上 下
16 / 57

『まて』をやめました 16

しおりを挟む



お父様は確かに優秀な人なんだろう。
聞く人聞く人すべてが声を揃えて「ザリエル伯爵が交渉しても成立しない話は誰にもできない」と言われていた。確かにそれ程の交渉術を持ち合わすお父様なら、騎士団や警邏隊の通常の捜査以外の方法で真相を見つけられそう。
・・・・・・それに家族愛の執念も込めて

犯人の目星も証拠も揃っているというのに、捕縛しなかったのは現行犯逮捕したかったからかな?
でも今回のお茶会でサビーナ様が突っ走らなかったらどうしたのかな?
他にも方法を考えていたのかな?

私の疑問に心痛な顔をするレティシア様。
ああ、なんて美しい。
悲しそうな憂い顔も美しい。
そんな顔をさせたくないけどさせているのが、私のさっきの発言ならスイマセンという気もするがあまりの美しさに胸が締め付けられるような。

「・・・姉様」

私の気持ちを正しく理解しているジェイクが呆れた声を出す。
すまない、お姉ちゃんは美しいものに弱いのだよ。

「はあ、姉様。・・・報告書の、協力者の欄を見て。」

ため息を一つした後、言葉を選ぶように言われて改めて報告書の言われた箇所を見る。
そこには、毒や薬を提供した人たちの名前と薬を調合した人の名前が別枠で書かれていた。

出し合った毒や薬の効き目や量は、差があり明らかな殺意があるとわかる強力な毒が3種入っていた。
そしてそれを調合した薬草学に詳しい子爵という人は、効き目を弱くしていたらしい。

「その子爵の名前・・・、わかる?」

そう言われて改めて名を見る。

───アボット子爵
薬草学治療魔法に精通した人物。王立治療院副官。陛下の医師団にも名を連ねる。

どこかで、最近聞いたような・・・名前?

記憶のどこかに引っかかってるような・・・すっきりしない。
出そうで出ない・・・
喉に小さな小骨が引っかかているような・・・
もう少しで手が届くのに・・・

「・・・ローラ・アボット・・・」

ミリアム様が小さくつぶやいた名前には、はっきりと憶えがある。私の大切なお友達だ!って、あれ?アボット?ローラは子爵令嬢のはず、アボット子爵・・・・・・ローラのお父さん?

「それって、ローラ・・・の、・・・お父さん、なの?」

自らの口から出る言葉を信じたくない。
記憶がなくなっても友達でいたいと思うような、ローラのお父さんがこのクラウディア傷害事件にかかわっているなんて・・・
頭の中がしびれるような思考が止まったような気がする。指先がしびて戦慄く感覚。

「子爵は脅されて無理やり手伝わされたそうです。」

強張る顔で固まった私に静かな声でミリアム様が続ける。

「詳しい仔細は省きますが、家の存続に纏わる秘め事を知られて脅されたそうです。
脅されたと言ってもそこは命の尊さを口にする治療師。人を傷つけるための調合をおいそれと素直にする事はありませんでした。」

アボット子爵は、調合を嫌々請け負う様に見せて、実は毒薬の効果を薄めるようにしていた。
脅迫され無理矢理連れていかれ、協力者の別宅で集められた毒や薬を調合するよう指示された。無味無臭、且つ即死に成らず時間差で効くようにジワジワ死に至るよう作れ、と。指示された内容は、難しいはずのものだが用意されたもの毒や薬が一般的なものばかりだったので子爵にとっては容易かった。
さらにパイル伯爵は用心深く、子爵にも毒薬を出すよう強制した。彼は仕方なくを装いある毒草をだした。
子爵が用意した毒草は、一般的に毒に当たるが実は、他の毒と混ぜることで解毒剤になると最近発見されたもの。
それを使い、他の毒の効果を消してほんのちょっと具合が悪くなる程度に調整した。勿論、こっそりと解毒剤も作り使用されれば相手を探しだし、それを使う予定だった。
予定外だったのは、倒れたクラウディアをザリエル伯爵の要請で診察した際、効かなかったということだった。
子爵曰く、調整した毒薬に後から何かが加えられた。その作用によって昏睡状態になり、解毒剤が効かなかったみたいだと見解を示した。
しかも子爵は、ザリエル伯爵に言われて初めて毒薬を使われたのがクラウディアだと知った。毒薬の使用先は知らされていなかった子爵。
娘ローラの親友であり、大恩のあるザリエル伯爵の娘、クラウディアに使用されたことにショックを受けていた。
脅されてとはいえ、作った毒薬に倒れたクラウディア。解毒剤も効かない。さらに子爵がザリエル伯爵に呼ばれたことに気がついたパイル伯爵側から監視をされて、治療もできなくなってしまった。自首して告発したくとも、万一、秘密が漏れ家族に害が及んだらと悩み、罪の意識との挾間で頭を抱える日々をすごしていた。
彼にとっては、クラウディアが聖女の力で回復したことは僥幸であったが、それで罪がなくなる訳でないとおもっていた。
伯爵逮捕の一報を聞いた子爵は、残った毒や薬などの証拠品を持って騎士団に自首してきた。彼が持ち込んだ物的証拠により捕縛がスムーズにいった。


