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『まて』をさせられました 26
しおりを挟む◆エドワード視点◆
「それでですね、馬丁のジェフが言うにはいつの間にか入り込んで猫が厩で子猫を出産していて、くふふっ、そこの馬たちが子猫に場所を譲ってあげていたそうですよ。
踏まないように用心して馬のほうが隅で身を固くしているんですって。それでその馬をほかの区画に入れようとしても動いてくれなくって、子猫と同じ柵に戻ってしまうんですって、うふふっ、かわいいですよねぇ。」
そういって微笑む彼女の周りだけ光が集まっているかのような、陽気が差し込む。
ポカポカ暖かく、幼いクラウディアの声は耳に心地よく紅茶を飲みながら彼女が口にする他愛のない話はいつまでも聞いていたいものだった。
楽しそうに話す内容は、いつもだったら無駄だと切り捨てるような内容のないもの。
だが彼女が話すだけでそれはとても意味のある内容に変わる。
不思議だ。
惜しむのは、この笑顔を俺の力で見せられなかったこと・・・
父上から婚約者になったのだから、それなりの交流はしろといわれた。
周辺から苦言が出ない程度に、普通の婚約者として扱えと言われた。
普通の婚約者と言われても俺には経験がなく、早くから母上も離れて暮らしていたせいか女性の事にはかなり疎い。
こういう時はサンプル収集に限る。最近結婚したという父上の部下数人に聞いたところ、週に一度の交流を持って時々デートに連れ出し、お茶会や夜会のエスコートをして一緒に参加したりしていたと言っていた。しかも婚約者の誕生日や節目ごとにアクセサリーを贈るなどして彼女を喜ばせていたとも言っていた。
最初うちは、会うたびに花束を持参したとも言っていた。
フムフム・・・ならばと、家令に指示して庭の花をもっていこうとした。
「今から出かけるのか?むっ」
馬車に乗り込もうと、表で花束を受け取っていたところを帰宅した父上と出くわした。
何日ぶりかに見た顔は、寝不足の為かひどく不機嫌そうだった。
俺を一瞥したした後、手に持つ花束に目を剣呑としたものに変えた。
最初ということもあり。俺も老執事と一緒に庭を周りクラウディアのイメージの花を摘んだ。
レティが神殿に行き、母上が領地に引っ込んでしまって王都のタウンハウスの庭に花が少なくなったと庭師が零していたが、クラウディアが喜ぶようなら毎度持参しようと考えていた。ならば庭の花ももう少し種類をふやして・・・と思っていたところであった。
「・・・なんだその花は?」
不機嫌な低い声。
仕事が忙しいのか?ならば、帰宅をする暇もないはず・・・
ならば、何がここまで父上の機嫌を下げているのか?
「今からクラウディア嬢との茶会に行ってまいります。
この花はその手土産です、っあ!」
俺が言い終わるか終わらないかで、カッと目を大きく開き俺の手から花束をつかみ取りとそれを地面にたたきつけた。
「こんなものっ!ザリエルめっ!このっ!
お前もっ!
あんな小娘の機嫌を取るようなっ、こんなものっ!必要ない!
どうせっ、今だけの婚約だ!無駄なことをするなっ!」
そう言って激しく叩きつけた花束を踏みつけ、肩を怒らせ玄関を入っていった。
俺は何が起こったのか、驚き呆然とした。
父上と対峙していた場所には、哀れなほど踏みつけられた花束の残骸が地面に散らばっていた。
花に詳しくない俺は、庭師に聞いてその人のイメージの花を選ぶといいと言われた。
悪い花言葉があれば、庭師が教えてくれた。
最初に目についたのガーベラというクリーム色の花弁を大きく上に向けて微笑むように咲く花。
彼女のミルクティ色の髪の色にも似ていたし、何よりもその姿が溌溂とした彼女の印象と一致した。
そのガーベラを中心に薄紫の小花とあわせて、老執事や庭師と束にし出来上がった花束はまさしく大輪の笑顔の咲くクラウディアそのものだった。
その花束が父の手によって無残にも踏みつけられた。
これが婚約者となった初回の茶会の出だしだった。
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