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真実③
しおりを挟む帰りの馬車の中でも、エイドスは行きと同じように足を組み腕を組んでいた。
「ナセルには一ヶ月後に帰国する。それまでにここで、やり残したことをやっておくといい」
まるで先のやり取りなど無かったかのように、エイドスは言う。
「何もお聞きにならないのですか?」
「空白の記憶の真相が分かって良かったな」
「オリアーナ様の話で思い出しました。私は確かに、男たちから暴力を受け死にました。生きている筈が無いんです」
「女神の力だろう」
「まさか」
「お前も薄々気づいているだろう。冬の川に入ったなら、どんなに鍛えている男でも暖を取らなければ死ぬ。それにその金の瞳。医師によれば強い衝撃を受ければ目の色は変わるそうだが、そんなに見事な金色はあり得ないそうだ」
エイドスの言っていることは間違っていない。そうとしか説明がつかなかった。エイドスが真相を突き止めたかったのは、女神による奇跡を裏付けたかったからなのかもしれない。
金の瞳に女神の使徒であるという付加価値がついた女を伴って帰国すれば、ナセル国でのエイドスの立場は強いものとなる。それを期待しているのだ。
「殿下も…私で身を滅ぼすかもしれませんよ」
「あんな馬鹿と同類に思われたくないな。それにお前は既に改宗した身。ディアナ教の信徒ではない。その上で女神がどう干渉してくるのか、見ものだな」
石に乗り上げたのか、馬車が大きく揺れる。座席に手をついて耐えていると、エイドスが手を伸ばして支えようとしてくれていた。
「殿下は…細やかに気配りなさいますね」
手を引っ込めたエイドスは、再び腕を組む。レイナルドの一件以来、両者の間には微妙な空気が漂うことが多かった。
「──一ヶ月のうちに、やり残した事をするといい」
「特にありません」
「懸想している男にでも会いに行ったらどうだ?」
突然、何を言い出すのだろうと思った。ソフィアは首を横に振った。
「私にそのような者はおりません」
「本当か?心に秘めている男がいるんじゃないか」
真っ先に思い浮かんだのは、あの人。既にソフィアの中で、遠い過去の人になっていた。
「──いいえ、おりません」
エイドスは細い瞳を更に細めて伺っていたが、何も言わなかった。
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