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決死の覚悟5
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「襲撃だー!逃げろ逃げろー!!!!」
けたたましい叫び声で目を覚ました。
時間は真夜中のはすだ。普段なら明かりは星あかりしかなく、部屋の中は暗闇に包まれているはずの時間のはずなのに、窓の外から差し込んでくる光で辺りを見渡す事ができた。
「……なんだろう」
恐る恐るベットから起き上がり、窓の外を覗いて見ると、辺りは火の海に包まれていた。
マリエスと出かけた野原も、林も、森も、全て火の海。
あまり驚きに言葉を忘れてしまったように、思考は巡らない。なにも感想が出てこなかった。
とても大変な事が起こっているのに、感情はここにない。物語を外から傍観しているような感覚。
しばらくそんな光景を眺めていると、慌てた様子で父さんが僕の部屋に飛び込んできた。
「ロウエ!今すぐに逃げなさい」
「逃げる……?」
「そうだ。今すぐにだ」
所々に傷を負った痛々しい姿だった。周囲の状況から考えるに何者かに襲われたのだろう。
「サギカ様が子供たちの警護を引き受けてくれたんだ。お前達はサギカ様の指示に従い、一刻も早く村を離れるんだ。いいな?早く行け」
言って父さんは僕の首根っこを掴むと、普段はあまり見せる事の無い、真剣な眼差しでそう言った。
「父さんは?」
「……父さん達は、お前ここを離れるまでの時間を稼ぐ」
「え、それじゃあ……」
二の句は継がせないと父さんは俺の言葉を遮るようにして凄く強い力で頭をワシャワシャと撫でた。
「立派な人間になるんだぞ」
その言葉を聞いた瞬間、瞳から自然と涙が溢れていた。
父さんの親としての愛、覚悟。その両方を理解してしまったからだった。
父さんは死ぬ気だ。自らの命と引き換えに僕を救うつもりなのだ。
「父さん。僕も一緒に……」
何と戦うのか、僕にはわからない。でも、父さんを一人残して行くなんて僕にできるはずがない。
父さんは薄く笑みを浮かべ、僕の口の前に人差し指を立てた。『それ以上言うな』の父さんなりの合図。
「あまり時間がない。シフィエスの家に行きなさい。できるだけ急いで走るんだ」
口はキツく紡いで頷いた。
「ヨシ。いい顔だ」
これが最後の別れと言わんばかりに、父さんはひょいと僕を持ち上げるとキツく抱きしめた。
そして、そのまま窓を開くと、僕を窓から放り投げた。
父さんの背後に、銀色に輝く何かが見えた。
その直後、父さんの体は真っ二つに弾き飛ばされた。
「父さん!!」
無常にも体は自然落下していく。
背中から原っぱに叩きつけられ、一瞬だけ呼吸困難になったけど、なんとかすぐに立ち上がると、振り返らず、脇目も振らずにシフィエスの家に向けて走り出した。
ここで僕までやられたら、父さんの死を無駄にしてしまう。唇を強く噛み締めて、ただまっすぐに走った。
涙で視界は見えないけれど、シフィエスの家までの順路は体が覚えている。
最期、父さんの背後に見えた銀色にはよく見覚えがあった。
獰猛そうな顔つき、赤く光る瞳、丸太のように太い前脚。
間違いなく、銀色の獣だった。
しかも、僕が遭遇した白銀より二回りほど大きな個体。
なにがどうなっているのか、頭の中はぐしゃぐしゃだ。
僕のせいなのか……?
僕が白銀討伐をしようとしたから、白銀の仲間が仕返しにやってきたのか?
頭も顔もぐしゃぐしゃにしながら赤く染まる見慣れない家々の合間を走った。
けたたましい叫び声で目を覚ました。
時間は真夜中のはすだ。普段なら明かりは星あかりしかなく、部屋の中は暗闇に包まれているはずの時間のはずなのに、窓の外から差し込んでくる光で辺りを見渡す事ができた。
「……なんだろう」
恐る恐るベットから起き上がり、窓の外を覗いて見ると、辺りは火の海に包まれていた。
マリエスと出かけた野原も、林も、森も、全て火の海。
あまり驚きに言葉を忘れてしまったように、思考は巡らない。なにも感想が出てこなかった。
とても大変な事が起こっているのに、感情はここにない。物語を外から傍観しているような感覚。
しばらくそんな光景を眺めていると、慌てた様子で父さんが僕の部屋に飛び込んできた。
「ロウエ!今すぐに逃げなさい」
「逃げる……?」
「そうだ。今すぐにだ」
所々に傷を負った痛々しい姿だった。周囲の状況から考えるに何者かに襲われたのだろう。
「サギカ様が子供たちの警護を引き受けてくれたんだ。お前達はサギカ様の指示に従い、一刻も早く村を離れるんだ。いいな?早く行け」
言って父さんは僕の首根っこを掴むと、普段はあまり見せる事の無い、真剣な眼差しでそう言った。
「父さんは?」
「……父さん達は、お前ここを離れるまでの時間を稼ぐ」
「え、それじゃあ……」
二の句は継がせないと父さんは俺の言葉を遮るようにして凄く強い力で頭をワシャワシャと撫でた。
「立派な人間になるんだぞ」
その言葉を聞いた瞬間、瞳から自然と涙が溢れていた。
父さんの親としての愛、覚悟。その両方を理解してしまったからだった。
父さんは死ぬ気だ。自らの命と引き換えに僕を救うつもりなのだ。
「父さん。僕も一緒に……」
何と戦うのか、僕にはわからない。でも、父さんを一人残して行くなんて僕にできるはずがない。
父さんは薄く笑みを浮かべ、僕の口の前に人差し指を立てた。『それ以上言うな』の父さんなりの合図。
「あまり時間がない。シフィエスの家に行きなさい。できるだけ急いで走るんだ」
口はキツく紡いで頷いた。
「ヨシ。いい顔だ」
これが最後の別れと言わんばかりに、父さんはひょいと僕を持ち上げるとキツく抱きしめた。
そして、そのまま窓を開くと、僕を窓から放り投げた。
父さんの背後に、銀色に輝く何かが見えた。
その直後、父さんの体は真っ二つに弾き飛ばされた。
「父さん!!」
無常にも体は自然落下していく。
背中から原っぱに叩きつけられ、一瞬だけ呼吸困難になったけど、なんとかすぐに立ち上がると、振り返らず、脇目も振らずにシフィエスの家に向けて走り出した。
ここで僕までやられたら、父さんの死を無駄にしてしまう。唇を強く噛み締めて、ただまっすぐに走った。
涙で視界は見えないけれど、シフィエスの家までの順路は体が覚えている。
最期、父さんの背後に見えた銀色にはよく見覚えがあった。
獰猛そうな顔つき、赤く光る瞳、丸太のように太い前脚。
間違いなく、銀色の獣だった。
しかも、僕が遭遇した白銀より二回りほど大きな個体。
なにがどうなっているのか、頭の中はぐしゃぐしゃだ。
僕のせいなのか……?
僕が白銀討伐をしようとしたから、白銀の仲間が仕返しにやってきたのか?
頭も顔もぐしゃぐしゃにしながら赤く染まる見慣れない家々の合間を走った。
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