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身勝手な予告状15
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脅迫状事件を解決した翌日の夕方。汐音に呼び出された私は、いつもの海を一望できるおしゃれなカフェを訪れていた。
もちろん日の当たらない一番奥の席。
先に到着していた汐音の横に通され、いつものように座ると、汐音が待ってましたと言わんばかりに口を開いた。
「愛ちゃん。今回は大活躍だったね。今日は私の奢りだからなんでも好きなケーキを頼んでいいからね」
やけに大仰な、演技がかった物言いがかなり引っかかるけど私は汐音の言う通りに紅茶と名物のモンブランを注文した。
商品が到着するまで、汐音の演技がかった態度は続き、那奈が紅茶とモンブランを持ってくると、早く私に食べるように催促をした。
「怪しい」
「えー、何もあやしくないよう」
そう言った汐音の目はわかりやすいくらい泳いでいる。
このモンブランを口にしてしまったら、何か良くない事が起こる様な気がするけれど、食べ物に罪はない。
頼んでしまった以上、口にしないという選択肢は私にはなかった。
「はあ」
一つため息をついてから二股のフォークに手を付けると、息を飲むようにフォークの行き先を見つめる汐音。
面白いからわざと空振りをしてみせると、お笑い芸人がつまらないギャグでコケたように、テーブルから滑り落ちた。
汐音が見ていない間にモンブランをフォークで一口サイズに切り分けると、それを口に運んだ。
ほんのりと鼻腔に広がる栗の香り、最初に甘い香りがやってきて、咀嚼すると香ばしい風味が広がる。
うん。やっぱり、ここのモンブランは最高に美味しい。
ずっこけた汐音は「いたた」と肩を庇いながら立ち上がると、ジト目でこちらを見た。
そして、私がモンブランを口に含んでいる事を確認すると、直前まで痛がっていたのが嘘みたいに目を見開いた。
「愛ちゃん。食べちゃったね。……モンブラン!」
「なんで、倒置法なのよ」
「残念、体言止めだよ。っめそんな事はどうでも良いの!モンブラン食べちゃったよね!?」
ああ。たしかに助詞で終わっていないから体言止めだったわね。なんて小説家失格な事を思い浮かべながら答えた。
「食べたわよ。失礼でしょ。食べないと。モンブランさんに」
「そのモンブランは今回の報酬だったの。その意味がわかる?」
「だったら何も問題ないでしょう。私はちゃんと依頼を果たした。その報酬を正しく受け取ったに過ぎないわ」
言っていて労力の割に安すぎる報酬だな、と思いつつ紅茶に手を付けた。
でも、これで、歴史ある腰高祭を守れたと考えるのならば安くはない報酬かもしれないわね。
はあ。紅茶も美味しい。チョコレートみたいな香りがするのよね。
「引っかかったね。愛ちゃん。私はあくまでもケーキを御馳走すると言った。でも、紅茶まで御馳走するとは言ってない。あの、すみません」
瞳をキラキラと輝かせて、汐音は那奈を呼びつける。
「このくらい自分で払うわよ」
「はい。なんでしょうか?」
いそいそとやってきた那奈に汐音は五千円札と伝票を一緒に渡した。
「先にお会計だけ」
「はい。かしこまりました」
那奈は笑顔で伝票と五千円を受け取ると、レジの方へ向かっていった。
汐音は勝ち誇ったように笑みを浮かべて、口角をわずかに上げながらのたまった。
「ふふん。もうこれで払えなくなっちゃったねえ?あっ、お金なら受け取らないからね」
『別に紅茶分の料金は払うわよ』私の返答に先回りまでして。
「……何がしたいの?」
「ちょっと愛ちゃんに貸しを作っておきたくて」
「なんの為に?」
「実はこの度……」
汐音はもったいぶるように言葉を止める。
そして、ドロロロロロと、口でドラムロールまで始める始末だ。
少し呆れながらカップをテーブルに置くと、そこで汐音が口を開いた。
「『すぎうら』で『探偵部門』を設立することになりました!パチパチパチパチ」
探偵部門?『すぎうら』の従業員は杉浦君と汐音の二人だけ。いつも手一杯だって言っているのに誰がそんな事をやるのよ……って
「まさか、それを私にやれって言うわけじゃないでしょうね?」
それは無理な相談だ。大学だってあるし、小説家としても活動している私にそんな時間はない。
「ううん。違うよ。新しく従業員が一人入ったんだ。その人がね『探偵とかカッコいいからやろうよ!』って言うからやる事にしたの」
「新人なのに随分と軽い従業員ね。それを採用する『すぎうら』もかなり緩い。まあ、どうせ杉浦君は反対して、汐音が面白そうだからやろうよって押し切ったんでしょう。多分」
「愛ちゃん。全部だだ漏れだからね」
「あっ、失礼しました」
また独り言を言ってしまった。今のはわざとやったのだけれど。テヘペロ。
「むー。まあいいわ。それでね、お願いなんだけどたまに、本当にたまにで良いから、お手伝いしてもらうことって出来ないかな?新人さんきってのお願いなんだけど」
「新人さんが私に?」
新人なんて言っておきながら、私の知り合い?それともファン?里奈、那奈って線も考えられるわね。
「うん。もうちょっとで来ると思うんだけど、あっ、来た!」
入口の方へ視線を向ける汐音。つられてそちらを見ると、かなりガタイの良い青年が店内へ入ってきた所だった。
那奈がその青年に駆け寄り、「いらっしゃいませ」と声を掛けた後、続けて「お久しぶりですね」と挨拶をした。
その顔は、私もよく見知った顔だった。
驚きで声が出なくて、パクパクと唇を動かしてしまう。
青年がこちらへ歩いてくると、汐音の横に立ち止まり、私に向かって右手を差し出してきた。
「ただいま。愛華。俺の相棒になってくれないか?」
そこに立っていたのは、半年以上音信不通になっていた、立花閃だった。
もちろん日の当たらない一番奥の席。
先に到着していた汐音の横に通され、いつものように座ると、汐音が待ってましたと言わんばかりに口を開いた。
「愛ちゃん。今回は大活躍だったね。今日は私の奢りだからなんでも好きなケーキを頼んでいいからね」
やけに大仰な、演技がかった物言いがかなり引っかかるけど私は汐音の言う通りに紅茶と名物のモンブランを注文した。
商品が到着するまで、汐音の演技がかった態度は続き、那奈が紅茶とモンブランを持ってくると、早く私に食べるように催促をした。
「怪しい」
「えー、何もあやしくないよう」
そう言った汐音の目はわかりやすいくらい泳いでいる。
このモンブランを口にしてしまったら、何か良くない事が起こる様な気がするけれど、食べ物に罪はない。
頼んでしまった以上、口にしないという選択肢は私にはなかった。
「はあ」
一つため息をついてから二股のフォークに手を付けると、息を飲むようにフォークの行き先を見つめる汐音。
面白いからわざと空振りをしてみせると、お笑い芸人がつまらないギャグでコケたように、テーブルから滑り落ちた。
汐音が見ていない間にモンブランをフォークで一口サイズに切り分けると、それを口に運んだ。
ほんのりと鼻腔に広がる栗の香り、最初に甘い香りがやってきて、咀嚼すると香ばしい風味が広がる。
うん。やっぱり、ここのモンブランは最高に美味しい。
ずっこけた汐音は「いたた」と肩を庇いながら立ち上がると、ジト目でこちらを見た。
そして、私がモンブランを口に含んでいる事を確認すると、直前まで痛がっていたのが嘘みたいに目を見開いた。
「愛ちゃん。食べちゃったね。……モンブラン!」
「なんで、倒置法なのよ」
