上 下
41 / 52
第五章

魔獣の咆哮 ― 3

しおりを挟む


 ゴブリンと盗賊の討伐。同時に2カ所の討伐だ。
 僕らと現役傭兵のギルド員も入れて30名弱を2チームに分けて、チーム内から1人をリーダーに選出。偵察を先行させ、後はリーダーを先頭に討伐開始だ。

 現場近くのジャグの森入口で馬車を降りると、すでにアッシャと数人のギルド員や傭兵が地図を開いて打ち合わせをしていた。チーム分けやリーダー決め、2カ所の攻略法は、このギルド長が主体となって決定し采配を振るう。なんせ、急遽集められた傭兵の職種や得意手を把握しているのはギルド関係者だし、傭兵なんて荒っぽい連中を纏めるには、中立の立場の人間じゃないと不満が出る。そんな煩雑な計画は、すでに昨夜の内に決められていた様で、さっそくアッシャがリーダーとその下に付く傭兵を呼び出していた。

 僕とジンさんは、ゴブリン討伐へ。盗賊相手に魔法使いがもう1人は欲しかったらしいが、ゴブリンの多さと棲み処内が状況不明なことで、僕らはゴブリンチームに回されることになった。
 チーム―リーダーは、銀の1重戦士のユイリー。彼のパーティーメンバー4人も一緒で、『暁の翼』の名を冠して戦士・斥候・魔法剣士・魔法使いのバランスの取れたパーティーだ。他に4人パーティー『翠水の風』と3人パーティー『幻聖』、ソロが2人の計16人がゴブリン討伐だった。

 ライリーの元に集まり、互いに挨拶を交わしながら『メンバーの人格』を観察する。これは、新たにパーティーを組む場合の儀式だ。実力があっても受け入れがたい人格のメンバーじゃ、後に自らの命の危険に繋がる。積極的に絡みはしないが、割とあからさまに確認をしてくるのは暗黙の了解の上だ。

「あんまりここいらじゃ見ない顔だが…」
「ええ、僕らはセルシドのティバーンを本拠地にしてたから、こちらは初めてで」

 あえて僕が、にこやかに笑んで応える。話しかけてきた『暁の翼』の斥候・狼獣人のジョルも、ジンさんより僕を選んだのは賢明だ。
 人族より少し大きな口が、ニィっと笑う。

「ティバーンか!じゃあ、『聖戦闘狂ホーリーバーサーカー』にこき使われていたのか!」
「ホーリーバー…あはははっ」
「ぶふっ!すげぇ似合ってる!」

 初めて聞くジャルダンの二つ名に、ジンさんを含めた数人が思わず吹き出してしまったようだ。
銀ランクくらいになると、ティバーンには何度か足を向けたことがあるのだろう。それでなくても、元聖戦士の経歴で有名なジャルダンだ。

「こっちじゃ、そう呼ばれてんのか。地元じゃ『暴風のギガント』だったが」

 ギガントとは、竜系統に属している魔獣で翼が小さく退化し、その分肉体が肥大化したせいで地上の最強種に位置付けられている。小さいが翼で魔力風を起こしてかく乱し、巨大で強靭な肉体で襲って来る。畏れ敬われているジャルダンの功名に、しかし言いえて妙だと笑う。
 笑いで和やかな雰囲気になった所で、ライリーがアッシャ達と立てた攻略の概要の説明を始めた。

「斥候二人は先行して棲み処を中心に左右に待機。魔法使い一人を囲んで戦士と魔法剣士の三人で下位集団をなるたけ多くトレインし、棲み処から引き離す。それらの対処は魔法使いと戦士を二人足して殲滅。その間に左右斥候に残りの者達が分かれて合流し、集落を急襲だ。俺はそちらに入る」
「下位をトレインする距離は?」
「ここまで釣って、ここで殲滅だ。できるだけ早急に対処して、こちらに合流してくれ」

 ライリーがゴブリンの集落を中心に書かれた地図で、指を指して指示する。ゴブリンの集落正面をまっすぐ進むと小川があり、そこを丸く囲む。

「トレイン役の魔法使いに立候補だ。風属性で最初の釣りをする」
「では、俺とこいつが一緒に出る」

 ソロの魔法使いが最初に手を上げて、その後を『暁の風』の戦士と魔法剣士が続いた。次にジンさんが手を上げ、殲滅ポイントを指さしながら発言。

「じゃ、俺は殲滅地点で拘束の罠を張る。重力系方陣を待機させておくから、そこまで来たら即離れてくれ。展開と同時に相方が殲滅を開始する」
「俺もそちらに入ろう」
「それじゃ、僕らは棲み処組へ」

 ライリーの「よし!」の声に、皆が一斉に林の奥へと歩き出す。途中で、昨日ジンさんと討伐した現場を通ったが、先行していた盗賊討伐チームが辺りを確認していた。それを横目に通り過ぎ、先行索敵していたジョルが戻って来て、手で合図を送って来た。
 下草の生い茂る木々の間を、足を忍ばせてポイントへ向かった。

