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上・立夏の大陸
高原の闘い
しおりを挟む広がる高原の真ん中でシルクは立ち止まり、振り返る。
「……うん、ここだったら。」
木々を操る能力。そう感じたシルクの機転であった。
高原の真ん中から林までは数十メートル間隔があいている。
シムの能力で木々を操られたとして、十分に回避できる距離を取った。
ゆっくりとシムがシルクに追い付く。
「鬼ごっこはお仕舞いかい?ぼうや。」
「そう、鬼ごっこはお仕舞い。ここからは……宴の始まりだ。ミカエル!!」
燦然たる輝きを伴に、シルクに巻き付く大天使の羽衣。
「天使ミカエル……光の力か。なぁに相性は悪くもないさ。なぁノーム。」
左手に付けられた鮮血の石が怪しく輝く。
「ノーム。彼を捕らえなさい。」
怪しい赤い光が放たれると、辺りに地鳴りが響いた。
「なんて強大な魔力だ……本当に木々を動かすなんて。」
周りに根ざしていた木々が根を伸ばしシルクを捕まえようとしていた。
地鳴りと共に数百の根がシルクを捕える。
「乱槍…光撃!!」
まるで鋭利な槍での乱れ突き。
放たれた光線が根を焼き切り、捕らえられるのを拒む。
「……やりおる。が我が力は木々を操る能力ではない。ノーム!!」
また鮮血の石が怪しく輝いた。
瞬間。
「――なっ!!」
シルクの周りの岩が突起し、シルクに向かってくる。
「ノームは大地の支配者だ。ここに広がる全ての土が木がノームの手足となる。」
突起した岩がシルクを取り囲み、その屈強な牢獄に捕らえようとしてくる。
そのスピードは凄まじく、いかに俊敏に動けたとして避けることは不可能だった。
「……ほう、これはこれは。」
パキッ。
非常にか細く弱々しい音がした数秒後、岩の牢獄のある一辺に亀裂がはしり、粉々に砕け散ったのだった。
「そうか忘れていたよ。君は偉大なる錬金術師スカーレットの血縁だったね。」
岩の牢獄を抜けたシルクが手にしていたのは、光り輝く純白の槍だった。
「大天使の羽衣の能力の一つ『付光』。大天使の羽衣と共に錬成された物質は『光』の属性が付与される。」
「面白い能力だ。だが錬金術で我がノームに勝つことができるかな?」
鮮血の石が輝くと、地中から輝く一振りの剣が現れた。
「うむ、良い出来だ。」
シムはそれを目で愛でると満足そうに笑った。
更に、今度は人ほどはあろうかという巨大な盾が現れる。
「うむ、これまた……最強の矛に相応しい最固の盾じゃあないか。」
シムはそれら2つを構え、シルクを見据える。
「いざ、参る!!」
ガキィィィィィン。
辺りに響き渡る渇いた音。
「ほっ。」
振りぬかれた刃を躱し、シルクが反撃をする。
体勢を崩したシムを捕えることなど容易なはずだった。
「……ノーム。」
鮮血の石が輝くとシムの足元から木の根が飛び出し、シルクを襲う。
「――危なっ!!」
間一髪で身体を反らして躱したシルク。
すると、目の前にはシムの容赦ない斬撃が迫ってきていた。
「ちょ、待っ――!!」
「ノーム。」
鮮血の石が光り、シルクは自らの足に違和感を覚えた。
一瞬目で足を確認すると、いつの間にか岩に足がめり込んで動かなくなっていたのだ。
「嘘だろ?足が捕らえられて……くそっ!!」
回避することは適わず、反撃することもできない体勢のシルクに眼前にまで迫ったシムの攻撃を避けるすべは無かった。
「終わりじゃの。ぼう――」
「『飛流漠』!!」
シルクの目の前でシムの刃が弾け飛んだ。
それと共に頬に感じた冷たい感覚。
