24 / 27
24
しおりを挟む何だか最近、レイフはローレンスにべったりだ。
ローレンスがレイフにべったりではなく、レイフがローレンスにべったりなのである。そこに立ち入るのがなぜだか憚られて、マリアは一人で過ごすことが多くなった。
それと、全く身体を重ねなくなって、もうかれこれ二ヶ月になる。夜は共に過ごしたが、二言三言話すくらいで、それだけだった。
こんなに会話をしないのは、久しぶりだった。身体を重ねないのも。マリアは素直に寂しいと思った。
夜遅く、レイフは寝台に上がってきた。既に眠っていたマリアはレイフの方に体を向けた。
「レイフ様…」
「すまない。起こしたか」
「いえ、まだ起きておりました」
レイフは身を乗り出して目にキスをした。
「待ってなくていい。寝よう」
「…レイフ様…」
横になるレイフは、手を伸ばしてマリアの前にかかった髪を払う。優しく微笑まれ、マリアは見慣れているはずなのに久しぶりで、胸が高鳴った。
「最近、よくローレンスと一緒にいますね」
「ああ、最近構ってやれなかったから。ついな」
「かわいい盛りですから。夢中になるのもわかります」
レイフはますます笑みを深くする。疲れているのか、目が虚ろで今にも眠ってしまいそうだ。マリアは気遣って、これ以上話すのを止めた。するとレイフは目を閉じて、寝息を立て始めた。寝入りが早いのはローレンスと一緒。今日も話が出来なかった。マリアは寂しい気持ちで一杯だった。
「何だか、浮かない顔してますね」
ドレッサーの前で、マリアの髪を梳いていたモニカが言う。マリアは口元だけで笑ってみせた。
「すこしね…」
「体調でも悪いんですか?」
「ううん。そうじゃないの」
モニカは瓶を開けて香油を手のひらに垂らした。温めて、マリアの髪に馴染ませる。バラの良い香りが漂った。
「モニカももうお年頃でしょ?いつまでも私の世話をしてくれて申し訳ないわ」
話題を逸らそうと、マリアは別の話をした。
「結婚ですか?」
「良い人がいたら言ってね。盛大に送り出しますから」
「そんなに私を追い出したいんですか?」
「モニカには助けてもらってるから、お礼がしたいんです」
香油を塗り終えて、髪をまとめ上げる。宝石が嵌め込まれた髪留めで留めれば完成。なのだが、いつの間にか伸び過ぎていたらしい。なかなか髪がまとまらない。
「すみません。もう一つ髪留め足しますね」
「待って。良い機会だから、少し切りましょう」
「駄目ですよ。折角の美しい髪が」
「長すぎると頭が重くなりますから、悪いけれど、散髪が得意な人を呼んできてくれる?」
時間はたっぷりある。支度を急ぐことはない。髪を切れば少しは気が晴れるかもしれない。マリアは伸び切った髪を一房摘んでくるくる指に巻き付けた。
髪を切ってもらって、さっぱりした。モニカに結い上げてもらうと、軽くなったと実感した。今日もレイフはローレンスと一緒にいるのだろう。執務室にも連れて行って政務もしている。ローレンスが邪魔しないだろうかと不安だったが、今のところ何の問題も起きていないようだ。
髪を切ったからと、モニカのやる気に火がついて、手足の手入れもすると言い出した。爪をヤスリで研ぎ整える。ローズウォーターをたっぷり入れた盆に手足を浸す。それからオイルでマッサージまで。マリアは何だか申し訳なくなってきた。
「モニカ、こんなにしなくていいわ」
「奥さま。いくらお綺麗だからといって日々のケアは怠ってはいけませんよ」
「化粧水で十分ですよ」
「いいえ。保湿は大事です!」
モニカは力強く拳を握った。何だか怖くて、マリアは身を引いた。
「私知ってます」
「な、なにを?」
「最近、奥さまと旦那さまがまぐわってないことを」
「な…!あ、あなた!年頃の娘なんですから、もっと慎みを持って…!」
あまりにあけすけに言うので、マリアは慌てた。モニカは全く動じない。それどころか呆れたようにため息すらつかれた。
「奥さま…私、奥さまと一つしか年が違いませんからね。それに、これくらい使用人ならへっちゃらで言いますよ。私は奥さまの使用人なんですから、夜の生活を気にかけるのも当たり前です。バーサともよく話します」
モニカはマッサージを終えると、失礼、と言って裾をたくし上げた。足が露わになってマリアはますます慌てる。
「も、モニカ…!」
「足にも香油を塗っておきます。あとは鎖骨も。旦那さまはそこがお気に入りのようですから。あ、逃げないで!奥さま!恥ずかしがってる場合ですか!奥さまがお元気ないのはこのことなんでしょう?私だって気にしてたんです。旦那さまは奥さまにご執心なのに。お身体が悪いわけでもないのに。不思議です。とにかく誘惑なさってください。あとは少し肩を見せるようにして、結った髪は旦那さまが来られてから下ろしてくださいね。あと──」
