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『まて』をやめました 15
しおりを挟む「今回の主犯はパイル伯爵、ということになります。」
あの日から1週間の今日です。
レティシア様からお見舞いという名目で、神殿の帰りに我が家へいらして下さった。
勿論、一緒に護衛のミリアム様も来られ事の次第を聞いた。
主犯は、パイル伯爵。
娘のサビーナがエドワードに恋心を寄せていたことが発端とも言える。周りは身分違いとまではいかずとも、国屈指の貴族、ザリエル家の令嬢と婚約を結ばれていることから、その恋は叶わぬものであると、親ながらどうしようもなかった。
しかし、クラウディアと王弟の秘めやかなる恋が、まるで物語の様に広まった。
それは高位貴族なのに結ばれぬ幼馴染2人の初恋物語のようで、乙女たちの心を掴んで真実の様に語られた。
パイル伯爵は、聖女信望者だ。
王弟の婚約者の聖女レティシア様が悪役のように言われ蔑ろにされていることに憤慨したパイル伯爵は、一計を講じた。
娘のようにエドワードへ恋慕をもつ家人や聖女信者たちへ、クラウディアさえ始末すればと囁き仲間を集めた。
聖女への信者は数知れず、更にその中、年頃の娘を持ちあわよくばと狙っている野心家。
邪魔者の排除。
クラウディアを害するのに夜盗に襲わせるという案が多く出たが、ザリエル家をよく知るものは王家と同等の護衛力を有する伯爵家なので難しいと難色を示した。
色々な意見の出る中、多かった毒殺が有力となったが、毒を手に入れる段階で最も足が付きやすい。
ではどうするかとなって、どの家にもあっておかしくない毒=ネズミ駆除剤、殺虫剤、除草剤と効き目は弱いがいくつかある。それに睡眠薬など、医師から処方される薬草も合せ、飲み合わせによって体の害になるものを複数混ぜ合わせる混合毒を用いることになった。
各家々にあるものを少量づつ混ぜ合わせて作るそれは、連判状代りでもあった。
一つ一つは弱い効き目でどの家にもある毒や薬。それを混ぜ合わせることでどのような効果が出るかわからないが、少なくとも即死はないだろうと思われていた。
慎重に声を掛けた家は、13家。
王家からの信頼厚いザリエル家の令嬢に害をなそうとするのだ、声を掛けて話を聞いたものは回避不可能として、その数は多くもなく少なくもない。
お互いがつながっている出し合った毒となる物は、裏切りを防ぐために誰が出したものが明らかになるようにしていた。
おあつらえ向きにパイル家のお茶会が催される。主犯として舞台は整えた。
毒入りの混入物も、毒はなるべく無味無臭に調合するため紹介された薬剤に詳しい子爵を脅して作らせた。それでも警戒心の強いザリエル家の護衛に気付かれてはと、他国の珍しい、この国では手に入らないというスパイシーさが特徴の菓子に混ぜ込むことにした。これを作ったのは、ザリエル伯爵がいるがため、外務省で影の薄い侯爵の地位にいるもの。ザリエル家への恨みはかなり練り込められたものになった。
この計画に夫人とサビーナ様は、最初教えられていなかった。
しかし伯爵が夫人に必ず、この菓子をクラウディアに食べさせるようにと強く強く念を押されたことで何かあると踏んでいた。もとよりザリエル家に対して、夫人も同じ伯爵なのにその格の違いに嫉妬をしていた。お茶会当日、少々強引であったと自覚はあったが夫からの指示を実行した。
その後ザリエル家から帰宅後クラウディアが倒れたと抗議があったが、知らぬ存ぜぬでシラを切りとおした。
実際に誰かが漏らせば連座となり皆が罰を受けるから協力したものから告発はないと踏んでいた。何よりも致死に至っていないのだから、昏睡では原因を解明するのは不可能だろうと計画の成功を確信していた。
昏睡を聞いたヴィンセント侯爵は、クラウディアの回復関係なくエドワードの次の婚約者を探し始めたと噂が出た。社交界にもクラウディアは原因不明の病で死にそうだと、誰かが故意に噂を流したのも相まってパイル伯爵はほくそ笑んでいた。これであとはヴィンセント侯爵の目に娘が止まれば、万事思惑通りと思っていたのだ。
実際、そうなりかけていた、そう思っていたらしい。
だがしかし、そうはならなかった。
パイル伯爵からは思いもよらない。
聖女レティシアによる癒しでの回復だった。
誰もがレティシア様はクラウディアを目の敵にしていることだろうと思っていたのにも関わらず、貴重な聖女の力を用いてクラウディアを回復させた。
彼らの勝手な妄想では、ザリエル伯爵が婚約者の伝手を使い無理やり聖女様を従わせたと信じられた。
その怒りを大声で張り上げているところを、夫人とサビーナに聞かれてしまいすべてを家族に話した。
そして余計な勘違いをしたのが、サビーナだった。
サビーナは父親の話を都合よく耳に入れ理解した。
つまりは、クラウディアさえ死んでしまえば、聖女レティシアも幸せになり、サビーナもエドワードの婚約者になれる、と。
その妄執にとりつかれしまったサビーナは、クラウディアの回復を見せるため噂を払拭するための大規模なお茶会をすると耳にした。その後パイル伯爵家にも招待状が届き、リベンジのチャンスと神が示したのだと勝手に思い込んだ。
それを両親に進言したが、一度目の失敗で警戒は前よりも厳重になり、そう簡単に会場で用意されたもの以外を口にしないだろうと及び腰だった。
しかし妄執で憑き動いていたサビーナには、行動を躊躇う両親がりかいできず無視して勝手に行動にでた。
前回使った調合された毒を伯爵の執務室から探して盗みだし、当日忍ばせて持ち込んだ。
後は当日の動き通り。無計画に勝手に行動したサビーナのせいで、当日は知らされていなかった夫人は捕まりすべてが明かされ伯爵も拘束された。
毒を出し合い協力した家々も芋づる式に掴まった。
「まあしかし、よく敵陣でそんな大それたことをしようとしましたねえ。サビーナ様が一人でつっ走ってくれたお掛けで尻尾を掴んだんだけどね。」
よく纏められた報告書と、実際犯人確保に携わったミリアム様からも口頭で聞いた感想を口に出すと意外な方面から話が出た。
「そうでもなかったみたいよ。」
「えっ?」
顔を向けるとレティシア様とミリアム様、さらにジェイクもしたり顔でいた。
「ザリエル伯爵は、大変優秀な上家族愛の深い方よ。そんな人が大切な貴方が傷つけられて黙ってなんていないわ。
聞けば犯人の目星も、証拠も揃っていたそうよ。」
優しく告げられたことは、少し考えればわかること。だったけど、何故かできないとおもっていた。
だって日本のように検察なんてないし、どうやって調べるのか見当かまったく思いつかなかった。
「証拠もあったのに、なんで捕まえられなかったのかなぁ」
◇
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