【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。

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新たな名前

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 子供が去った頃を見計らって部屋に戻る。よほど楽しかったのか、アンは笑顔のままだ。

「子供が好きなんだな」
「慕ってくださるから、私も嬉しくなります」

 でも、と笑顔が消える。

「ふとした言葉やしぐさがレイナルド様にそっくりで、成長したら同じことをしでかしてしまうのではと、恐ろしくなります」

 確かに。見た目もさることながら、一つのことに夢中になりすぎるきらいがある。今のうちにしっかり教育させておかなかればならない。

「あの子供はまだ猶予がある。それより、お前のことなんだがな。名前を変えようかと思うんだが」
「私の?」
「かつてのアン王妃だと知られたら、非難が出るだろう。名前を変えて、目眩ましとしたいんだが」
「王妃の身分だった私を妻とすることで、この国に知らしめたいのでは無いのですか?」
「知らしめるのは王宮だけでいい。民衆が知る必要は無い」
「…そのようなお考えなら、殿下に従います」

 エイドスの話は建前だった。グレンに少しでもアンが王宮にいると知られるのを遅らせる為だった。
 
「で、何か候補はあるか?」

 アンは胸に手を当て、考える素振りを見せる。

「──アニー…」
「アニー?」
「駄目でしょうか」
「あまり貴族向きの名ではないし、本来の名前と似ている。他のにしろ」

 口を閉じたまま、何も言わなくなる。そんなに考えつかないものだろうか。

「もういい。ソフィアはどうだ?」
「ソフィア…」
「知恵という意味がある。お前らしい名だ」
「女神の名前ですね」
「そうなのか?」
「聖域に住まう女神の名前です。そんな大層な名前、いただけません」

 なら他のに、と言いかけて止める。

「いや、それで行こう」
「殿下」
「金の瞳だ。俺からしたらお前は女神だ。女神の名がよく似合う」

 親指の腹で、アンの目の下を撫でる。金の瞳が細くなる。どうにもこの女の表情は乏しい。感情をあまり表に出さないのは、そう教育を受けたからだろう。
 エイドスの手に、アンの手が重なる。

「続きを、なさいますか?」

 熱烈な誘いにエイドスは喉の奥で笑った。アンの額に口づけする。

「ここまでにしておく。ガキの子守りで疲れたろう。よく休め」
「お疲れなのは殿下でしょう。ご多忙のはず。私は寝てるだけですから、お気遣いなく」
「早く回復して貰わないと困るから言ってるんだ。お披露目も出来ない」
「すみません…努めます」

 ソフィア、と呼んでみる。直ぐに返事が帰ってくる。
 名を与えた。後は身体を手に入れる。心までは求めない。それが自分の優しさだと、本気で思っていた。

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