モニカは堰を切ったようにつらつらと喋りだした。いろいろ我慢していたのが止められなくなったようだ。モニカがそうなのだから、他の使用人もとっくに気づいているに違いない。マリアは恥ずかしくて顔から火が出る思いだった。
46
お気に入りに追加
2,313
あなたにおすすめの小説
【R18】ヤンデレ侯爵は婚約者を愛し過ぎている
京佳
恋愛
非の打ち所がない完璧な婚約者クリスに劣等感を抱くラミカ。クリスに淡い恋心を抱いてはいるものの素直になれないラミカはクリスを避けていた。しかし当のクリスはラミカを異常な程に愛していて絶対に手放すつもりは無い。「僕がどれだけラミカを愛しているのか君の身体に教えてあげるね?」
完璧ヤンデレ美形侯爵
捕食される無自覚美少女
ゆるゆる設定
政略結婚した夫の恋を応援するはずが、なぜか毎日仲良く暮らしています。
野地マルテ
恋愛
借金だらけの実家を救うべく、令嬢マフローネは、意中の恋人がすでにいるという若き伯爵エルンスト・チェコヴァの元に嫁ぐことに。チェコヴァ家がマフローネの家を救う条件として出したもの、それは『当主と恋人の仲を応援する』という、花嫁側にとっては何とも屈辱的なものだったが、マフローネは『借金の肩代わりをしてもらうんだから! 旦那様の恋のひとつやふたつ応援するわよ!』と当初はかなり前向きであった。しかし愛人がいるはずのエルンストは、毎日欠かさず屋敷に帰ってくる。マフローネは首を傾げる。いつまで待っても『お飾りの妻』という、屈辱的な毎日がやって来ないからだ。マフローネが愛にみち満ちた生活にどっぷり浸かりはじめた頃、彼女の目の前に現れたのは妖艶な赤髪の美女だった。
◆成人向けの小説です。性描写回には※あり。ご自衛ください。
腹黒王子は、食べ頃を待っている
月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
騎士団長の欲望に今日も犯される
シェルビビ
恋愛
ロレッタは小さい時から前世の記憶がある。元々伯爵令嬢だったが両親が投資話で大失敗し、没落してしまったため今は平民。前世の知識を使ってお金持ちになった結果、一家離散してしまったため前世の知識を使うことをしないと決意した。
就職先は騎士団内の治癒師でいい環境だったが、ルキウスが男に襲われそうになっている時に助けた結果纏わりつかれてうんざりする日々。
ある日、お地蔵様にお願いをした結果ルキウスが全裸に見えてしまった。
しかし、二日目にルキウスが分身して周囲から見えない分身にエッチな事をされる日々が始まった。
無視すればいつかは収まると思っていたが、分身は見えていないと分かると行動が大胆になっていく。
文章を付け足しています。すいません
私を捕まえにきたヤンデレ公爵様の執着と溺愛がヤバい
Adria
恋愛
かつて心から愛しあったはずの夫は私を裏切り、ほかの女との間に子供を作った。
そのことに怒り離縁を突きつけた私を彼は監禁し、それどころか私の生まれた国を奪う算段を始める。それなのに私は閉じ込められた牢の中で、何もできずに嘆くことしかできない。
もうダメだと――全てに絶望した時、幼なじみの公爵が牢へと飛び込んできた。
助けにきてくれたと喜んだのに、次は幼なじみの公爵に監禁されるって、どういうこと!?
※ヒーローの行き過ぎた行為が目立ちます。苦手な方はタグをご確認ください。
表紙絵/異色様(@aizawa0421)
【完結】鳥籠の妻と変態鬼畜紳士な夫
Ringo
恋愛
夫が好きで好きで好きすぎる妻。
生まれた時から傍にいた夫が妻の生きる世界の全てで、夫なしの人生など考えただけで絶望レベル。
行動の全てを報告させ把握していないと不安になり、少しでも女の気配を感じれば嫉妬に狂う。
そしてそんな妻を愛してやまない夫。
束縛されること、嫉妬されることにこれ以上にない愛情を感じる変態。
自身も嫉妬深く、妻を家に閉じ込め家族以外との接触や交流を遮断。
時に激しい妄想に駆られて俺様キャラが降臨し、妻を言葉と行為で追い込む鬼畜でもある。
そんなメンヘラ妻と変態鬼畜紳士夫が織り成す日常をご覧あれ。
୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧
※現代もの
※R18内容濃いめ(作者調べ)
※ガッツリ行為エピソード多め
※上記が苦手な方はご遠慮ください
完結まで執筆済み
【R18】婚約破棄されたおかげで、幸せな結婚ができました
ほづみ
恋愛
内向的な性格なのに、年齢と家格から王太子ジョエルの婚約者に選ばれた侯爵令嬢のサラ。完璧な王子様であるジョエルに不満を持たれないよう妃教育を頑張っていたある日、ジョエルから「婚約を破棄しよう」と提案される。理由を聞くと「好きな人がいるから」と……。
すれ違いから婚約破棄に至った、不器用な二人の初恋が実るまでのお話。
他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる