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心が離れるとき②
しおりを挟むレイナルドは、扉越しに耳をそばだてる。
──だめっ…!あぁっ!
紛うごとなき、あの女の声。艷やかな声を、レイナルドは一度も聞いたことが無かった。殺してやりたいほど憎んでいる女でも、王妃であった頃に自分に見せなかった一面を知って、レイナルドは怒りが湧いてきた。よほど男の薬が効いているのか、部屋に密かに焚いておいた麝香なのか。どちらにしろ、計略は成功している。
──っあ、やっ…!やめてっ…!やめてっ!
じっと聞かなくても聞こえてくる激しい声。レイナルドは扉から耳を離した。そして振り向く。後ろには武装した兵士達が控えていた。
「──目当ての奴らはこの中にいる。男は殺せ。女は、お前らの玩具にしていい」
扉を開ける。色で自分を嵌めたなら、同じ方法でやり返す。その為に催淫剤を飲ませた。これで自分は王に返り咲きだ。王になってから、ゆっくり女をいたぶって殺してやる。それは直ぐに果たされると思っていた。
扉を開ける。膨らんだシーツを認めて、レイナルドは口端を吊り上げた。
「クインツ国を蹂躙する賊共め!レイナルド王がお前らに天誅を下してや──」
───パンッ
一発の乾いた音が響き渡る。肩に痛みが走る。一瞬間、視界が空白になり、気づけばレイナルドは仰向けに倒れていた。
「………は……?」
何が起こったのか分からなかった。体を起こそうにも、肩の痛みが強くて動けない。レイナルドは苦痛に顔を歪めた。
「…はっ、あ!い、いたいっ!なんだ…!?」
コツ、と足音がレイナルドに近づく。顔のすぐ近くに、靴の踵が落ちる。レイナルドは見上げた。
「無様だなぁお前」
男が満面の笑みで見下ろしていた。この男は、紛れもなく第二王子、エイドスだった。
「な、何でだ!?お前ら!何で動かない!!」
兵士たちは呼びかけに応じなかった。レイナルドが振り返った時のまま、兵士たちは整然と並んだまま、全く動いていなかった。
「俺が命じているんだぞ!クインツ国王がお前らに…!」
「まだ分からないのか?めでたい頭だな」
「け、計画は…!」
「計画?ああ、うまく行った」
エイドスが膝をつき顔を近づける。二人だけしか聞こえないように囁く。
「レイナルド元国王に謀反させるっていう計画がな」
男の囁きに頭が真っ白になる。馬鹿な。そんな筈は。
「レ、レオン…レオンが」
この話を持ち出したのは、弟のレオンなのに。レオンが、今のナセル国の支配に嘆いて、もう一度王になって欲しいと言ってきたのに。
「お前の弟は優秀だな。王である自分の地位を盤石とするためには、火種は潰しておく。お前よりも王らしい」
「馬鹿な!アイツは王になどなりたくなかったと!」
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かちゃり、と音がする。銃口がこちらに向けられている。レイナルドは半狂乱になって、逃げようとする。が、撃たれた肩を踏まれて、激痛が走る。
「あああ!嫌だ!死にたくない!」
死にたくない。もう一度言おうとした頃には、視界は真っ黒になっていた。
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