 ゴブリンの集落は、昨日の現場から半刻ほど歩いた丘の下にあった。アッシャの報告にあった形だけ残った番小屋の残骸を拠点にしており、魔物除けの為に少しだけ切り開いた小さな広場に下位のゴブリンたちが集まって草木の山で巣作りをしていた。
 ライリーが指を折って、配置へ移動の合図を送って来る。僕らは一斉に、風下を辿りながら持ち場へと散った。皆、銀の傭兵だけに、魔法使いでも隠密行動は身についている。
 僕とジンさんは小川の側にまで下がり、囮役の3人に声を潜めて位置を確認した。幸い、大勢のゴブリンが行き来していた為に小川まで広い通路ができていて、軽い攻撃をしながらトレインして後退するのも楽そうだった。ライリーが少し離れた場所を陣取り、囮役に開始合図を送った。
 戦闘開始だ。

 囮の3人が腰を落として正面へと走り去った。少しの後、風の切る音と矢の飛ぶ音が響き、ゴブリンたちの耳障りな喚き声が大きくなりだした。

「【重力拘束 待機】【障壁付与】」
「【攻撃力増強・魔力回復】」
「【我が命じる!癒しの光よ、戦士と共にあらん―――】」 

 ジンさんの拘束術指定の声に、残った魔法使いたちがメンバーに付与する呟きが聞こえた。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!

をち。
BL
公爵家の3男として生まれた俺は、家族からうとまれていた。 母が俺を産んだせいで命を落としたからだそうだ。 俺は生まれつき魔力が多い。 魔力が多い子供を産むのは命がけだという。 父も兄弟も、お腹の子を諦めるよう母を説得したらしい。 それでも母は俺を庇った。 そして…母の命と引き換えに俺が生まれた、というわけである。 こうして生を受けた俺を待っていたのは、家族からの精神的な虐待だった。 父親からは居ないものとして扱われ、兄たちには敵意を向けられ…。 最低限の食事や世話のみで、物置のような部屋に放置されていたのである。 後に、ある人物の悪意の介在せいだったと分かったのだが。その時の俺には分からなかった。 1人ぼっちの部屋には、時折兄弟が来た。 「お母様を返してよ」 言葉の中身はよくわからなかったが、自分に向けられる敵意と憎しみは感じた。 ただ悲しかった。辛かった。 だれでもいいから、 暖かな目で、優しい声で俺に話しかけて欲しい。 ただそれだけを願って毎日を過ごした。 物ごごろがつき1人で歩けるようになると、俺はひとりで部屋から出て 屋敷の中をうろついた。 だれか俺に優しくしてくれる人がいるかもしれないと思ったのだ。 召使やらに話しかけてみたが、みな俺をいないものとして扱った。 それでも、みんなの会話を聞いたりやりとりを見たりして、俺は言葉を覚えた。 そして遂に自分のおかれた厳しい状況を…理解してしまったのである。 母の元侍女だという女の人が、教えてくれたのだ。 俺は「いらない子」なのだと。 (ぼくはかあさまをころしてうまれたんだ。 だから、みんなぼくのことがきらいなんだ。 だから、みんなぼくのことをにくんでいるんだ。 ぼくは「いらないこ」だった。 ぼくがあいされることはないんだ。) わずかに縋っていた希望が打ち砕かれ、絶望しサフィ心は砕けはじめた。 そしてそんなサフィを救うため、前世の俺「須藤卓也」の記憶が蘇ったのである。 「いやいや、俺が悪いんじゃなくね?」 公爵や兄たちが後悔した時にはもう遅い。 俺は今の家族を捨て、新たな家族と仲間を選んだのだ。 ★注意★ ご都合主義です。基本的にチート溺愛です。ざまぁは軽め。みんな主人公は激甘です。みんな幸せになります。 ひたすら主人公かわいいです。 苦手な方はそっ閉じを! 憎まれ3男の無双! 初投稿です。細かな矛盾などはお許しを… 感想など、コメント頂ければ作者モチベが上がりますw

大好きな乙女ゲームの世界に転生したぞ!……ってあれ?俺、モブキャラなのに随分シナリオに絡んでませんか!?

