18 / 57
『まて』をやめました 18
しおりを挟む夢は毎日ではないが見たときは、はっきりと覚えている。
夢の中で私は、家の一室でほぼ一日を過ごしていた。
その部屋の窓辺に外に向けて置かれたカウチに座り、刺繍をしたり読書をしたりしていた。
そして時折、というには見すぎなくらいに窓の外に目をやる。その部屋の窓からは、表玄関の門につながるアプローチが見えるのだ。
ほぼ一日をその部屋で過ごし、ランチもこの部屋に運んでもらう。いつも付き従っている、クレアと他愛のない会話をして笑っていても、先が気になるような展開の書物を読んでいても窓の外が気になる。
その様は、まるで主人を待つ忠犬の様で『まて』をさせられているみたいだ。
窓を見てはため息を漏らす。
太陽の位置が陰りだすと悲しそうに目を伏せて、その部屋を出て自室に戻る。
なんども繰り返しそんな夢をみる。
そして、起きると枕は涙でしめっていた。夢の中では、周りに心配をかけたくなくって気丈に明るく振る舞って涙は一切溢していない。だけど、堪えきれず夜に泣いていたのか。そして私も・・・
とにかく、私は夢の中で忠犬よろしく毎度毎度、彼を待ち続けた。
私は窓の外のアプローチの植木が風に揺れただけで、誰かが来たのでは?と笑みを浮かべ窓を開けてその先を見つめる。
馬車が見えて、玄関にいそいそと出れば、外出していた両親やジェイクが帰ってきて「おかえりなさい」というのに想い人でなかったことが悲しい。そんな薄情な心をもって自己嫌悪する。お父様は遠路出かけて帰ってきたというのに、無事を喜んでほっと安堵しているのに、それでも想い人でない悲しみが胸を締め付ける。
時には、無理やりジェイクに引っ張られて庭で剣を振るっていた。
剣の稽古は楽しい。
体を動かすと自然と笑みが浮かぶ。嫌なことも悩みも忘れて体を動かすとスッキリする。
なのにふとした時に玄関口が気になる。
もしも今、訪ねてこられてたら?
この姿をみられたら?
幻滅される?
嫌われてしまう?
そう頭に浮かんだ途端、力なく腕が下がる。
心配そうにするジェイクに断り、室内に入っていく。
本当はもっと剣の稽古をしたい!
外出だってしたい。
お友達とお菓子を食べながら、たくさんお話をしたい。
家族と一緒に、他国を廻りたい。
貴族らしい笑みでなく、自然な笑顔でたくさんの人に会いたい。
でもその思いを凌ぐほど愛おしい人がいる。
数ヶ月に一度でも、時間は短くとも会えるなら、声を聴けるならその多幸感は言いあらわせない。
その一瞬の為に我慢ができる。
例え正面から尊顔を見ることはなくとも、かけられる言葉が苦言であっても・・・
一目ぼれをした執着は凄まじく、会えなくとも妄想で乗り越えられる。
そう思っていた・・・・・・
夢は日記の内容にあるものもあれば、ないものをある。
私の記憶なのかな?
夢で見たことが、じわじわと私の記憶になっていく。
もしかしたら、記憶が戻ってきているのでは?
朝起きて、ぼんやりと夢を反芻すると、胸が締め付けられる切なさと同時に恐怖が頭を占める。
この夢が記憶がもどっているのだとしたら、何れはエドワードへの恋慕も思い出す。そして私はまた、自分を押さえてあの待つ日々を過ごす?
嫌だ!!!
今ならそんなことしたくないと、はっきり拒否できるけど、記憶が戻ったらわからない。
また尻尾を振って『まて』を自主的にするかもしれない。
記憶が戻る、恐怖。
だけど見る夢は、エドワードに関することだけじゃない。クラウディアの15年分の記憶らしき夢。家族や友達、屋敷の優しい使用人たちと過ごした思い出。
お父様やお母様、ジェイクに聞いた、もう亡くなった祖父母に可愛がって貰った思い出。
新しく築くことができるものもあるが、できないものもある。
だから思い出したくもある。
実際に祖父母の顔が朧気だが脳裏に浮かぶ。
優しい祖父母の膝にのり、他国漫遊の旅を面白おかしく話して聞かせてくれた思い出。ワクワクした気持ちが今も甦る。
けど、
だけど、
エドワードへの恋心だけは、いらない!
思い出したくない!!
もう待つだけの恋心は、いらない!!!
思い出す前に早く、婚約を解消したい。
それから思い出したとしても、諦めがつく。
どうせ会うこともないのだから・・・
今の私には、エドワードへの恋慕はいらない。
48
お気に入りに追加
3,756
あなたにおすすめの小説
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。