ただ、一人を除いては・・・・





しおりを挟む
感想 66

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

あなたの側にいられたら、それだけで

椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。 私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。 傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。 彼は一体誰? そして私は……? アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。 _____________________________ 私らしい作品になっているかと思います。 ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。 ※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります ※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)

婚約破棄させてください!

佐崎咲
恋愛
「ユージーン=エスライト! あなたとは婚約破棄させてもらうわ!」 「断る」 「なんでよ! 婚約破棄させてよ! お願いだから!」 伯爵令嬢の私、メイシアはユージーンとの婚約破棄を願い出たものの、即座に却下され戸惑っていた。 どうして? 彼は他に好きな人がいるはずなのに。 だから身を引こうと思ったのに。 意地っ張りで、かわいくない私となんて、結婚したくなんかないだろうと思ったのに。 ============ 第1~4話 メイシア視点 第5~9話 ユージーン視点  エピローグ ユージーンが好きすぎていつも逃げてしまうメイシアと、 その裏のユージーンの葛藤(答え合わせ的な)です。 ※無断転載・複写はお断りいたします。

私の何がいけないんですか?

鈴宮(すずみや)
恋愛
 王太子ヨナスの幼馴染兼女官であるエラは、結婚を焦り、夜会通いに明け暮れる十八歳。けれど、社交界デビューをして二年、ヨナス以外の誰も、エラをダンスへと誘ってくれない。 「私の何がいけないの?」  嘆く彼女に、ヨナスが「好きだ」と想いを告白。密かに彼を想っていたエラは舞い上がり、将来への期待に胸を膨らませる。  けれどその翌日、無情にもヨナスと公爵令嬢クラウディアの婚約が発表されてしまう。  傷心のエラ。そんな時、彼女は美しき青年ハンネスと出会う。ハンネスはエラをダンスへと誘い、優しく励ましてくれる。 (一体彼は何者なんだろう?)  素性も分からない、一度踊っただけの彼を想うエラ。そんなエラに、ヨナスが迫り――――? ※短期集中連載。10話程度、2~3万字で完結予定です。

貴方誰ですか?〜婚約者が10年ぶりに帰ってきました〜

なーさ
恋愛
侯爵令嬢のアーニャ。だが彼女ももう23歳。結婚適齢期も過ぎた彼女だが婚約者がいた。その名も伯爵令息のナトリ。彼が16歳、アーニャが13歳のあの日。戦争に行ってから10年。戦争に行ったまま帰ってこない。毎月送ると言っていた手紙も旅立ってから送られてくることはないし相手の家からも、もう忘れていいと言われている。もう潮時だろうと婚約破棄し、各家族円満の婚約解消。そして王宮で働き出したアーニャ。一年後ナトリは英雄となり帰ってくる。しかしアーニャはナトリのことを忘れてしまっている…!

愛する人のためにできること。

恋愛
彼があの娘を愛するというのなら、私は彼の幸せのために手を尽くしましょう。 それが、私の、生きる意味。

別れたいようなので、別れることにします

天宮有
恋愛
伯爵令嬢のアリザは、両親が優秀な魔法使いという理由でルグド王子の婚約者になる。 魔法学園の入学前、ルグド王子は自分より優秀なアリザが嫌で「力を抑えろ」と命令していた。 命令のせいでアリザの成績は悪く、ルグドはクラスメイトに「アリザと別れたい」と何度も話している。 王子が婚約者でも別れてしまった方がいいと、アリザは考えるようになっていた。

公爵令嬢の婚約解消宣言

宵闇 月
恋愛
拗らせ王太子と婚約者の公爵令嬢のお話。

処理中です...