あるのーる
BL
普通のサラリーマンである俺、宮内嘉音はある日事件に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 しかし次に目を開けた時、広がっていたのは中世ファンタジー風の風景だった。前世とは似ても似つかない風貌の10歳の侯爵令息、カノン・アルベントとして生活していく中、俺はあることに気が付いてしまう。どうやら俺は「きっと未来は素晴らしく煌めく」、通称「きみすき」という好きだった乙女ゲームの世界に転生しているようだった。 ……となれば、俺のやりたいことはただ一つ。シナリオの途中で死んでしまう運命である俺の推しキャラ(モブ)をなんとしてでも生存させたい。 学園に入学するため勉強をしたり、熱心に魔法の訓練をしたり。我が家に降りかかる災いを避けたり辺境伯令息と婚約したり、と慌ただしく日々を過ごした俺は、15になりようやくゲームの舞台である王立学園に入学することができた。 ……って、俺の推しモブがいないんだが? それに、なんでか主人公と一緒にイベントに巻き込まれてるんだが!? 由緒正しきモブである俺の運命、どうなっちゃうんだ!? ・・・・・ 乙女ゲームに転生した男が攻略対象及びその周辺とわちゃわちゃしながら学園生活を送る話です。主人公が攻めで、学園卒業まではキスまでです。 始めに死ネタ、ちょくちょく虐待などの描写は入るものの相手が出てきた後は基本ゆるい愛され系みたいな感じになるはずです。

兄が媚薬を飲まされた弟に狙われる話

ْ
BL
弟×兄

同室の奴が俺好みだったので喰おうと思ったら逆に俺が喰われた…泣

彩ノ華
BL
高校から寮生活をすることになった主人公(チャラ男)が同室の子(めちゃ美人)を喰べようとしたら逆に喰われた話。 主人公は見た目チャラ男で中身陰キャ童貞。 とにかくはやく童貞卒業したい ゲイではないけどこいつなら余裕で抱ける♡…ってなって手を出そうとします。 美人攻め×偽チャラ男受け *←エロいのにはこれをつけます

主人公に「消えろ」と言われたので

えの
BL
10歳になったある日、前世の記憶というものを思い出した。そして俺が悪役令息である事もだ。この世界は前世でいう小説の中。断罪されるなんてゴメンだ。「消えろ」というなら望み通り消えてやる。そして出会った獣人は…。※地雷あります気をつけて!!タグには入れておりません!何でも大丈夫!!バッチコーイ!!の方のみ閲覧お願いします。 他のサイトで掲載していました。

俺は成人してるんだが!?~長命種たちが赤子扱いしてくるが本当に勘弁してほしい~

アイミノ
BL
ブラック企業に務める社畜である鹿野は、ある日突然異世界転移してしまう。転移した先は森のなか、食べる物もなく空腹で途方に暮れているところをエルフの青年に助けられる。 これは長命種ばかりの異世界で、主人公が行く先々「まだ赤子じゃないか!」と言われるのがお決まりになる、少し変わった異世界物語です。 ※BLですがR指定のエッチなシーンはありません、ただ主人公が過剰なくらい可愛がられ、尚且つ主人公や他の登場人物にもカップリングが含まれるため、念の為R15としました。 初投稿ですので至らぬ点が多かったら申し訳ないです。 投稿頻度は亀並です。

買われた悪役令息は攻略対象に異常なくらい愛でられてます

瑳来
BL
元は純日本人の俺は不慮な事故にあい死んでしまった。そんな俺の第2の人生は死ぬ前に姉がやっていた乙女ゲームの悪役令息だった。悪役令息の役割を全うしていた俺はついに天罰がくらい捕らえられて人身売買のオークションに出品されていた。 そこで俺を落札したのは俺を破滅へと追い込んだ王家の第1王子でありゲームの攻略対象だった。 そんな落ちぶれた俺と俺を買った何考えてるかわかんない王子との生活がはじまった。

異世界に転生してもゲイだった俺、この世界でも隠しつつ推しを眺めながら生きていきます~推しが婚約したら、出家(自由に生きる)します~

kurimomo
BL
俺がゲイだと自覚したのは、高校生の時だった。中学生までは女性と付き合っていたのだが、高校生になると、「なんか違うな」と感じ始めた。ネットで調べた結果、自分がいわゆるゲイなのではないかとの結論に至った。同級生や友人のことを好きになるも、それを伝える勇気が出なかった。 そうこうしているうちに、俺にはカミングアウトをする勇気がなく、こうして三十歳までゲイであることを隠しながら独身のままである。周りからはなぜ結婚しないのかと聞かれるが、その追及を気持ちを押し殺しながら躱していく日々。俺は幸せになれるのだろうか………。 そんな日々の中、襲われている女性を助けようとして、腹部を刺されてしまった。そして、同性婚が認められる、そんな幸せな世界への転生を祈り静かに息を引き取った。 気が付くと、病弱だが高スペックな身体、アース・ジーマルの体に転生した。病弱が理由で思うような生活は送れなかった。しかし、それには理由があって………。 それから、偶然一人の少年の出会った。一目見た瞬間から恋に落ちてしまった。その少年は、この国王子でそして、俺は側近になることができて………。 魔法と剣、そして貴族院など王道ファンタジーの中にBL要素を詰め込んだ作品となっております。R指定は本当の最後に書く予定なので、純粋にファンタジーの世界のBL恋愛(両片思い)を楽しみたい方向けの作品となっております。この様な作品でよければ、少しだけでも目を通していただければ幸いです。 GW明けからは、週末に投稿予定です。よろしくお願いいたします。

処理中です...