【完結】私を忘れてしまった貴方に、憎まれています
高瀬船
恋愛
夜会会場で突然意識を失うように倒れてしまった自分の旦那であるアーヴィング様を急いで邸へ連れて戻った。
そうして、医者の診察が終わり、体に異常は無い、と言われて安心したのも束の間。
最愛の旦那様は、目が覚めると綺麗さっぱりと私の事を忘れてしまっており、私と結婚した事も、お互い愛を育んだ事を忘れ。
何故か、私を憎しみの籠った瞳で見つめるのです。
優しかったアーヴィング様が、突然見知らぬ男性になってしまったかのようで、冷たくあしらわれ、憎まれ、私の心は日が経つにつれて疲弊して行く一方となってしまったのです。

【完結】名ばかり婚約者だった王子様、実は私の事を愛していたらしい ~全て奪われ何もかも失って死に戻ってみたら~
Rohdea
恋愛
───私は名前も居場所も全てを奪われ失い、そして、死んだはず……なのに!?
公爵令嬢のドロレスは、両親から愛され幸せな生活を送っていた。
そんなドロレスのたった一つの不満は婚約者の王子様。
王家と家の約束で生まれた時から婚約が決定していたその王子、アレクサンドルは、
人前にも現れない、ドロレスと会わない、何もしてくれない名ばかり婚約者となっていた。
そんなある日、両親が事故で帰らぬ人となり、
父の弟、叔父一家が公爵家にやって来た事でドロレスの生活は一変し、最期は殺されてしまう。
───しかし、死んだはずのドロレスが目を覚ますと、何故か殺される前の過去に戻っていた。
(残された時間は少ないけれど、今度は殺されたりなんかしない!)
過去に戻ったドロレスは、
両親が親しみを込めて呼んでくれていた愛称“ローラ”を名乗り、
未来を変えて今度は殺されたりしないよう生きていく事を決意する。
そして、そんなドロレス改め“ローラ”を助けてくれたのは、名ばかり婚約者だった王子アレクサンドル……!?
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

全てを捨てて消え去ろうとしたのですが…なぜか殿下に執着されています
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のセーラは、1人崖から海を見つめていた。大好きだった父は、2ヶ月前に事故死。愛していた婚約者、ワイアームは、公爵令嬢のレイリスに夢中。
さらにレイリスに酷い事をしたという噂まで流されたセーラは、貴族世界で完全に孤立していた。独りぼっちになってしまった彼女は、絶望の中海を見つめる。
“私さえいなくなれば、皆幸せになれる”
そう強く思ったセーラは、子供の頃から大好きだった歌を口ずさみながら、海に身を投げたのだった。
一方、婚約者でもあるワイアームもまた、一人孤独な戦いをしていた。それもこれも、愛するセーラを守るため。
そんなワイアームの気持ちなど全く知らないセーラは…
龍の血を受け継いだワイアームと、海神の娘の血を受け継いだセーラの恋の物語です。
ご都合主義全開、ファンタジー要素が強め?な作品です。
よろしくお願いいたします。
※カクヨム、小説家になろうでも同時配信しています。
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
大好きなあなたを忘れる方法
山田ランチ
恋愛
あらすじ
王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。
魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。
登場人物
・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。
・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。
・イーライ 学園の園芸員。
クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。
・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。
・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。
・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。
・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。
・マイロ 17歳、メリベルの友人。
魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。
魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。
ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる