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教会にて①
しおりを挟むそのまま埋葬するには忍びなく、連れて帰った。近くの教会に事情を話し、棺桶を用意してもらう。幸いこの教会には修道女がいた。アニーを送るための世話を任せる。身体を拭き上げまともな衣服をまとった彼女は、ただ眠っているだけに見えた。
埋葬は明日に行われる。安置室の棺桶で眠る彼女を見つめながら、せめてと死者を送る言祝ぎを唱える。彼女が迷いなく神の身元へ行けるように、祝いの言葉を並べる。この国でない、異国の言葉だが、同じ宗教だ。効果は変わらないと願う。
モリスが入ってくる。彼も短く死者への言葉を紡ぐ。
「綺麗な方ですね」
モリスがそんなことを言うのは珍しかった。大昔に亡くなった妻を唯一愛し続けている彼は、それから浮ついた話一つもなく独り身で過ごしている。
もしかしたらその妻を重ねているのかもしれない。
「この方の瞳は、どんな色をしているんです?」
「青だ。宝石のように透明感があった」
「若い身空で、悲しいことです」
「モリス、先に休め。老体には厳しい日だった」
モリスはなんのと肩を回してみせたが、空元気なのは明白だった。直ぐに止めて、部屋を出ていった。
改めてアニーを見やる。たっぷりとした金髪、絹のような白い肌、細い顎に小さな唇。手を組んだ指先はほんのり赤みが差しているように見えた。
美しい顔だと言えた。会うといつも彼女は憂いを帯びた表情をしていた。あんな冷たい冬の川にいたのに、今の表情は穏やかだった。
何者だったのか。もう分からない。
せめて髪を拝借しようと小刀を取り出す。一房手に取ると、何か違和感を感じた。
「………?」
指が、動いたように見えた。さっき見た時から僅かに動いているかのような気がした。
胸が上下しているような。いや、気の所為ではない。彼女は苦しげに呻き出した。
「アニー…?」
「…っあ…は…っ…」
見ているものが信じられなかった。生きている。慌てて手を握る。死人と変わらない冷たさだった。寒いのか震えていた。
「アニー…!おい、アニー!」
彼女は咳をしだした。横に向かせて背中をさする。肩が震えていた。咳よりも先に暖を取らせるべきだと判断して、抱き上げる。温かな部屋を目指して上の階へ駆け上がった。
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