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しおりを挟む「この大馬鹿者が!」
屋敷に戻って、ルイーズの部屋に入るなり、父は激昂した。
突然、怒りをぶち撒けられ、ルイーズは開いた口が塞がらなかった。
「と、父さま…?」
「殿下の求婚を突っぱねるとは!何を考えておるのだお前は!」
「………え?」
でも、父も反対していた筈じゃ…。
「せっかく殿下の目に留まるように、シャルロット嬢に張り付けと言ったのに」
「それって…シャルロットさんと殿下が上手くいくようにってことなんじゃ…」
「そんなわけ無いだろう!何を勘違いしている!散々言ってきただろう。今回は侯爵家から婚約者を出すから、シャルロット嬢と一騎打ちになる。心して行けと」
「ええ!?そういう意味だったの?」
シャルロットを助ける為でなく、シャルロットと張り合う為だった?
だから父は彼女の話ばかりしていたのだ。
父の怒りは収まらない。
「お前は我が一族で唯一の女だ。ショーデ侯爵家から将来の王妃が輩出されるのは、我が家の悲願だ。それをお前は…!」
「ま、待って待って!父さま私に王妃になって欲しかったの?」
「お前の幸せのためだ」
「本気で言ってるの?」
「当たり前だろう」
父の肯定に、今度はルイーズが怒る番だった。
「私に王族に、しかも王太子に嫁げだなんて…信じられない」
「これ以上の縁談はないだろう。エリザベスもきっと喜んでいる」
「母さまが喜ぶはずないわ!知っていたら絶対に止めてくれた。母さまが陛下にされた仕打ちを思えば、私を嫁がせたいなんて絶対に思わなかったわ!」
「お前…誰から聞いた」
父は目の色を変え、驚きと怒りが混じった複雑な顔をする。その反応を見て、やはりあの話は事実だったのだと知った。
「誰だっていいでしょ。母さまは陛下の愛人だった。寵愛を失った母さまは捨てられて、この侯爵家に売られた」
物静かな母だった。いつも部屋にいで、ルイーズが連れ出さなければ、庭にも行かない人だった。娘から見ても。母は美しい人だった。なのにいつも悲しそうな顔をしていた。
「それだけじゃない。今の王妃さまは側妃と険悪で、側妃が産んだ第二王子に事あるごとに毒を盛っているとか。そんなところに嫁がせようなんて、父さまは私のこと、道具としか思ってないのね」
「誰に吹聴されたが知らんが、毒殺の事実はない」
「否定するのはそれだけ?」
「母親の件は、私が陛下に願い出たのだ。エリザベスも承知していた」
「嘘ばっかり!だったら母さまはもっと幸せそうにしていたわ!」
「黙らんか!」
ダンッ!と父はテーブルを叩く。ルイーズは体をビクつかせた。
「お前の目にどう映ったかは知らんが」父はゆっくり体を起こす。「エリザベスは間違いなく幸せだった」
母を幸せでないと言い切るなら、父も、自分たち子供も、まるで不幸せの日々を送ってきたことになる。決してそれだけでは無かった。ルイーズは小さな声で謝った。
「でも私…結婚したくありません…」
「もう遅い。婚約者はお前だ」
「そんな…父さま」
「幸い殿下は、お前の数々の無礼を不問にしてくださるそうだ。正式な婚約の日まで、この部屋に留め置く」
「嫌です…お願い父さま」
「泣き言を言う暇があったら、これまでの非礼を詫びる手紙を書いておけ。いいな」
無情にも父は部屋を出ていく。一人残された部屋で、ルイーズは立ち尽くした。
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