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餼羊編

ep17 防衛戦

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楽斗side 


今日は東真と誠士郎がゾンビ駆除を担当するの日だ
未だに彼らが帰還する気配はなかったが
最近はゾンビと遭遇さえしないため心配はなかった
今日も何も起こらないと完全に油断していたのである
怠慢だったと気づいたのはのことだ
ただ…何もかもが遅すぎた


「防衛任務って言われても
ゾンビ達にここを攻められたことがないから 
イマイチ何をしたらいいのかがわかんねーよな 」


刀の手入れをしつつ俺がそう言うと
側で絆創膏の数を数えていた美九は笑いつつ


「言いたいことは凄くわかるけど
誠ちゃんはもしもに備えて采配したんだと思うから
楽斗も従わないとダメだよ?」


「まぁなー! 
大変なこともあったけど最近東真も気合入ってるし
なかなか良い方向に進んでると思うわ、俺ら」


「うん……そうだね」


よっぽど嬉しいのか美九は噛みしめるように応えた
俺は良い意味で変な奴だと思いつつ


「そういえばリータは? 」


「リータちゃんは奥で寝てるかな?」


そう言って美九はパーテーションを指差す
仕切りの奥にあるベットの上だと伝えたいのだろう
俺は青色のパーテーションを見ながら


「そっか…… 最近リータは元気ないの? 」


「うーん……どうだろう…?
何か思い悩んでる感じだからねぇ 」


「もしかして………  」


そう俺が先を言おうとした瞬間に



ドギャアッッ、、!!



何者かによって保健室のドアが破壊された
そして割れたガラスの破片がこちらに飛んできた


「なッ………!?!? 」


前代未聞の侵入者に驚愕しつつも
俺は刀を手に取って側に居た美九を押し飛ばす  


「きゃッ………! 」


悲鳴をあげながら彼女は後ろに転がり
なんとかガラスの破片が刺さらずに済んだ


「誰だ……てめぇッッ………!!」


俺は刀を抜いて奴の前に立つ
目の前には大斧を手にした巨体のゾンビがいた
2m程の巨躯を有し両腕は丸太のように太い
装備している大斧も奴の身長ほどの大きさだった


(よりによって…誠の勘が当たったのか………? )


ドアを破壊して乗り込んできた割には
奴は攻めてこないまま大斧を肩に掛け静止している
暫く睨み合いが続くなかで遂に奴は


「人間ハ皆殺シダ…シカシ 岩見トイウ奴ノ 居場所ヲ
教エタラ 今ハ見逃シテヤル 」


奴はドスの聞いた邪悪な声で確かにそう言った
確かにという名字を声に出した
あまり聞かない名字だし間違いなく誠士郎だろう
理由は不明だがコイツは誠士郎を狙っている
俺は刀を構えつつ深呼吸をしたあと


「悪ぃけど…知らねぇな…………」


「デハ 死ネ………… 」


奴はそう即答した途端



ズドドドドォオッ……………!!



もの凄い勢いでコチラへと迫ってくる
そして奴は大斧のリーチに入った瞬間に



ドバギィッ……… !!



両手で掴んだ大斧を全力で振り下ろしてきた
板でできた保健室の床が抉れている


(当たったら即死かよッ………!?)


なんとか左後ろに飛んで一撃を回避したが
ここは保健室であり戦うには少々狭いのである


(メアリーとの戦闘を思い出せ………
自身の無力さを思い知ったあの時を思い出せッ…! )