シルクの頬は水飛沫で濡れていた。
「小娘が邪魔をしおって。」
シムが見据えた先に立っていたのは
「……!!マリアさん。」
ウンディーネのギフト・ポセイドンの槍を構えたマリアだった。
「マリアさん、大丈夫です…か……」
そう言いかけてシルクは口をつぐんだ。
聞くよりも見た目から明らかだったのだ。
疲弊仕切った顔、揺れる肩。
マリアは無理をしていた。
シルクは叫ぶ。
「マリアさん、その身体じゃ無理だ!!さがって!!」
マリアはふらつく足元を無理矢理に正し、強い眼差しで言う。
「そんな甘いこと言ってる場合じゃないのよシルク。シムは本当に強い……」
目の前で微笑むシム。
共に戦う。と覚悟を決めてこの場に来たはずの、マリアが恐怖で数歩下がるほどの魔力を発している。
「……ぼさっとしないで、行くわよ!!」
「マリアさん――!!」
足に目一杯の力を込めて、マリアがシムに向かっていく。
振り上げられたポセイドンの槍に強烈な水流が巻き付く。
「はぁぁぁぁあっ!!『ブルー・インパクト=激水圧の衝撃=』」
ポセイドンの槍が叩きつけられ、その地点に十数メートルほどの水飛沫が上がる。
凄まじい衝撃だ。
「……ふむ、私の最強の盾に傷を付けるとは、なかなかの攻撃力だ。」
シムは一歩も動くことなく、その場にたたずんでいた。
シムの手に握られた、財宝の様に光る盾が凹んでいた。
そんなことは気にしていないのか、シムは剣を振り上げる。
「攻撃力は誉めよう。しかし、防御力はどうかね?」
にやり。と不敵に笑い、シムの刃が振り下ろされる。
「射ぬけ『光波』」
カッ!!っと光り輝くシルクの左腕。
強烈な光がシムの目を射ぬき、わずかに斬撃の軌道が逸れる。
「そして、マリアさんの前方に岩の盾を!!」
シルクが地面に手をあて、魔力を込めると、マリアの下から岩が突起し、前方に岩の盾を形成した。
シムの鋭い刃は岩の盾を簡単に切り裂いたが、威力を半減させられたそれがマリアのポセイドンの槍を貫くことはなかった。
「……くっ、やりおったな悪餓鬼共めが。」
シムの魔力が更に強くなり、鮮血の石が今まで以上に不気味に光り輝いていく。
「受けるが良い。私の最強の攻撃を。ノーム……『吸命の檻』」
バガァァッ。と大地が裂け。
シルクとマリアを悠々と飲み込む巨大な檻が、左右からまるで何かの顎の様にバクンと2人を飲み込んだ。
「吸命の檻‐『悠久の箱庭』」
山一つ分はあろうかという巨大な檻に飲み込まれた2人。
標的を永遠に闇の中へと閉じ込める檻は雄大にそびえ立つ。
「吸命の檻‐『搾取の大幹』」
パチン。とシムが指を鳴らし魔力を込めると、悠久の箱庭に張り巡らされた木々の根が集まりだした。
そして中にいる2人にまとわりつくと、その根から魔力と生命力を吸い取る。
「ふはははは。山の頂上に緋色の木が生えた時が貴様らの最期だ。」
ボコ。っと音を立てて山の頂上が突起した。
「突き崩しなさい『巨漠流撃』!!」
振り絞った全魔力が巨大な流撃となり、更にそれが一点に集約しながら回転する。
「悪しき力を貫け『星層の槍』」
煌めく左腕から何千もの光の槍が生み出され、シルクが魔力を込めると、それが一斉に投じられる。
まるで流星群の様に煌めきながら、シルクとマリアの最大の攻撃が奇跡的にある一点を貫いた。
「ふはははは。絶命の檻の前には誰もが無力なのだ。みていろ炎王、貴様の席は私が頂く!!」
ピキキッ。檻に小さな亀裂がはいる。
『――!!シム、絶命の檻の様子がオカシイ。これは……まさか――!!』
ドゴォォォォォオッ!!
