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苛立ち②
しおりを挟む廃したその日に彼女は王宮を離れた。身一つ、たった一人で、使用人用の出入り口から出ていったという。
泣いて詫びれば、王はアンを許す気でいた。アンの父親は外務卿。こたびの戦争で敵国との領土の交渉を任せていたから、王にとっては必要な存在だった。
なのにあの女は、顔色一つ変えないで取り乱しもせずに、何の未練もなしにあっさりと去っていった。主のいなくなったアンの私室には全ての物がそのまま置かれていた。王が王太子だった頃に贈ったエメラルドの首飾りもそのままだった。
怒りが湧く。あの取り澄ました顔。人形のように動かない表情。淡々とした物言い。なにより、それが自分にだけの態度であると知って以来、王はアンを嫌悪してきた。
他の大臣や女官たちと話すときは、比較的、表情を見せる。微笑みを気軽に見せる。なのに相手が自分になると、氷のような冷たい態度を見せる。腹が立って仕方がなかった。
報告を聞き終えて自室に戻る。寝室へ向かうと、リディアはまだベッドで眠っていた。
王はベッドに座り、リディアに口づけをする。すると腕が伸びて首に絡みつく。
「まぁ陛下、もう報告会は終わりですか?」
「つまらん話ばかりで切り上げてきた。金が無いと言うから財務長官を罷免してやった」
「あら?でしたら私、アテがありましてよ。計算に詳しいものを知っておりますの」
「そうか、ならその者を後釜に据えよう」
リディアの笑顔が、王にとって慰めになった。何もかもが正反対の女。もう一度口づけをする。そのままベッドに沈み込んだ。
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