斧持ちのゾンビという未知な相手に気圧されるなか
あの屈辱を思い出すことで自身を奮い立たせる
目で追えないほど素早いメアリーより幾分マシに思えた


~~~~~~~~


リータ/アリシアside


私は鈍い衝撃音と共に目が覚めた
聞き覚えのある邪険な声が仕切り越しに聞こえる


(もしかして、、 奴が……………)


私はベッドの近くにある
パーテーションという名の仕切りをそっと開けて
覗き込むように外の状況を確認すると奴が


(あの容姿を見間違うはずがない……奴だ…
カミダさんの仇である…弾ッ…………)


しかし1つ障壁が存在している
仇を目の前にして私の身体は硬直していた


(今私がこの仕切りを飛び出して奴に挑んだら……
間違いなく二人に正体がバレてしまう…いや………)


最悪の場合は私が傀儡者だとバレてしまううえに
抑制剤がないこの場で暴走を引き起こすこと
ソレだけは避けなければならなかった


(仮にこの場私が暴走したら……………………)


完全に私は人間とは無縁の怪物へと変化してしまう
普段は理性で抑え込まれていたソレが目覚め
ミクさん達に襲いかかり殺戮を繰り返すだろう


「私は………… どうすればッ……… 」


ここに来て躊躇してしまうなんて考えもしなかった
孤高を貫いていた頃はこんなにも脆くはなかったはず
随分と人の優しさや温もりに浸ってしまったらしい
紡がれたリータの記憶が私を弱くさせた



「え…リータは私じゃないの?…
違うわッ………私は……アリシアだった……??」



記憶が曖昧になり人格の境界線は崩壊を招く
今私の自我がどっちなのかさえ理解できなかった
私は…誰なの?…………



ドギャアッ…………!!



仕切り越しに鈍い音が耳に突き刺さる
私は黙って目を閉じ戸惑いを鎮めるなかで


「ぐがッ………… !! 」


間髪入れずにガクトさんが苦痛の声を挙げる
その悲鳴は仕切りをすり抜けるように耳に突き刺さった
このままだと彼の命運は途絶えてしまう


「逃ゲ周リヨッテ……… 」


どうやらガクトさんが吹き飛ばされたようだった
奴の重い一撃を無理して刀で受けたのだろう


(……………………ガクトさん……)


ズシズシッ…という奴の足音が聞こえてくる 
耐えられなくなった私は隙間から状況を確認すると


「小僧ォッ………死ネェッ!!………… 」


雄たけびのような大声をあげながら
奴はガクトさんの首に手を当てて絞めていた
状況は読み込めていても身体は動かない


「ぐッ…………がぁッッ………!! 」


ガクトさんの苦痛の声が聞こえる
奴の太い指が頸動脈をメキメキと締め上げていく
抵抗するガクトさんは段々と力を失っていた
その光景に思わず目を逸らしたその時に


「待って、、 」


「え……………?」


咄嗟の困惑が声となって漏れたあと
声の方を見るとガクトさんを締め上げる奴の側で
ミクさんが少し震えながら立っていた 
小柄なミクさんが2mほどある奴と並ぶその様子は
明らかに絶望的な光景だった


「ナンダ………小娘ヨ…… 」


そう言いつつ奴はガクトさんを軽々と放り投げた
背中を床に打ち付け彼は苦しそうに呼吸をしている
間一髪で助かったようだが状況は変わっていない
私はただ息を呑んで仕切りから覗いていると


「小娘ハ 何カ 面白イ事ヲ スル奴ガ 多イ……
ナンダ 何カ有ルナラ 我ニ申シテミヨ  」


明らかに舐めた態度で奴は応える
先程まで仮にも殺し合いをしていた者の台詞ではない
しかしミクさんは気にも留めず、ただ真っ直ぐに


「私を殺していいから…………彼は助けて 」

「どんな事でも……するから……… 」


「み"くッ………… 
なに" 言ってや"がるッッ………!! 」


声が震えているなか奴にそう持ち込むミクさん
その側でガクトさんが声を荒げて止めている
緊迫した状況のなかで事態はすぐに動いた


「ハッハ…………!! 」


吹き出すように奴は嗤って彼女の側へと寄る
震える彼女の目前で丸太のように太い右腕を引いて



ドゴァッ…………!!



彼女の腹部を貫通させんばかりに思いっきり殴る
大人がぬいぐるみを殴り飛ばすようなその鬼畜さに
私の身体はただただ震えていた


ドバタッ…………


音をたてて彼女は吐血しながら倒れ気絶した
その余韻のなか身体の震えは段々と酷くなっていく
この震えは先程の身バレや暴走への恐怖からではない
奴への怒りと殺意によるものだった


(わかっている…わかっているんだ………)


どれだけの力を得ようとも犠牲わかれがなくなるわけではない
ただ奪わんとする暴力にはそれ以上の暴力で返さなければ
得たその力さえ空虚なものと化していくのだろう


「美、、九、、、 」


ガクトさんは糸が切れたようにそう静か呟いた
そして倒れたまま怒り狂ったように叫ぶ


「テメェ……ぶッ殺してや"るッッ………!! 」


「ガハハハッ………! 」


しかしガクトさんの身体は限界で動けないようだ
余裕そうに彼を嗤いながら奴はミクさんを拾いあげ


「コイツハ 人質ダ………… 」


そう伝えたあとに彼女を肩にかけて大斧を拾い
ゆっくりと保健室の出口へと向かっている


「くそ"ッッ!!………
待ちやがれェッッ…………!! 」


ガクトさんによる悲痛の咆哮が室内に響くなかで
私はベッドを囲っていた仕切りをそっと開けて
ミクさんを攫う奴の方へと静かに歩き出す



「その人を…返して…………… 」



私は奴の背中に向かってそう呟いた
たとえ私の正体が2人に知られても構わない
絶対に彼女を取り返さなければならない


~ ep17完 ~

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