宮で見ると、とても頼もしく身分に諂ない素晴らしい姿だが、こうして自分が排除の対象になると疎ましく感じる。
身勝手なものである。

それよりも気になるのは騎士の言った貴人である。
城からの警備が付き、貴人の訪問。

そこから推測するのは一人しかいない。

ヴィクター殿下。
その金色の髪と瞳をもち、兄王を支えようと若輩ながら多くの臣下に教えを請いつつ、政務の一端ばかりか、すでに半分くらいは受け持っている次期国王たる人。
的確な指示と迅速な判断力、病弱な兄を気遣う優しい心の持ち主。
そのやさしさが少しでもレティに向けばいいのにと、いつも思っていた。
何度かみたことのある、屈託ない笑顔はクラウディアと一緒にいるときだった。年齢よりも早く成長する必要のある立場の為、いつもしっかり者印象だが、年相応に笑っていた。
そこに恋心がないと誰が言える。
そしてザリエル伯爵家を訪ねる貴人が、ヴィクター殿下以外にいないと確信する。

そしてヴィクター殿下がザリエル伯爵家を訪れる理由は?

そう考えると、俺の頭の中は怒りに染まった。

まだ俺が婚約者だ。
いくら陛下が認めようとも、俺が拒めば婚約解消などできない。
クラウディアは渡さない。

怒りに染まる中、乗っていた馬を降りて騎士の肩を押し屋敷の敷地へ足を踏み入れる。
勿論、騎士たちは止めに入るが、レティが聖女になってからその身を守るためと父上から騎士と同等の訓練を強いられた俺は、ちょっとのことでは負けない。
俺は聖女レティシアの姉弟だと声高に言えば、騎士たちもその手が緩むその隙に先に進む。
10年通った、伯爵邸だ。
どこに何があるか、大体把握している。庭から屋敷を指さしてあそこが私の部屋なの!と言った部屋がどのあたりなのかもわかっている。入ったことはないが・・・

客人が来た際は、庭に面したサロンのテラスに通される。
そこから見る庭園の花々がとてもきれいなのだとよく言っていた。
そこに迷いなく進んでいくと、向こうから誰かが近づいてくる影があった。

「ゲッ!エドワード、様。」

影から現れたのは、クラウディアと同じように愛らしい容姿のザリエル伯爵家継嗣のジェイクだ。
何度かザリエル伯爵家を訪れるたびに、会うこともある。というか、在宅時であれば、クラウディアに会わないようにいつの間にか傍に来ており文句を小さく呟いていなくなる。
俺以外には誰にでも愛想がよく、会話も弾み知識に長け男女年齢問わずに社交界で人気だ。
先日、どこかの30過ぎの男鰥の伯爵がジェイクを手籠めにしたいなどと呟いていたと言う気持ち悪いことを聞いた。しかしそれを聞いてもそんな輩が出ても可笑しくないくらいの人誑しっぷりだ。

そのジェイクが俺の顔を見ると、瞬時に顔を歪めどう聞いても歓迎とは取れない言葉を吐いた。
仮にも姉の婚約者に対して、失礼過ぎる。今までは、サッと近づいてサッといなくなるので文句の言いようもなかったし、クラウディアに会った後ではそんなことはどうでもよくなったから気にもしなかった。

「ゲッとは、とんだ挨拶だな。」

「これはこれは、ヴィンセント侯爵令息殿。本日はどのような御用でこちらへいらしたのでしょうか?
今更、なんの御用かは存じませんが父は不在でございます。僕で変わりができるならば相手をいたしますが?って、え?」

慇懃無礼なほどに丁寧な言葉と、胡散臭いと書いてあるほどわかりやすい笑っていない作り笑顔。
その中で気になったのは、今更という言葉。
今更?
何が?まさか本当にヴィクター殿下がクラウディアに手を出したんじゃないだろうな!?

想像していた疑念が、真相に近づくにつれて心臓が嫌な音を立てる。
クラウディアは俺が好きなんだ!
婚約者でないといけないんだ!

「お前では話にならん。俺はクラウディアに用がある。どけっ!」

無自覚だが俺の顔が変わったのか、ジェイクが驚いたが俺には関係ない。
とにかくクラウディアに会わなければ・・・
その一心で先に進む。

「まてっ、今更なんで姉様に会いに来た!おいっ、待てってっ」

俺の腕をつかんで行く手を阻もうとするジェイク。見た目のかわいらしさを裏切る騎士顔負けの力で引き留めるがそのくらいで止まるほど弱くはない。
無理やりジェイクの腕を引きずる格好でやっと目的地が見えた。

「はい!でしたら、まったくすっぱり憂いなく婚約解消に乗り気です!」

そして聞こえてきたのは溌溂とした、愛らしい今一番聞きたい声であって一番聞きたくない内容の会話だった。

「それは、どういうことかな?」

反射的に出た声は、いつもより低く抑えきれない怒りをにじませてしまった。
俺の声に振り返ったクラウディアは驚きに目を見開いていたが陽が当たるその姿がやはり妖精のようでかわいらしかった。


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