ビハインド

さいだー

文字の大きさ
上 下
40 / 48
5

5-3

しおりを挟む
 最寄り駅で降車して見慣れた一面の田んぼを見て白い息を吐き出した。

 本来ここから自宅までの道のりは自転車で移動をするのだけれど、これからやすみに電話をしなければならない事を考えると三十分以上歩いて帰らなければないことになる。

 こんな寒空の中を三十分歩く。
 普通の心境なら憂鬱になりそうな物だけど、俺の心持ちは違っていた。

 どうしようもないくらい浮かれていたんだ。

 嬉々として無人の改札を通り抜けると駐輪場に停めてあった自転車を回収し、すぐにスマホを取り出した。

 電話をかける相手はもちろん、やすみ。


 発信音の後に呼び出し音が三回鳴った所でやすみは電話をとった。

「よっもしもし。久しぶり。元気してたか?俺はまあまあ元気だった。
 あっそうそう、今日実は受験でさ、って一気に話してもよくわからないよな。アハハ、ごめん」

 話したいことが多すぎて、俺は独り言を壁にぶちまけるように捲し立てた。

「どうもー。久しぶりだね涼君。少しは良い男になったかい?」

「えっ?あっ、ど、どうも」

 返ってきた声を聞いて俺は面食らって、軽いパニックを起こしていた。

 知っている声なのだけど、やすみの声ではない。

「さっきのメッセージ、見て貰えたんだよね?」

 電話の相手の言うメッセージとは、あのイタズラメッセージの事なのであろうか?
 そうであるならば

「あっ、はい、見はしましたけど」

「それならいいんだ。それで、これから時間は大丈夫そう?」

 なんとも話の進め方が強引ではあるが、この後はあいにく暇しているし、電話の相手には覚えがあるものだから二つ返事で返した。

「それは大丈夫ですけど、なんのご用ですか?」

 すると電話の向こうで躊躇いを感じるため息のような雑音が聞こえ、その後すぐにこう返ってきた。

「それは……直接会って伝えたいんだ。涼君の家まで行くから、ちょっと待ってて貰えるかな?」


 _________________________________________


 電話を切って一時間後、電話の相手━━━━やすみ母はやって来た。

 やすみ母に促されるままに車の後部座席に乗り込む。

 もしかしたら、やすみも来ているのかもと期待していたのだけど、俺の予想は外れていた。


「じゃあ、シートベルトを閉めて貰えるかな?」

 俺の体が社内に収まったことを確認すると、やすみ母はルームミラー越しに目配せしながら

 指示された通りにシートベルトを脇に抱える。

「どこに行くんですか?やすみも来るんですよね?」

「えーっとね、どこってあてがある訳じゃ無いのよね。ははは……うーん、そうね……近くのファミレスにしましょうか」

 普段のやすみ母と違い、どこか歯切れが悪い。

「俺はそれで大丈夫ですけど、やすみは?」

「うん。じゃあファミレスにしましょう」

 やすみに関することは答えずに、やすみ母はいつもよりさらに荒く車を発進させた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

神楽囃子の夜

紫音
ライト文芸
地元の夏祭りを訪れていた少年・狭野笙悟(さのしょうご)は、そこで見かけた幽霊の少女に一目惚れしてしまう。彼女が現れるのは年に一度、祭りの夜だけであり、その姿を見ることができるのは狭野ただ一人だけだった。年を重ねるごとに想いを募らせていく狭野は、やがて彼女に秘められた意外な真実にたどり着く……。四人の男女の半生を描く、時を越えた現代ファンタジー。 ※第6回ライト文芸大賞奨励賞受賞作です。

瞬間、青く燃ゆ

葛城騰成
ライト文芸
 ストーカーに刺殺され、最愛の彼女である相場夏南(あいばかなん)を失った春野律(はるのりつ)は、彼女の死を境に、他人の感情が顔の周りに色となって見える病、色視症(しきししょう)を患ってしまう。  時が経ち、夏南の一周忌を二ヶ月後に控えた4月がやって来た。高校三年生に進級した春野の元に、一年生である市川麻友(いちかわまゆ)が訪ねてきた。色視症により、他人の顔が見えないことを悩んでいた春野は、市川の顔が見えることに衝撃を受ける。    どうして? どうして彼女だけ見えるんだ?  狼狽する春野に畳み掛けるように、市川がストーカーの被害に遭っていることを告げる。 春野は、夏南を守れなかったという罪の意識と、市川の顔が見える理由を知りたいという思いから、彼女と関わることを決意する。  やがて、ストーカーの顔色が黒へと至った時、全ての真実が顔を覗かせる。 第5回ライト文芸大賞 青春賞 受賞作

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

処理中です...