「残念、体言止めだよ。っめそんな事はどうでも良いの!モンブラン食べちゃったよね!?」
ああ。たしかに助詞で終わっていないから体言止めだったわね。なんて小説家失格な事を思い浮かべながら答えた。
「食べたわよ。失礼でしょ。食べないと。モンブランさんに」
「そのモンブランは今回の報酬だったの。その意味がわかる?」
「だったら何も問題ないでしょう。私はちゃんと依頼を果たした。その報酬を正しく受け取ったに過ぎないわ」
言っていて労力の割に安すぎる報酬だな、と思いつつ紅茶に手を付けた。
でも、これで、歴史ある腰高祭を守れたと考えるのならば安くはない報酬かもしれないわね。
はあ。紅茶も美味しい。チョコレートみたいな香りがするのよね。
「引っかかったね。愛ちゃん。私はあくまでもケーキを御馳走すると言った。でも、紅茶まで御馳走するとは言ってない。あの、すみません」
瞳をキラキラと輝かせて、汐音は那奈を呼びつける。
「このくらい自分で払うわよ」
「はい。なんでしょうか?」
いそいそとやってきた那奈に汐音は五千円札と伝票を一緒に渡した。
「先にお会計だけ」
「はい。かしこまりました」
那奈は笑顔で伝票と五千円を受け取ると、レジの方へ向かっていった。
汐音は勝ち誇ったように笑みを浮かべて、口角をわずかに上げながらのたまった。
「ふふん。もうこれで払えなくなっちゃったねえ?あっ、お金なら受け取らないからね」
『別に紅茶分の料金は払うわよ』私の返答に先回りまでして。
「……何がしたいの?」
「ちょっと愛ちゃんに貸しを作っておきたくて」
「なんの為に?」
「実はこの度……」
汐音はもったいぶるように言葉を止める。
そして、ドロロロロロと、口でドラムロールまで始める始末だ。
少し呆れながらカップをテーブルに置くと、そこで汐音が口を開いた。
「『すぎうら』で『探偵部門』を設立することになりました!パチパチパチパチ」
探偵部門?『すぎうら』の従業員は杉浦君と汐音の二人だけ。いつも手一杯だって言っているのに誰がそんな事をやるのよ……って
「まさか、それを私にやれって言うわけじゃないでしょうね?」
それは無理な相談だ。大学だってあるし、小説家としても活動している私にそんな時間はない。
「ううん。違うよ。新しく従業員が一人入ったんだ。その人がね『探偵とかカッコいいからやろうよ!』って言うからやる事にしたの」
「新人なのに随分と軽い従業員ね。それを採用する『すぎうら』もかなり緩い。まあ、どうせ杉浦君は反対して、汐音が面白そうだからやろうよって押し切ったんでしょう。多分」
「愛ちゃん。全部だだ漏れだからね」
「あっ、失礼しました」
また独り言を言ってしまった。今のはわざとやったのだけれど。テヘペロ。
「むー。まあいいわ。それでね、お願いなんだけどたまに、本当にたまにで良いから、お手伝いしてもらうことって出来ないかな?新人さんきってのお願いなんだけど」
「新人さんが私に?」
新人なんて言っておきながら、私の知り合い?それともファン?里奈、那奈って線も考えられるわね。
「うん。もうちょっとで来ると思うんだけど、あっ、来た!」
入口の方へ視線を向ける汐音。つられてそちらを見ると、かなりガタイの良い青年が店内へ入ってきた所だった。
那奈がその青年に駆け寄り、「いらっしゃいませ」と声を掛けた後、続けて「お久しぶりですね」と挨拶をした。
その顔は、私もよく見知った顔だった。
驚きで声が出なくて、パクパクと唇を動かしてしまう。
青年がこちらへ歩いてくると、汐音の横に立ち止まり、私に向かって右手を差し出してきた。
「ただいま。愛華。俺の相棒になってくれないか?」
そこに立っていたのは、半年以上音信不通になっていた、立花閃だった。
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