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新たな災い③
しおりを挟むやって来た衛兵が槍を鳴らし、エイドスに挨拶する。エイドスは目だけを下に向けて、オリアーナを示す。
「慮外者だ。獄へ送れ」
「え!?…わ、私はただ、レイナルドが病だというから、た、嘆願に来ただけで」
「愛する我が妻に刃を向けておいて何ほざいてる。けたたましいのと馬鹿なのは兄弟一緒か。後で舌を切っておけ」
「い、いやぁ!!やめて!」
オリアーナを拘束し、引きずるように連行していく。泣きわめきながら、オリアーナは暴れた。
「いやぁ!いやぁ…!」
部屋の外でも、オリアーナの悲鳴は聞こえた。あれでは王宮内に響き渡るだろう。ナセルに刃向かったら王族でも処罰される。自ら見せしめを買って出ているようなものだ。
侍女たちが入ってくる。リビアの方は泣き出しそうな顔でソフィアに駆け寄る。
「アン…ソフィア様!お怪我は!?」
「大丈夫。ありがとう」
もう一人の侍女が、ショールをかけてくれた。同じく礼を言うと、何事も真面目な彼女は、深々と頭を下げて礼を返した。
少し離れて立っているエイドスに声をかける。エイドスは立ったまま、ソフィアの飲みかけの紅茶に口をつけていた。
「エイドス様、オリアーナ様の舌など切らないでくださいまし」
「蛮族らしい罰だろ?」
「自国をそう卑下するものではありませんよ」
「お前なぁ…あのままだったら死んでたぞ。俺がたまたま入ったから良かったものの」
「それについては感謝しております。オリアーナ様は、病の前王に医師を派遣するよう嘆願にいらっしゃいました。私からも、医師の派遣をお願いします」
「既に医師には診てもらっている。回復に向かってる。あの女が何か勘違いして先走ったんだろう」
「…そうでしたか」
「美味いなこの茶」
話は終わりとばかりにエイドスがカップを掲げる。ソフィアも同意する。
「リビアが淹れてくれました」
「良い侍女だな」
「ええ。本当に。…リビア、エイドス様に温かいものを作ってくれますか?」
リビアは直ぐに、と部屋を辞する。エイドスが座ったので、ソフィアも隣の椅子に腰掛けた。すかさずエイドスがソフィアに口付ける。いつも突然で、ソフィアはその度に緊張して、終わってもずっと続いて落ち着かなくなる。今も、心臓がうるさく鳴り響く。
「…侍女の前では、止めてください」
「お前は二度目だが、俺は初婚だ。新婚を満喫しておきたいのさ」
ソフィアはちらりと一人残っている侍女に目を向けた。ロスという名の同じ年くらいの彼女は、ナセル国の者だ。エイドスと同じく浅黒い肌に黒髪。この国の言葉が慣れないのか、無口でいることが多いが、こまごまと働いてくれるので助かっている。
その侍女は俯いて見て見ぬふりをしてくれている。だとしてもソフィアは恥ずかしくてたまらなかった。
そんな心情を知ってか知らずか、エイドスは舌打ちする。
「ロスは武術に長けている。護衛としてソフィアの元に置いておいたのに、役立たずめ」
「ロスを責めないでください。王族に人払いと言われたら従うしかありません」
「本当に人払いさせるなよ。次からはベッドの下にでも潜ませておけ」
「そうですね…そうさせてもらいます」
今日のような事は早々には起こらないだろうが、警戒するに越したことはない。王宮内では元王妃の自分が、ナセル国の王子の妻になった話は浸透している。明らかな非難は今日が初めてだが、他の貴族たちの間でも同じ思いの者はいるだろう。非難が起こるのは分かり切っていた。それは構わない。だが新たな争いの火種となるのは避けたかった。だから隠れるように過ごしてきたのに。
「王族が次々と投獄されては、クインツ国内の反感を買います。どうか寛大な処置を」
エイドスは意地悪く微笑む。口出しするなと言うことなのだろう。ソフィアは諦めて、新たな紅茶が来るのを待った。
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