山の頂上が弾け飛び、巨大な水柱が強烈な光と共に空に打ち上げられた。
「なんだとぉう!?そんなバカな、私の絶命の檻が、私の力が――」
ドゴッ。と岩盤を蹴り上げ地上にはい上がった2人。
そんな2人を見て、シムがわなわなと怒りに震えていた。
「マリアさん大丈夫ですか?」
マリアは魔力を使いきり、もう立ち上がる力すらも残ってはいなかった。
ガクっと膝を尽く。
「ごめんシルク、私が手伝えるのはここまで。あとは、あなたに託すわ。」
グッ。と突き出された拳にシルクは力強く拳を重ねた。
「任せてください。すぐに終わらせて来ます。」
そう言って飛び降りたシルク。
シムとシルクの最後の戦いが始まる。
飛び降りたシルクがシムの前に躍り出る。
「小僧と小娘が子癪(こしゃく)な真似をしおって。」
顔を真っ赤にして怒りを顕にするシム。
シルクはゆっくりと構える。
「なんかだんだんと大天使の羽衣の使い方が分かってきたみたいだ。」
『そうですね。先程の星層の槍はなかなか良い力でしたね。』
カァァアッ。とまばゆくシルクの左腕が光り。
「煌めけ『流星波動』」
何百、何千の小さな光の槍がシムに向かって飛んでいく。
「ノーム『金剛障壁』!!」
シムは大地に眠る炭素をかき集め巨大なダイアモンドの盾を錬成した。
しかし魔力が無くなってきているのかスピードが落ちている。
「……くっ、間に合わない!!」
金剛障壁が完成する間際にシルクの流星波動が貫いた。
しかし、シムは間一髪で金剛障壁の影へと身を隠していた。
ザッ。
「お仕舞いにしましょうシムさん。」
屈みこんだシムの目の前に立ちはだかるシルク。
ついにシムをつかまえた。
「さぁお仕舞いですよシム。大人しく僕に捕まってください。」
シムは背中の後ろでひっそりと魔力を込めた。
そしてある物を錬成したのだった。
山のふもとまで降りてきていたマリアがそれを見ていた。
「――シルク!!」
駆け出したマリア。
「できたら何もしたくないです、さぁ腕輪を渡してください。」
シルクが手を伸ばす。
「わ、わかった腕輪は渡す。だから何もしないでくれぇ。」
ごそごそと背中の後ろで手を動かすシム。
シルクが逃れられない場所まで近づいたのを確認すると、それを突き出した。
「バカが、そんなことで王になる資格を渡すわけがないだろう。死ねシルク・スカーレット!!」
カチャっと突き出された拳銃が、シルクの眉間に向けられていた。
「さらばだ。」
ドンッ!!
鳴り響く銃声。
シムとシルクは目を疑った。
「――え、マリアさん!!」
拳銃を突き立てられたシルクの前に走り込んだマリアが、シルクの身代わりとなり腹部に銃弾を受けた。
おびただしい血を流しながら倒れるマリア。
「はは、はははは。バカな小娘めが。自分から打たれるとはな。」
そう言ってシムは拳銃を捨てて走りだした。
「……ま、待て『光縛』」
「ノーム、盾を。」
走りながら背中に岩の盾を出したシムがシルクの光を回避して、深い森の中に消える。
「逃がしたか。いや、それよりもマリアさん。マリアさん!!」
意識を失ったマリア。
シルクは必死に彼女を助けるみちを模索していた。
「ミカエル、何か、何か方法はないのか!?」
ミカエルはゆっくりと目を瞑る。
そして何かを決断したのかゆっくりと話しだした。
『まだシルクに教えるのは早いと思っていましたが、今のシルクの魔力ならば可能でしょう。』
「方法があるんだね?」
『大天使の羽衣3つ目の力をシルクに授けましょう。さぁ、集中して――』
「はぁはぁはぁ。くそ、餓鬼どもめ。」
シムは息を切らしながら森の中を駆け抜けていた。
地図は懐に持ったまま何の確認もせずに。
「次に会ったらただでは済まさんぞ。はぁはぁ。」
ある大きな木を通り抜けた時だった。
「いやぁ、じい様はしつこいねぇ。」
「――なっ、誰だ!?」
忽然と背後に現れた男。
男はタバコをぷかぷかと吸っている。
「諦めない強い意志、嫌いじゃないが、なんだかアンタは美しくないな。」
「ふん、また餓鬼が何をぬかすか。ノーム『明鏡止水』!!」
光り輝く剣が男を幻へと誘う。
が、しかし――
パリィィィン。と一瞬にして砕け散った明鏡止水。
シムの顔がひきつる。
「無理だよ、アンタ程度の力じゃオレを幻術にはかけれない。ルシフェル、本当の幻術ってやつを教えてやってよ。『冥獄』」
タバコの黒い煙がシムにまとわりつくと、深い闇の中へと引きずり込む。
「何なんだ、何なんだ貴様はぁ!?」
地中に埋もれる様に、深い闇の中へと引きずり込まれるシム。
手を出しもがくが、男の言葉を聞くこともなく、何処かへと消えてしまった。
「オレは"波乱を呼ぶ者"、ソフィア族の唯一の生き残りさ。名前は無いからソフィアとでも呼んでくれ。」
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